ロレッソとの再会
どのくらい時間がたったのか。
アレクサンダーに抱きしめられるのは心地よかった。
彼の背中に自分の手を回すのも、とても自然に思えた。
急にアレクサンダーがティアから離れた。
惚けた表情でアレクサンダーを見上げる。
アレクサンダーは苦笑しながら小さな声でいう。
「・・・その顔は反則だよ。止まらなくなっちゃうから、しっかりして」
耳に数人の足音が聞こえる。
ティアはハッとして急いでアレクサンダーから離れる。
真っ赤になる顔を止められず、両手を頬に当てた。
「・・・もう少し、一緒にいたかったよ。」
アレクサンダーの甘い声が耳朶を打つ。
ティアは息も絶え絶えな呼吸になり、顔が真っ赤になりすぎてものすごく暑かった。
数人の足音は騎士たちだった。
そして、騎士たちの後ろから第3皇子のロレッソが歩いてきた。
「・・・アローシェンか。・・・隣は・・・確かロシエール商会の・・・?」
茶パーツのパーマが、栗色のウェーブになった。瞳は変わらず金色。
ティアが視線を下げ礼を尽くす。
ロレッソはティアのことを上から下まで眺めまわしたと思ったら、鼻で笑った。
ティアは顔を上げていないのでどんな表情かはわからないが、アレクサンダーが怒っているのはわかった。
「アローシェン。そなた確か婚約者がいなかったな。・・・こんなのを相手にすると、そなたの価値は下がる一方だぞ。」
ロレッソの声はあざ笑うような声音であった。
そして、アレクサンダーを貶める言葉でもあった。
ティアが口を開こうとすると、先にアレクサンダーがロレッソに向かって言い放った。
「私の価値が下がるのであれば、それは私自身の問題でしょう。彼女とともにいることで私の価値が落ちるのであれば、それは端から私に価値はないということ。それに、人の価値は行いによるもの。行いが悪ければ価値が下がりますが、彼女は一人で懸命に商会を世界的なものにしました。だからこそ、帝国も彼女の技術が欲しくて、帝国に呼びつけたのでは?」
ようは、人の価値を決めるのではあなたではない、ということ。
あなたに比べれば、誰もが価値ある人間でしょう、ということ。
アレクサンダーがティアを連れその場を後にしようとすると、騎士たちが二人を取り囲んだ。
「・・・私を誰だと心得る?帝国の皇子だ。平民の分際で、平民の血を流す分際でよくのこのこと私の前に姿を現したな。ましてや宮廷に紛れ込むとは。・・・身の程を教えてやれ。」
ロレッソが一層低く侮蔑の声音でつぶやく。
騎士たちが一斉にアレクサンダーとティアのもとに走ってくる。
宮廷での無断の魔法は罰せられる。
抜剣も緊急事態だけ。
現状は皇族による拘束になってしまうため、抜剣すると捕まってしまう。
アレクサンダーは素手に切り替えた。
しかし、相手はお構えなしに剣を振りかぶる。
その寸前、ティアが持っていた石をアレクサンダーの口に入れた。
アレクサンダーはついそのまま飲み込んでしまう。
しかし、自身の体の中で血が逆流するような変な感覚がし、なぜか素手で剣を受けられる、と思い、右腕に剣を受けた。
剣は、アレクサンダーを貫くことなく、剣をはじいた。
「あはははははははは!!捕らえろ!!宮廷内で魔法の無断使用だ!!」
ロレッソが喜々として叫んだ。
アレクサンダーとティアは大人しく、地下牢につながれている。
ロレッソの号令で騎士たちが襲ってきたときは、抵抗など何もしていないのに、随分乱暴に扱われた。
地下牢に連れてこられたとき、騎士たちによってティアだけ違う場所へと連れていかれそうになった。
しかし、ティアがアレクサンダーに抱き付き離れず仕方なく同じ牢に入れられた。
なぜそのような強行に出たかというと、騎士たちは服装は騎士だが、清廉さや騎士らしい厳格な雰囲気を持っていなかった。
ティアは彼らを騎士だとは思えなかった。
変なことをされるのはたまったものではなかったため、アレクサンダーにくっついて同じ牢に入った。
「・・・随分変わっただろう?」
アレクサンダーがティアの隣に座ったまま呟いた。
「そうですね。・・・以前の殿下に戻ったようですね。」
「2~3年前くらいからかな。ソーマ侯爵家のご令嬢が婚約者候補筆頭に決まってからだよ。」
「魔法がかけられている感じもしませんでしたし・・・何かあったんでしょうか?」
「・・・心配かい?」
アレクサンダーの言葉にティアは少し考えてみる。
心配・・・。
心配というより、呆れている。
彼はたぶん自分の”意思で動いている”。
殿下なら変われると思った。
変わって、皇帝としてましな人物になるだろう、と。
しかし、彼はただ流されやすいだけ。
当時は私たちがそばにいた。
だから悪いものには染まらなかっただけ。
彼は根本がきっと変わっていない。
・・・そういえば、メイラは皇帝に向いている皇子を気にしていた。
なぜ?
メイラの言葉と、顔がそっくりなことを考えれば、メイラと皇后は姉妹、若しくは親戚のはず。
ということは、皇后の子であるロッレソが皇帝になるほうが良いのではなか。
「・・・薄情かもしれませんが、心配はしていません。”ああ、そうなったんだ”というような焦燥感といいますでしょうか・・・」
ティアが呟くと、アレクサンダーはそうか、と一言言ってティアの手を握る。
牢の中は光もまともに入らなければ、音もとても静かだった。
メイラが入れられていた牢とはまた違う。
ギイ・・・という音が聞こえた。
牢の中に入ってきたのは第2皇子だった。
「大丈夫か?二人とも・・・」
苦笑した第2皇子がアレクサンダーに手を貸す。
アレクサンダーはティアに手を差し伸べる。
二人は第2皇子の後ろをついて牢を後にした。




