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第八話 金の行方

 翌朝。


 玲は新聞社に着くと、昨日集めた資料を机の上に並べた。


 田辺について調べて分かったこと。


 坂本と田辺は、以前からこの街で顔を知られていた。


 二人はある時期から、急に羽振りがよくなった。


 そして、その後。


 金のことで揉めていた。


 さらに調べていくうちに、玲は一つの古い事件を見つけていた。


 数年前に起きた、宝石強盗事件。


 犯人は捕まっていない。


 盗まれた宝石も、すべては見つかっていなかった。


 玲は二つの資料を並べた。


 宝石強盗が起きた時期。


 坂本と田辺が急に金を持つようになった時期。


 大きく離れてはいない。


「……近いな」


 玲は小さく呟いた。


 偶然なのか。


 それとも――。


 玲は椅子の背にもたれた。


「……なんで、二人は宝石強盗なんてしたんだ?」


 ただ金が欲しかった。


 それだけなのか。


 それとも、何か別の理由があったのか。


 考えても、まだ答えは出なかった。


 玲は資料をまとめた。


 その時だった。


「何を調べてるの?」


 声をかけられて顔を上げる。


 ミナだった。


「えっと……」


 玲は机の上の資料を見た。


 隠すようなことでもない。


 玲は、今まで調べてきたことをミナに説明した。


 坂本と田辺のこと。


 二人が急に金を持つようになったこと。


 その後、金のことで揉めていたこと。


 そして、その時期の近くに起きていた宝石強盗。


 ミナは黙って話を聞いていた。


「面白そうね」


「はい。けど……」


 玲は少し迷ってから続けた。


「二人が急に金を持つようになった時期と、昔の宝石強盗の時期が近いんです」


「宝石強盗?」


「数年前にあった事件です」


 ミナは資料に目を落とした。


「それと坂本たちが関係してると思ってるの?」


「まだ分かりません」


 玲は首を横に振る。


「ただ、時期が近いので」


「なるほどね」


 ミナは少し考えてから言った。


「でも、時期が近いだけなら、まだ何とも言えないね」


「そうですね」


「調べるなら、ちゃんと裏を取ったほうがいいよ」


「はい」


 玲が頷くと、ミナは少しだけ笑った。


「玲は一つ気になると、そこに集中しすぎるところがあるから」


「そうですか?」


「そうだよ」


「気をつけます」


「まあ、記者としては悪いことじゃないけどね」


 ミナはそう言ってから、少しだけ真面目な顔になった。


「あと、自分の命が一番大事だからね」


「はい」


 玲は素直に頷いた。


「無茶はしません」


「ならいいけど」


 ミナはそれだけ言うと、自分の席へ戻っていった。


 玲はその背中を少しだけ見ていた。


 そして、再び資料へ視線を戻す。


 宝石強盗。


 坂本。


 田辺。


 そして――。


 黒鴉。


 玲は、榊原から聞いた話を思い出した。


 坂本は黒鴉の下っ端。


 だったら。


 黒鴉での坂本について聞けば、何か分かるかもしれない。


「……黒鴉、か」


 玲は立ち上がった。



「坂本について、もう少し聞きたいことがあります」


 榊原は玲を見ると、黙って煙草に火をつけた。


「何だ?」


「黒鴉での坂本のことを知りたいんです」


「黒鴉?」


「はい」


 玲は頷いた。


「分かってると思うが、金がいるぞ」


「はい」


 玲は迷いなく答えた。


 榊原は少し考えた。


「……分かった。知ってる奴を一人紹介してやる」


「ありがとうございます」


 しばらくして。


 玲は黒鴉の構成員と向かい合っていた。


「坂本について聞きたい?」


「はい」


「何が知りたい?」


「最近の坂本についてです」


「最近は会ってないからな」


「会ってない? なぜ?」


「いろいろあんだよ」


「いろいろとは?」


 男は少し考えた。


「……あいつ、組の金を使ったんだよ」


「組の金?」


「ああ」


「返したんですか?」


「返してねえ」


 男は面倒そうに答えた。


「最初に使った額は、そんな大した額じゃなかった」


「それなのに?」


「今じゃ、最初に使った額の何十倍もの金を払えって話になってる」


「なるほど」


 玲は少し考えた。


「坂本は、その金を必要としていたんでしょうか?」


「さあな。そこまでは知らん」


「分かりました。ありがとうございます」


 玲はそれ以上聞かなかった。



 黒鴉の男と別れたあと。


 玲は一人で歩いていた。


 頭の中で、これまでの情報を整理する。


 坂本は黒鴉の金を使った。


 返していない。


 そのせいで、今では最初の額の何十倍もの金を要求されている。


 そして。


 坂本と田辺は、ある時期から急に金を持つようになった。


 その後、二人は金のことで揉めていた。


 さらに、その時期の近くには宝石強盗が起きている。


 玲は足を止めた。


「……もし」


 宝石強盗で手に入れた金が。


 坂本が金を返すために必要だった金だとしたら。


 そして、その金を田辺と分けた。


 けれど二人は、金のことで揉めた。


 玲はゆっくり息を吐いた。


 まだ確証はない。


 けれど。


 バラバラだった情報が、少しずつ一つにつながってきている。


「……田辺は、坂本の居場所を知ってるかもしれないな」


 玲は田辺の住んでいる場所へ向かった。



 夜。


 田辺の住む建物に着く。


 部屋の明かりはついていなかった。


「……いないのか」


 玲はしばらく待った。


 しかし、田辺が戻ってくる気配はない。


 玲は時計を見る。


「今日は帰るか」


 そう呟いて、建物を離れた。


 その時の玲は、まだ知らなかった。


 田辺にもう一度話を聞く機会が、もう残されていないことを。

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