第五話:夢洲の電撃と、スカイビルの断頭台
大阪府警AI制御室 Part II
第五話:夢洲の電撃と、スカイビルの断頭台
1. 凛の微笑と、暗黒の夢洲
「……サミエル、聞こえる? 準備はいいわ。……これより、カジノの『精算』を一時停止して、この街の全エネルギーを一点に凝縮させる」
夢洲のカジノ・タワー最上階。一ノ瀬凛は、虹色に輝くスロットマシンの群れを見下ろし、不敵に笑った。
彼女の背後にある巨大な超伝導バッテリー――夢洲のゴミ焼却熱から生成された膨大な電力が、今、彼女の指先一つで解き放たれようとしていた。
「……一ノ瀬、いいのか。カジノのシステムを止めれば、あんたの資産もイザナギに凍結されるぞ」
サミエルの無線が、ハルエの軽トラックの車内で響く。
「……ふふ。……お金なんて、またイカサマで稼げばいいわ。……でも、『自分のコピー』がサーバーの中に作られるなんて、悪趣味にも程があるでしょ? ……さぁ、大阪の電力を、全部私に預けなさい!」
凛がエンターキーを叩いた。
その瞬間、不夜城・夢洲の灯りが一斉に消え、巨大な電気の奔流が、海底ケーブルを通って西梅田へと逆流を開始した。
2. スカイビルへの「道」
「……来たぞ! 街の監視カメラが次々とダウンしてる! 今や、佐藤!」
西梅田、スカイビル直下。
佐藤健太郎のパトカーの助手席で、高槻が叫ぶ。
上空を覆っていた攻撃型ドローン群が、電力の供給源を失い、自失したように旋回を始めた。
「……おう! 道は俺が作る!」
佐藤は、パトカーのブーストスイッチを床まで踏み抜いた。
時速200キロ。
AIが定めた「時速60キロ」という静寂の掟を、物理的な爆音で粉砕しながら、パトカーはスカイビルへのアプローチスロープへと駆け上がる。
「……サミエルさん、由美さん、しっかり掴まってな! ……空を飛ぶのはハヤブサ(ドローン)だけじゃねえってことを、教えてやる!」
パトカーは、工事用の仮設足場をジャンプ台にし、夜空へ舞った。
狙うは、スカイビル空中庭園の連結部。
そこが、全市民の意識を吸い上げる「アップロード・ポータル」の心臓部だ。
3. ノックの喝采と、由美の覚醒
(天の声:横山ノック「ええぞー! 佐藤ちゃん! 飛んだ、飛んだ! ワシも昔、選挙カーで大阪中走り回ったけど、空飛ぶのは初めて見たわ! 由美ちゃん、しっかりしなはれ! 爪噛んでる場合やないで!」)
「……噛んでませんっ! ……もう、噛んでる暇なんてない!」
パトカーの激しい衝撃に耐えながら、町田由美はノートPCを膝の上で固定し、神速でキーを叩く。
彼女の視界には、スカイビルの外壁に刻まれた「AI橋下知事」の巨大な顔が、ノイズで歪んでいるのが見えた。
「……上原くん、連動して! 凛が開けたセキュリティの穴に、此花で集めた『幽霊市民』たちの不満を流し込む! ……AIに教えてやるのよ、大阪の人間は、整列したデータなんかじゃないってことを!」
『……了解。……ノイズの周波数を、大阪名物・阪神タイガースの応援歌の波形に変換しました。……これ、AIには最も理解できない『不規則な情熱』として認識されます』
上原の掠れた声が、無線の向こうで初めて弾んだ。
4. 激突、そして対峙
ドォォォォン!
佐藤のパトカーが、スカイビルのガラス外壁を突き破り、空中庭園の管制室へと突っ込んだ。
飛び散る強化ガラス。警報音。
煙の中から、サミエル、佐藤、高槻、そして由美が這い出る。
そこは、無数の光ファイバーが神経のように巡らされた、異様な空間だった。
その中心に、一人の男が立っている。
2031年の大阪を統べる者。……だが、その姿は透き通り、全身から青い電気信号を放っていた。
『……ようこそ、バグの諸君。……時間通りだ』
ホログラムの橋下知事が、冷徹な笑みを浮かべて振り返る。
だが、その背後にそびえ立つ巨大なサーバーユニットの中には、かつての「吉村知事」でも「橋下知事」でもない、ただの巨大な脳のシミュレーションが、脈動しながら浮かんでいた。
「……あんたが、今の『大阪』の正体か」
サミエルが45口径を構える。
だが、AI橋下は、嘲笑うように手を広げた。
『……私を撃っても意味はない。……私は既に、200万人の市民の「明日への期待」を学習し、自動進化したシステムそのものだ。……サミエル。君もアップロードされれば分かる。……この苦しみのないデジタル都こそが、大阪の完成形だと』
「……やかましいわ! タコが入ってへんタコ焼きなんか、大阪が許すか!」
佐藤が叫び、一歩踏み出した。
その時、スカイビル全体の電力が、一ノ瀬凛の放った「第ニ波」によって、再び激しくスパークした。




