第十七話 警告
個人技の訓練は19時で切り上げて、俺らは夕飯づくりに取り掛かった。
下ごしらえをしていたので、あとは材料ぶっこんで、煮込み、米を炊くだけであった。
カレーのいい匂いがただよってくる。
「やべー、腹減った。俺飯食う前に風呂行ってくる。」
そう言い残して、敦は部屋へ戻っていった。
「順番に入ろう。敦の次は壮君入りなよ。その間に俺、料理支度を終えておくから。」
「ありがとう! 蓮、お母さんみたいだ。」
アハハ と蓮が笑う。
「もう2年近く一人暮らししてるからね。全部自分のことは自分でやらないといけないし。
所帯じみてるでしょ。こう見えて、ちゃんと家事やってるんだよ。」
「いやー、今時の男子としては、家事くらいちゃんとできないとやっぱダメでしょ!
って、何もできない俺が言うのもなんだけど。俺も今度からちょっとだけ料理には挑戦してみよかな!」
うんうんとうなずいて、蓮がにっこり笑う。
「そういえばさ、明日、敦の叔父さんがくるじゃん。
俺、敵の詳細について聞くのはもちろんだけど、やっぱ森さんの情報も聞きたいんだよね・・・。
もう今のままじゃ、手がかりなさすぎてさ。
探しようがない・・・。
もし、もし万が一でも捕らわれた状態で、生きている可能性があるなら・・・。
早く救い出してあげたいんだ! 」
俺は、あの日からずっと森さんのことを考えている。
でも、何もわからないし、向こうからの襲撃もないので、手の打ちようがなく、もどかしい思いをしていた。
「そうだね・・・。まだ、希望は捨てたくないよね。
ネフィリムのこともレプタリアンのこともまだまだよく知らないことが多いもんね。
敦自身が、ネフィリムでありながら、全くかかわってないみたいだし。
首謀者の父親のことは、あまり話したがらないしね。
まあ、敦が俺らベガ種の味方をしていることが、父親にばれたらそれはそれで立場的にマズイとは思うけど。
叔父さんって人が本当に頼みの綱だね。
もし、敵側に近い存在でありながら、こちらの味方をしてくれるなら・・・。」
「スパイか~・・・。」
「簡単にいうとそうだね。敵側に通じつつ、俺らに情報流してくれれば・・・。
ずいぶん戦いやすくなるだろうに・・・。
明日の叔父さんとの話によっては、俺は両親とベガ種の同胞達ともコンタクトをとって、情報を流してみるつもり。」
そこで、蓮はいったんくちをつぐんだ。
「ん? どうしたの? 蓮君? 」
蓮が、ためらいがちに口を開く。
「もし・・・、叔父さんって人が・・・、敵のスパイだった場合・・・。
俺らは全滅の可能性もあるんだ・・・。」
「そっ!そんな・・・、敦の信頼してる人だよ!
そんなわけ・・・。」
俺は、また森さんを思い出した。
仲間だと思ってる人が、一瞬で敵に変貌する様を。
でも・・・、あの敦が信頼して、俺らにあえて引き合わせようとした人だ。
敦は賢い。人を見る目はあると思う。
あの男の中の男の敦が、選んだ人だ。
俺は、信じる価値はあると思った。
「蓮君。心配するのはよくわかるけど、ひとまず今は、乗っかってみるしかないよ。
敦の叔父さんしか今のところ、確実な情報源はなさそうだし。
何よりもあの敦があれだけ信頼してるみたいだし。
両親達に話して、敵に総攻撃を加えるのはだいぶ先になると思う。」
俺は、不安げな蓮をなんとか励まそうとがんばった。
「そうだね。壮君の言う通りだ。敦を信じる。それしか今はない!」
蓮は、ニコっと笑い、不安を払拭したようだ。
そのとき、風呂場から「あがった~~~!次の人どうぞ~~!」という敦の大きな声が聞こえた。
「俺が次、入る~~~!!」と返事をして、俺は部屋へ戻った。
俺と蓮の風呂が終わり、みんなで作ったカレーをほおばる。
3人とも「美味い!!!!」と目を輝かせて、がっついた。
夜も更けて、疲れ果てた俺たちは結構早めに寝ることにした。
修学旅行の夜のようないつまでも寝ないでワイワイしたかったが、体力がさすがに持たなかった。
明日は、二人組での連携攻撃演習だ。
俺は、自分の能力と蓮と敦のそれぞれの能力を合わせたときにどんな威力があるのか、想像しているうちにいつのまにか眠ってしまった。
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真夜中、俺は女の子の泣く声が聞こえてきて、目を覚ました。
体を起こして、泣き声の聞こえるほうを見る。
それは鏡の中だった。
「も・・・森さん!!!!!!!」
俺は、ベッドから跳ね起きて、鏡の前に行く。
森さんが、涙をポロポロ流しながら、俺の方を見ている。
手を伸ばして、俺に触れようとするが、鏡が隔てていて、触れられない。
俺は、鏡に向かって叫ぶ。
「森さん!! 今どこにいるの!!
生きてるの?! どっかに捕らわれているの?!!! 」
森さんは、相変わらず泣いている。
「・・・タ・・・ス・・・ケ・・・テ・・・、」
森さんの唇の形が、ずっとそう言ってる。
声は聞こえないけど。
泣きながら、助けを呼んでいる。
森さん!! 森さん!!
助けるから! どこにいるの? 教えて!
森さんは、指でバツ印をして、「キ・・・ヲ・・・ツ・・・ケ・・・テ・・・」
と何度も言っていた。
「どういう意味?!
その×印って、なんなの?!森さん! 森さん!!!」
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「―― 壮君! 壮君!」 「おい、壮!!!起きろ!!!」
はっと目を覚ますと、俺は鏡の前に立っていた。
鏡には、俺と心配そうに見つめる蓮と敦がうつっていた。
「も・・・森さんは?? 」
「寝ぼけたか、夢でもみたのか・・・。お前ずっと鏡に向かって、叫んでたぞ。」
「だって、森さんが・・・森さんが鏡の向こうにいたんだよ!
『助けて』って泣いてたんだ・・・。なんか俺に訴えたかったみたいで・・・。」
「壮君。夢みたんだね。鏡には森さんは映ってなかったよ。
でも、もし森さんが生きてたとして、強い思いが壮君に届いてたんだとしたら・・・。
夢とはいえ、重要なメッセージになりえるかも。」
俺は、呆然とした。
夢なのか・・・?! ほんとに?!
こんなに鮮明に覚えているのに。
森さんは、必死に俺に何かを伝えようとしていた。
「森さんが、夢の中で指で×印を作って、気を付けろって言ってたんだ・・・。
×印の意味はわからない。
森さんが、何か俺たちに警告してくれてるような気がする。」
「×印って・・・なんだ?? 」
敦も蓮も×印の意味合いで思い当たる節がないか検討しているようだ。
「バツ・・・X・・・禁止事項・・・やっちゃだめ?? 気を付けろ。
ん~~~、だめだ、思いつかねぇ。×印に心当たりねぇわ。」
しばらく考えていた敦が、首を横に振りながら、あきらめた。
蓮も同様のようだった。
「ちと明日から警戒を怠らないようにしよう! 何か襲撃があるかもしれん。
森さんが生きてるのか不明だけど、壮が見た夢は手がかりとして重要かもな。
ひとまず、今日はもう寝るぞ。」
敦が促し、俺たちはまた床に就くことにした。
俺は、すぐには寝れなかった。
自分の指で、×印を作って、それを眺めてみる。
一生懸命考えたけど、答えは残念ながら出なかった。
森さん・・・。
君が残してくれたメッセージ、無駄にはしない。
何かが起ころうとしているんだよね・・・。
俺は、ずっと森さんのバツ印と涙が頭から離れないまま、また眠りについた。




