第二期 第16話(最終話):《余白の未来へ》・後編:パンはまだ焼き途中
時間は流れた。
パン屋『ナガセ・ベーカリー』は、町でも評判の店になっていた。
客の列は絶えず、いつしか“パンの奇跡が起こる店”として、
遠方から足を運ぶ者も現れ始めた。
「今日も、パンが焼けてるな」
ユウトは微笑みながら、朝の光の中で窯の扉を開ける。
変わらぬ日々。だが確かに何かが焼き残っている。
店には誰も気づかぬ形で、《神界からの風》が時折吹き込んでくる。
パンの香りに誘われて、
かつての仲間たちが自然と再び交差していく。
アリシアは、今は地元の教師をしているという。
セリーヌは、町の警備隊で新人育成に忙しい。
ミラ姉さんは移動式屋台を開業し、週に一度ユウトの元へ食材を届けにくる。
誰も覚えてはいない。
けれど、パンを口にするたび、誰もが“懐かしさ”に目を細める。
ユウトはそれを“強運”だとは言わない。
ただひとつ、パンを焼き続けているだけ。
「たった一つのスキル、《強運》。
それだけで異世界を駆け抜けて、世界を変えた……。
でも、伝説ってのは、残るものじゃなくて、焼き続けるものなんだ」
彼の店の棚に、ひとつだけ置かれている黒パン。
焼き目が少し焦げたそのパンには、
かつての旅のすべてが、そっと染み込んでいた。
やがて月日は巡り、ユウトの名は一部の記録でこう記されるようになる。
《世界を変えた英雄。だが、最も語り継がれたのは——
一人のパン屋としての優しき軌跡だった》
そして今日も、パンは焼かれる。
焼き途中の未来を、誰かに届けるために。
──完。




