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【ネトコン13受賞】代筆令嬢リゼットはくじけない ~あなたの代筆はもうやめにします~【9/1 第1巻発売】  作者: 糸四季


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【目が覚めました】

 

「実は、この小指の約束をやるのは、ヘルツデンの小さな子どもだけらしいのです」

「……私をだましたな?」



 ニヤリと悪い笑みを浮かべたウィリアムに、リゼットは「だましてなどいません!」と慌てる。

 ただ、子どもがやる約束の方法をするウィリアムが、とても可愛らしく思っただけだ。



「嘘はついておりませんよ!」

「だが、内心笑っただろう?」



 王女宮への帰り道、そんな風に言い合いをしている時間がとても幸せだった。

 貴族や文官とすれ違うたび、信じられないものを見るような目を向けられたがちっとも気にならない。

 そんなことより、ごきげんなウィリアムの笑顔を目に焼き付けるのに忙しかった。



 ***



 ウィリアムと別れ王女宮に戻ってきたリゼットは、届いていた手紙の束を早速確認する。

 スカーレットとララからも届いていた。このふたりからの手紙を読めるとは、なんて贅沢なことだろう。



「あら? これは……」



 鮮やかな紫の封筒の差出人を見て、リゼットはハッとした。ドキドキしながら中を確認し、すぐに部屋を飛び出す。

 向かったのはレオンティーヌの執務室だ。取り次いでくれた侍女に、王女の政務が落ち着いて時間が出来たら教えてほしいとお願いする。

 そのまま部屋に戻ろうとしたリゼットだったが、なぜかすぐに執務室へと通された。



「フェロー先生。どうしましたか?」

「王女殿下、ご政務中に申し訳ありません。すぐに出直しますので……」

「お待ちになって。ちょうど休憩しようと思っていたのです。フェロー先生にお付き合いいただけると嬉しいです」



 王女に気を遣わせてしまった、とリゼットの頭の中は反省の嵐だ。

 しかしこう言ってくれているのに断るわけにもいかず、レオンティーヌに促されテラスに用意されたテーブルについた。



「それで、何かあったのですか? アンベール子爵と書庫へ行かれるとうかがっていましたが」

「はい。書庫から戻ってきたら、手紙が届いていたのです。それも、エルヴィール様から!」

「まぁ、ジオネ侯爵令嬢から?」



 リゼットは大きくうなずく。宮廷舞踏会で、リゼットのドレスにワインをかけた、あのエルヴィールだ。王太子アンリの新たな犠せ……婚約者候補とされているご令嬢である。

 実はエルヴィールたちにはすでにリゼットから手紙を送っていた。もし認めてもらえたなら、そのときはぜひ仲良くしてほしいという内容の手紙だ。

 もしかしたら返事はないかもしれないと思っていたが、エルヴィールは律儀に書いてくれたのだ。



「お茶会に呼んでいただいたのですが、どうしたら良いでしょう。私は王女宮からは出られませんし……」

「では、エルヴィール嬢をこちらにお呼びいたしましょう。せっかくならお茶会を開いて」



 驚くリゼットに、王女は満面の笑みで「主催はフェロー先生ですよ」と言うのだった。



 ***



 いつものごとく前触れなしに、王女宮のティールームに現れた王太子アンリが、レオンティーヌと世間話をしている。

 王女宮生活四日目。リゼットはそれを隣室からこっそりと覗いていた。



「婚約者候補の令嬢に敬意を払え? 私が? なぜだ?」

「考えてみろ。ただ高位貴族の元に生まれてきただけの娘に、私が敬意を払う必要があるのか?」

「リゼット嬢? 彼女には一目置いている。筆跡は叔母上が認めるところで、能力も申し分ない。ただ、それ以上に面白いからな。リゼット嬢を使えばアンベール子爵やデュシャン卿が簡単に釣れる」

「あの男たちがリゼット嬢のことで右往左往する姿は見ていて飽きない」

「どうしたら令嬢に敬意を払うかだと? さて。敬意を払いたいと思える相手に出会ったことがないのでわからんな」

「ご令嬢たちは受け身なくせに求めるばかりだ。私に敬意を払われたければ、それに見合った努力をするべきだろう?」



 目の前で王太子アンリの口から語られる女性観、いや令嬢観は非常に傲ま……偏け……独特だった。


 ある程度予想していたリゼットは苦笑するだけだったが、一緒に聞いていたエルヴィールには衝撃が強すぎたようだ。

 細く開いた扉の前からふらふらと移動すると、ソファーに辿り着く前に床に崩れ落ちてしまった。



「エルヴィール様、大丈夫ですか⁉」

「……そんな……殿下が、あんな人だったなんて……」



 どうやらいま、エルヴィールの中の理想のアンリ像が音を立てて崩れている最中らしい。

 リゼットはなんとかエルヴィールをソファーまで運び、彼女の中の理想像が完全に崩れきるのを待つことにした。


 王女宮で茶会を開くからぜひにと招待状を送ると、急だったにも関わらずエルヴィールは応じてくれた。

 レオンティーヌに色々と教わりながら準備した、リゼット主催の茶会だ。気合をいれていざ始めようとしたそのとき、アンリの突撃訪問があったのである。


 いつものようにレオンティーヌや侍女たちに別室に匿われたのだが、同席していたエルヴィールも巻き添えを食う形となってしまった。

 エルヴィール本人は王太子に会いたかったようだが、王女が「良い機会です」とエルヴィールに王太子との会話をよく聞いているよう申しつけたのだ。


 王太子アンリの本性をエルヴィールに知ってもらう。このレオンティーヌの目的は達成されたが、エルヴィールの心に深い傷を残してしまったのではないだろうか。

 そばで見守っていることしか出来ずにいると、隣室が静かになった。侍女が開いた扉から、レオンティーヌが「お待たせしました」と入ってくる。



「エルヴィール嬢は……」

「どうやら、ショックが大きかったようです」

「そうですか……。仕方ありません。病を治すためには、苦い薬を飲まなければならないものです」



 レオンティーヌがさらりと王太子への恋を病扱いしたが、リゼットは気づかないふりをした。

 エルヴィールに目を覚ましてほしいと思った自分も、たいして変わらない。


 あのあとアンリはリゼットはまだ来ないのかとしつこく居座ろうとしたが、レオンティーヌが追い返してくれたらしい。まったく懲りない人である。

 近衛騎士のシャルルを連れてこない辺り、まだ良心的だろうか。


 そこまで考え、いや違う、とリゼットはぶんぶん首を振った。アンリがあまりにもアレなので、自分の中の善人の基準が下がっているようだ。




「私、目が覚めましたわ」



 しばらくしてエルヴィールがまともに会話が出来るようになったところで、ようやくお茶会をスタートさせることができた。


 王女から、エルヴィールはチョコレートが好きらしいと情報を得ていたので、チョコレートが多めのティーセットを用意した。レオンティーヌが好きなふんわりとした甘さのマドレーヌもある。

 リゼットはザクザクとした食感のクッキーが好きなのだが、そういえば妖精には好きなお菓子があるのだろうか。



(月光薔薇の夜蜜を砂糖のかわりに入れて作れば、妖精さんも食べられるかしら?)



 伯爵邸に戻ったらやってみようと、スプーンで紅茶をかきまぜながら思ったとき、ぽろりとエルヴィールの瞳から涙がこぼれ落ちた。



「エ、エルヴィール様……」



 慌ててリゼットがハンカチを差し出すと、エルヴィールは素直に「ありがとうございます」と受け取ってくれる。



「王女殿下とフェロー子爵令嬢のおかげで、私は自分の中の幻想に恋をしていたのだということがよくわかりました。……あんな風に思われていたなんて」

「エルヴィール様……」

「きっと私より前に婚約者候補となった方々は、殿下の真実の姿に気づいていらっしゃるのでしょうね」

「そうでしょうね。皆様、恐ろしいほど静かにお兄様の傍を離れていかれましたから」



 王女の言葉に、エルヴィールは唇を噛んでうつむく。



「……悔しいです。私たち貴族令嬢は、殿方にあのように思われているのでしょうか。何の努力もしていない、浅ましい愚か者だと」


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― 新着の感想 ―
リゼットのジェシカへの手紙を読んで贖罪とする人間っぽいアンリの様子が見たいです 暗リもリゼットの手紙で浄化されたりして
 いくら不遇な境遇で世間や貴族を恨まずにいられなかったとは言うものの、国家主権への犯罪だからな。妥当と言えば妥当。  邪ルルがシャルルに戻ったみたいだけど敵認定していたジェシカに何度も誘導されて、リ…
あらー…ジェシカはそうか…リゼットにはしんどい展開だけどアンリにも辛い展開になればいいな!(リゼットと代筆文通して人の心を取り戻すのを愉悦の気持ちで見守り隊) いや実際にジェシカとリゼットに文通して欲…
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