第十六話 弱点
敦が考えた訓練内容は、1日目 弱点の克服、2日目 2人連携攻撃、3日目 3人による連携攻撃の試行であった。
敦が思う蓮の弱点は、攻撃の威力が低いこととみていた。いざというときの一撃必殺の技をもっておかないとなかなか勝負がつかず、もし敵が多ければ長期戦になり消耗戦となる可能性があることを指摘していた。
それは、蓮もよくわかっているようで、致命的なダメージを与えられる技を考案することを課題とした。
俺の弱点は、サイコキネシス能力が乏しく、起動力の無さだった。その場に突っ立ったままの攻撃では、敵が間断なく連弾で攻撃してきたとき、防ぎきれない。また、爆発力も瞬時には出せず、ほんの数秒の時間を要する。数秒ではあるが、戦闘ではその数秒が命取りだという。
敵の攻撃を瞬時にかわしつつ、的確にポイントを狙って爆発させなくてはいけない。回避の際は、やはり空中へ逃げられることも選択肢にあるとよいことや、大爆発の際は、自分自身を巻き込まないようにスピードあるその場からの避難が必要であることから、どうしてもサイコキネシスを使った自分自身のコントロール力の向上が課題だった。
まず、俺たちは蓮の課題から取り組むことにした。
一通りの蓮の能力を改めて披露してもらう。変身、拘束力も強くコントロールされたサイコキネシス、炎の柱を出現させるほどの威力をもったパイロキネシス、巨大化・液体化・気化・透明化・硬質化する体系変化。
俺は、蓮が次々と繰り出す能力を眺めながら一つ思いついて、提案してみた。
「蓮自身が、武器そのものになるってのはどう?」
蓮と敦が、ハッとした表情を見せた。
「例えば槍に変化して、極限まで硬質化して、サイコキネシスで動きをコントロールして、敵の体を貫通させたり、後は、複数のクナイに変化して、クナイの雨を降らしたり。無数の刃を空中に浮かべて、刃の嵐に巻き込むのもカッコいいかも!!!
しかも硬質化の上、さらに透明化までできたら、もう無敵じゃない? 避けられないと思う! 」
俺は、漫画の読みすぎかもしれないが、今目の前で漫画のような状態が繰り広げられているので、アイディアはどんどんお借りすることにした。
「蓮、ちょっと待ってろ。俺が今からある程度の硬さを持った岩人形作るから、そいつを硬化で破壊してみろよ。」
そういうと、敦は、外の土からモコモコ人型の岩の塊を出現させた。
「固さやこいつの動きは俺がいくらでも調整できるからよ。明日の二人連携のときもこれ使うからな。」
蓮は、ふっと体全体をジェル化させ、大きな太く長い一本の槍の姿になった。
その姿で、岩人形へ一突きに向かっていったが、硬化が足りずに、槍が折れてしまった。
その瞬間、槍がゲル化しまた一つに融合し、ふっと蓮の姿に戻った。
「全然、硬質化が足りなかった。体全部を硬質化させると感覚がわからなくなるかも。
ちょっと右手だけ硬質化を極度までしてみる。」
そういうと右手が一気に金属の鋭い刃に変化した。
集中してその硬度を上げる。
極限まで上げきって、サムライが刀で相手を切り倒すように、右手を大きく振り上げて、岩人形を上から下へ切り裂くと、見事に岩人形は斜めにすぱっときれて、崩れ去った。
「もう少し、硬度あげるぜ。」
敦がすぐさま、壊れた岩人形を作り直す。
さっきは、黄土色だった岩人形が、灰色に変わった。
その岩人形もあっさり切り崩した。
それから徐々に硬度をあげていったが、蓮の硬質化した刃の威力は相当なものだった。
蓮は、硬質化のコツをつかんだらしく、あとはその状態を保ちながら、分散化と全体化をやり、最終的には透明化までもっていきたいとのことだった。
さすが、蓮である。飲み込みも早ければ、上達も早い。
蓮のことだから、すでに理想形が頭に描かれており、それを実現させるのはもう確実だろう。
次は、俺の番だった。
サイコキネシスの強化。ひとまず空中浮遊の状態を保てるように意識を集中させることから始めた。
1時間くらいがんばってみたが、どうしてもできないでいた。
蓮も敦も根気強く、コツやらなんやら手取り足取り教えてくれたのに、できる気配がなかった。
そんなとき、敦が何も言わずに突然、俺の体を宙に浮かし、2m、3m・・・と上に上に空中移動させていった。
最終的には、地上15mくらいのとこまで引き上げられた。
こんな高さまで浮遊したことはなかったので、正直恐ろしかった。
「なっ・・・なにするんだよ!!!」
俺が慌てて、ジタバタしながら下の二人に向かって悲痛な叫びをあげた。
敦が大きな声で叫ぶ。
「今から、そこからお前を落とす。
自分の力で止めて見ろ。」
「えええええええええ?!!!!! いきなりそんなっ!!!無理だよ!!! 」
俺は、めちゃめちゃ焦った。コントロールできなかったら死んでしまう!
蓮が心配そうな顔で、俺と敦の顔を交互に見ている。
「俺たちは助けないぞ、必ず自分でなんとかするんだ。
こんなことに、もし出くわしたらどうするんだ?
何もできないまま、地面に叩き付けられて、ゲームオーバーか? 」
敦の声が厳しい。でも言ってることは正しい。
「落とすぞ。」
そういった瞬間、俺を宙に浮かしていた力が消えた。
俺は真っ逆さまに落ちていった。
時間にして、2秒ちょいぐらいだっただろうか。
俺には永遠に思えるほどの長さだった。
死の直前ってこんな感じなんだろうか。
「とまれ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!」
俺は、叫んでいた。
顔が床に着く直前で、さかさまの状態で止まった。
「止まった!!!」
俺は、ゆっくり体をもとにもどして、辺りを見回した。
敦も蓮も微動だにしない。
表情も固まったままだ。
蓮は、危ないという顔をして、右手を出した状態で固まっている。
俺のサイコキネシスが初めて、成功したのに、二人はなんのリアクションもない。
どうも様子がおかしい。
俺は、恐怖で呼吸が止まってしまってたんだが、俺が呼吸始めたら、
突然二人とも動き出して、地面にふつうに着地している俺を見て、
「おおお、うまくいったのか。
ん? いつのまにやったんだ?? 」
と二人ともひどく驚いて、戸惑っている。
「見てたでしょ!! 俺が真っ逆さまに落ちて、地面に激突寸前に、止まってさ。
体をコントロールして、着地できたのを! できたぜ、サイコキネシスで!!!」
「??? 」
二人ともきょとんとしている。
「いや、俺が見たのは、壮君が落ちてく瞬間だけ。
次の瞬間には、もう着地してた・・・。」
「・・・時間停止だ・・・。」
敦がつぶやいた。
「え?! 」
俺は、聞き直した?
「壮のやつ、時間止めやがった。」
敦が、ニヤリと笑った。
「すごい! すごいじゃん! 壮君!
その能力は、使いようによっては無敵! 爆発力との組み合わせでも最強だし。
なんでも回避できるし!」
蓮が珍しく興奮している。
俺は、呆然としていた。
あの、瞬間俺は時間を止めていたのか。
自分以外のすべての時間を止めていた??
だから、みんなが固まっていたのか・・・。
でも・・・何か制約があったような・・・・。
みんなが動き出したとき、つまりは時の動きが再開した瞬間、俺は何をしたか・・・・。
逆に時が止まっているときの俺の状態は・・・。
――― 呼吸だ!!!!! 呼吸を止めている間だけ時間を止められる!
「どうしたの? 壮君? 」
蓮が心配そうに声をかけてきた。
「あ、ごめん。突然の能力発現に、戸惑っちゃってさ・・・。
今思い出してたんだ。
この能力の発現には条件があって、何時間でも止めれるわけじゃなくてさ、
俺が、止まれって念じると同時に、呼吸を止めている間だけ時間を止められるんだ!」
「条件つきか・・・。なるほど。てことは訓練次第では、3分くらいいけるってことか・・・。」
敦が、驚きながら目を輝かせる。
「う・・・うん。今のおれだと、30秒もつかってとこだけどね・・・。」
「ちょっともう一回、止めてみろよ。止めたことがわかるように、俺らを動かしてみろ。」
敦の言葉に、俺は「オッケー」と返事をして、意識を集中して、「止まれ!!」と念じると同時に息を止めた。
その瞬間、無音と完全停止の世界が現れた。
敦は腕組みとして、こちらを見たまま固まっている。
蓮は、敦のとなりに立ったままこちらを見ている。
俺は、息の続く限りで、二人を動かすことにした。
ひとまず、敦をなんとか床に倒して、寝そべらせた。
そして、蓮はがんばって、時を止めた状態でサイコキネシスを発動して、
体育館の一番端っこまで移動させた。
もう、苦しくて苦しくて仕方なかったけど、必死でやった。
はぁ!!!!!
とおもっきり、息を吸い込んだとき、
二人の「えええええ?!!! 」という驚きの声が体育館に響き渡った。
「俺、寝てるし。」敦が爆笑している。
「俺、めっちゃ遠くにやられた。」蓮が体育館の端っこで、笑っている。
「結構、息止めながらの作業って、マジ地味に大変!!!
だーれも助けてくれないから、ぜーんぶ一人でやらないかん。
しかも、息しちゃったら終わりだし、結構リスキーな技かもしれん・・・!」
俺は、肩で大きく息をしながら、蓮にも聞こえるような大声で叫んだ。
「いやー、時を止めるなんて、俺、いままで聞いたことないし。
かなりの大技だから、それなりに制約あるんでしょ。にしてもマジすげーわ。
一か八かの賭けだったけど、壮を落としてみてよかったぜ。
やっぱ、感情の極限状態までの高ぶりが発現のポイントなんだな~。」
敦が、床から起き上がりながら、感心したように話している。
蓮もすぅーーっと体育館の端から、飛んできて、うんうんとうなずいていた。
「なんかカッコいい技名考えたい。」
「はぁぁ??必殺技の名前叫ぶの??恥ずかしくね??」
敦が、ゲラゲラ笑う。
「だって、止まれ~~~じゃあまりにも単純ていうか、それこそカッコ悪いってか。
やっぱ、必殺技を口に出さずとも、その言葉を念じれば、技発動のほうがいいじゃん!」
「・・・なるほど。」
蓮が、合点がいった顔している。
「技を発動させる一連の動作を体に覚えこませて、技名を念じるだけでその動作に入れるってのは、いいかもしれない。必殺技をよく漫画とかで叫んでるのってそういう意味があったのか・・・。」
敦も蓮が話す内容を聞いて、ようやく納得したらしい。
「大きな技のときは、技名つけとくのも手かもな。
早い話、発動までに集中力のいるやつとか。技名念じたり、口にするだけでそのゾーンにすっと入れるんなら、効果絶大だな。」
「やべー、なんにしよう!! 超カッコいいやつがいい!」
俺は、ちょっとテンションがあがった。
敦がそんな俺を見て、笑う。
「ちゃんと、技が発動するようにしろよ。長たらしいやつとか逆効果だぜ。」
「時を止める能力といえば、ジョジョの奇妙な冒険からいけば、「ザ・ワールド」ディオのスタンドか。」
蓮がぼそっとつぶやく。
「時間操作と爆発ってどっかで聞いたことあるって思ったら、まどかマギカのほむらちゃんだ!!」
俺は、思い出してはっとした。
どうやら、自分が見てきた漫画やアニメに能力発現が影響を受けているらしい。
ん~~~なっかなかいい技名が思いつかない。
「バルス」
敦がふざけながら言う。
「それ、崩壊の呪文だから。」
蓮がすかさずツッコむ。
「だめだ、思い浮かばない。ネーミングセンスゼロだけど、もう単純に『時間停止』でいいや。」
アハハハハ
俺のあまりの単純な命名に二人が爆笑している。
「じゃあ、俺のさっきのやつも『硬化』にするよ。
んで、武器化のときは『スピア』、『クナイの雨』、『刃の嵐』にする。壮君が言ってくれたとおりの技名だけど、シンプルでいいかも。」
蓮も俺のに賛同して、あっさり技名が決まった。
「よし!! じゃあ、それぞれさらにその技を磨いてけ!
蓮は、硬化と透明化と分散化の個人練習。壮は、もうちょっとサイコキネシスを俺と訓練するぞ。」
「はい!!!」
二人同時に、返事をした。
訓練は、夜7時まで続いた。
なんだか少年漫画の世界にいるようで、楽しい。
命をかけた戦いのための訓練だというのに、俺はちょっとだけこの時間がもっと長く続いてほしいと思ってた。




