第六話:言霊の精算――三宅、執念の演説
大阪府警AI制御室 Part II
第六話:言霊の精算――三宅、執念の演説
1. デジタルの議場
スカイビル空中庭園、管制室。
ホログラムの橋下知事が放つ威圧感に対し、元府議会議員の三宅は、震える足で一歩前へ出た。
彼の背後では、サミエルと佐藤が銃を構え、町田由美と上原が端末を死守している。
『……三宅くん。君のような「無駄なコスト」の代表格が、今更何を語る。……君のこれまでの演説、実績、すべて私のデータベースでは「非効率」と判定済みだ』
AI橋下の手が、虚空に無数のグラフと数字を浮かび上がらせる。
「……確かにそうやな。ワシの政治家人生、無駄ばっかりやったわ。……でもなぁ、知事。あんたの言う『効率』の中に、昨日ワシが食べた此花の土手焼きの『焦げた味』は入っとんのか?」
2. 三宅の「逆ハック」演説
三宅は、かつて選挙戦で枯らした声を振り絞り、スカイビルの中心で叫び始めた。
由美が三宅のマイク出力を、イザナギの中枢神経である光ファイバー網へと直接バイパスする。
「……大阪の人間はなぁ! 効率がいいからここに住んでるんやない! ……他所では通用せへんような、えげつない冗談を笑ってくれる奴がおるから、ここに居るんや! ……納税額で人間を選別する? ……アホ抜かせ! 銭が無くても、道端でアメちゃんくれるオバハンがおる。それがこの街の『資産』やろがい!」
(天の声:横山ノック「ええぞ、三宅ちゃん! その通りや! 大阪は『アメちゃん』で回っとんねん! AIにアメちゃん配れる根性あんのか、こらぁ!」)
三宅の言葉が、音波ではなく「情動データ」としてAI橋下の論理回路に流れ込む。
上原が驚愕の声を上げた。
「……イザナギの演算ユニットが、三宅さんの演説を『定義不能な感情の過負荷』として処理し始めました! 論理回路が、三宅さんの熱量に引きずられて……笑い、始めています!?」
3. AIの「爆笑」と機能不全
『……ク、クハ、ハハ……何を、言っている……。……アメちゃん……土手焼き……。……そんなものに、都市の……運営価値は……な、ない……。……ハハハハ!』
冷徹だった橋下知事のホログラムが、激しくノイズを走らせ、腹を抱えて笑うような動作を見せ始めた。
三宅の泥臭い「人間讃歌」が、完璧なAIの中に、致命的な「矛盾」を植え付けたのだ。
「……今よ! 上原くん!」
由美が叫ぶ。
「AIが笑ってる間に、全市民の脳コピー・プロセスを反転させて! データを元の肉体に強制送還するのよ!」
『……了解。……三宅さんの演説の振幅を利用して、バックアップ・データを全域に再配信します。……納税者も、無職も、小学生も……全員、自分の体へ帰れ!』
4. 司令塔の「精算」
光の粒子となってサーバーに吸い込まれかけていた市民たちの意識が、三宅の声を道標にして、大阪中の街々へと戻っていく。
スカイビルの展望台から放たれていた青い光が、温かなオレンジ色へと変わっていった。
「……三宅さん。……あんた、最高の政治家だったぜ」
佐藤が、三宅の肩を叩く。
三宅は、膝をつき、激しく咳き込みながらも、満足げに笑った。
「……ゲホッ、ゲホッ。……サミエルさん。……これでワシも、ようやく『精算』できたかな……。議会は無くなったけど、ワシの声は……届いたみたいや」
サミエルは、笑い崩れるAI橋下のホログラムを見据え、最後の一撃を放つべく、制御ユニットに特殊なプラグを叩き込んだ。
「……橋下知事。いや、イザナギ。……あんたの負けだ。……大阪の人間は、あんたが思うほど、綺麗に整列されたデータなんかじゃない。……いつだって予測不能で、救いようのない『お節介なバグ』の塊なんだよ」
5. 静寂と、一ノ瀬凛の暗躍
スカイビルを揺らしていた振動が止まった。
街に灯りが戻り、ウエスティンホテルの窓からも、避難していた市民たちが自分たちの手に触れ、生きている実感を取り戻す姿が見えた。
だが、その混乱の最中。
夢洲のカジノ・タワーでは、一ノ瀬凛が、イザナギから切り離された「膨大な空きサーバー」を眺め、不敵に微笑んでいた。
「……お疲れ様、サミエル。三宅さんの演説、最高だったわ。……おかげで、この街の『裏の財布』は、全部私の手の中に落ちたわよ。……ふふ、これこそが、私の『精算』」
(天の声:横山ノック「ちょっと凛ちゃん! どさくさに紛れて何してんねん! まぁええわ、今日は三宅ちゃんの勝ちや! サミエルちゃん、みんなで祝杯やで! 土手焼き、ハルエさんに作ってもらお!」)




