25/44
エピローグ:この物語が、誰かの明日を照らすように。
パン屋の朝は、いつだって早い。
焼き立ての香りが町の路地をくすぐり、まだ眠っている子供たちの夢の中に忍び込んでいく。
「おはようございます、店主さん!」
元気な声に振り返れば、制服姿の少年少女。
この町の学園に通う、どこにでもいる若者たちだ。
「今日はカレーパン三つ! それと、あの……“幸運パン”もありますか?」
「あるとも。今日は特別に焼き上げたやつがあるんだ」
笑顔で答える青年の名は──ユウト=ナガセ。
異世界に転生し、ただの雑用生だった彼は、《強運》というたった一つのスキルだけで世界を変えた。
魔王を倒し、神に挑み、学園の頂点に立ち、そして選ばれなかった未来を、自ら選び取った。
そして今、彼はパンを焼きながら生きている。
「パンのいいところはさ、“偶然”が味を決めるところなんだよ」
焼き上がるパンの向こうで、あの頃の仲間たちの笑顔がふとよぎる。
士官学校で研鑽を積むアリシア、指導官となったセリーヌ、各地を飛び回るミラ姉さん。
それぞれが、それぞれの“運命”を、自分で選び取ったのだ。
「さ、今日も運命を焼くぞ」
ユウトは空を見上げる。
ひとすじの雲が、パンの湯気に似て、空をゆっくりと流れていった。
──この物語が、誰かの明日を照らすように。




