表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ネトコン13受賞】代筆令嬢リゼットはくじけない ~あなたの代筆はもうやめにします~【9/1書籍化予定!】  作者: 糸四季


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
106/107

91通目【蝶の訪れ】


「ぜひ今後とも、変わらぬお付き合いをさせていただけますと幸いです……と」


 最後の挨拶状を書き終えて、リゼットはふぅと肩から力を抜いた。ペンを置くとシエルが『お疲れさま』と妖精の鱗粉を降らせて労ってくれる。


「ありがとう。でも疲れてはいないの。もっと書きたいくらい」

『相変わらずだね。そういうの、人間は仕事中毒って言うんでしょ』

「まぁ。シエルったらそんな言葉、どこで覚えたの? でもちょっと違うわ。私の場合は仕事じゃなくて、お手紙中毒。社交は緊張するけど、お手紙なら読むのも書くのもいくらでも出来ちゃう」


 立ち上がり、軽く体を伸ばすとリゼットは本棚の前に立った。ずらりと並ぶ本の中から、ヘルツデン語の詩集を取り出す。


『休憩? 本を読むの?』

「ふふふ。実はね、ずっと練習帳を作ってみたかったの。せっかくだから、休み明けに試作品を持って王宮に参殿しようかと思って」


 王女レオンティーヌの為に、難解なヘルツデン語の練習帳を作るのだ。幸い、読書家だった母のおかげで家にはヘルツデン語の本や辞書が揃っている。まずは簡単な挨拶文が自力で書けるようになるような練習帳を目指して作る予定だ。


『どうしてわざわざ? リゼットが代筆してるのに必要ある?』

「私は代筆者だけど、指南役でもあるのよ? レオンティーヌ様は本当はご自身で手紙を書きたいと思われているんだもの。その願いを叶えるお手伝いをしたいじゃない」


 フンフンと鼻うたを歌いながら、候補のインクを机に並べていく。新しいことを始めるときは、やはりわくわくするものだ。

 シエルは文机の上に早速置いた、ドール用のソファーに舞い降りると、細い足を組んでため息をつく。


『でもそれじゃあ、リゼットの仕事がなくなっちゃうよ』


 お人好しなんだから、とシエルがあきれ顔で言ったとき、廊下からドタバタと駆けてくるいくつもの足音が聞こえてきた。

 何だろうとふたりで顔を見合わせると同時に、部屋の扉がバーンと開き、クマのような巨体が飛びこんできた。


「リゼットちゃ~ん! 呼ばれて登場、デイヴィットよ~ん!」

「デイヴィットさん⁉」


 たくましい腕でいくつもの箱と紙袋を抱えて現れたムキムキの紳士。王室御用達の仕立屋『蝶の番人』のオーナー、デイヴィットは、リゼットを見つけて彫りの深い顔を輝かせた。


「や~んリゼットちゃん! ちょっとお久しぶり! 子爵位襲爵おめでと~!」

「わぷっ! あ、ありがとうございます……っ」


 がばりと抱きしめられ、シャツのボタンがはち切れそうなたくましい胸に顔を埋める形になり、リゼットは潰されて息が上手く吸えなくなる。

 デイヴィットの腕の中でもがいていると『おい、離れろー!』とシエルの怒っている声が聞こえた。


「お、お客様、困ります!」

「当主様をお放しください!」

「あら? やだ、ごめんなさいリゼットちゃん。つい興奮しちゃって!」


 モルガンたちの声が聞こえ、ようやく解放されたリゼットは「だ、大丈夫です」と必死に呼吸をして笑顔を見せる。

 職業柄か、デイヴィットの距離感が近いことはもうわかっている。これは彼の通常のコミュニケーションだ。

 だが集まってきていた使用人たちは、皆厳しい顔をして「勝手に邸を動かれては困ります」と抗議する。どうやら応接室に案内する前に、デイヴィットがここに突撃してしまったらしい。

 シエルも眉を吊り上げ、デイヴィットのピンクグレーの髪を蹴りつけて乱そうとしている。もちろんデイヴィットには見えていない。彼はわずかに乱れた髪をすぐに手ぐしで整えると、巨体を折って丁寧な礼をしてみせた。


「ごめんなさいね。リゼットちゃんが子爵になるって噂を耳にしてから、準備をしてずーっと待っていたのに、中々声がかからないものだから、待ち切れなくって」


 モルガンたちに大丈夫だとうなずいて、デイヴィットに向き直る。


「まぁ。準備、ですか? 一体何の……」

「それはもちろん、リゼットちゃんのドレスのよ! 前に作ったのはお仕事のためのドレスだったじゃない? 貴族当主としてのドレスはまた違ったものが必要だと思ったの。それに夏用のお仕事服もいるわよね? リゼットちゃんのことを考えると創作意欲がもりもり湧いちゃって、勝手にたくさんデザイン起こして作っちゃったわ~」


 ということは、デイヴィットが持ってきたこの箱や袋は、すべてリゼットのために作られたオーダーメイドドレスということだろうか。いや、オーダーはしていないのだが、リゼットのサイズで作られたのなら、リゼットにしか着られないのだから同じだろう。


「あらまぁ。蝶の軍服のドレスをこんなに……?」

「すっごーい! どんな素敵なドレスなんですかね?」


 マノンたちが驚いている姿を見てリゼットは焦る。デイヴィットの気持ちは嬉しいのだが、王室御用達の店のドレスを何着も購入する余裕はない。いや、ないことはないのかもしれないが、新米当主としてそこまで散在する勇気が持てないのだ。


「あの、デイヴィットさん。私、こんなにたくさんのドレスをお願いするつもりではなくてですね。出来たら一、二着ほどをオーダーしたかったのです。その、色々と、何というか……代替わりのために入用で!」


 正直に白状してしまうリゼットに「リゼット様!」とモルガンが慌てる。貴族として懐事情を明け透けに話してはいけない、と言いたいのだろう。

 だがデイヴィットは当然のように「そんなことわかってるわよぅ」とひらひら手を振った。スパンコールのような飾りのついた爪がキラキラと光る。さすが一流デザイナーは指の先までおしゃれだ。


「水臭いじゃない。アタシたち、お友だちでしょう? 困ったときは相談してほしいわ」

「でも……」

「わかるわよ? お友だちでもそこは区別しなきゃって考えるわよね。仕事だもの。だからこそ、仕事には仕事で返すようにすれば遠慮はいらなくなると思わない?」


長くなったので後編に。

明後日の7/8『六惑星のパレード』が発売されます! 予約してやったぜ報告ありがとうございます!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ