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マシアスの自由とルクレティアナの決断


「レディ・ルクレティアナはロレッソの変貌に驚いただろう?」

第2皇子が先頭を歩きながら声をかけてきた。


「・・・正直そこまで。以前の殿下と同じな感じなので。」


学院時代のロレッソ皇子を思い出す。


まだそこまで廃れた様子はなく、言われたことは素直に信じる、ある種の純粋な人だった。


ティアがまだ“ルアン”だったころ。

ティアはロレッソを“信じた”。

変われると思って。


しかし、人は簡単に変わらない。



「皇后にあってみたい・・・」

ティアは気づけば呟いていた。


アレクサンダーも第2皇子も驚いた表情でティアを見つめた。


「・・・全ての事件の糸は、皇后につながっていませんか?」


ティアの言葉に第2皇子はガシガシと頭をかく。


「・・・だが、証拠がない。それに・・・」


濁す第2皇子の後をアレクサンダーが継いだ。

「・・・得体が知れない。不気味なんだ・・・。何を考えていらっしゃるか全くわからない。」


それはティアも感じた。

いつもニコニコしている。


皇后として表情を変えないのは当たり前だが、そう言う感じではなく。

ただ得体のしれない寒気が全身に走るような気分にさせられる。


彼女が何を求め、何を考えて行動しているのかがわからないのだ。




三人が牢の入り口に向かっていると、向かい側から騎士が走ってきた。


「殿下!ジャクソン殿下!!」

焦った様子の騎士に、第2皇子も少し真剣な表情になる。


「どうした?」


「それが・・・メイラという魔塔の人間が・・・牢の中で死んでいました・・・」



三人は同時にメイラのいる牢まで走り出した。





「・・・牢兵がいたはずだろう。何があった?」

第2皇子が険しい表情で集まった騎士たちに聞く。


「牢兵たちの話では・・・第3皇子のロレッソ殿下がいらっしゃってお人払いをされたそうです。」


全員が一言も発さず、静まり返った。


重苦しい空気が周囲をつつむ。

騎士たちは固唾をのんで、第2皇子の動向を見守る。




第2皇子がため息をつく。

「亡くなったのは魔塔の人間だ。今回は、レディ・ルクレティアナを襲ったから捕らえた。しかし、亡くなった時点で魔塔の管轄になる。」


「ではどうするんです?」

アレクサンダーが聞く。


「・・・魔塔庁長に連絡しよう。まあ・・・あの方は知っていそうだけどね。」

第2皇子が肩をすくめていった。




メイラの遺体は遺体袋に入れられ、魔塔へと送られることになった。

魔塔との連絡手段がなく連絡できない、と言われたのでティアがマシアスに連絡を取ることになった。






第2皇子も一度話をしたいということなので、第2皇子宮の客間にある鏡に術式を書いて、魔力を送る。


鏡が揺れ、スウ・・・と人影が現れる。



『やあ。メイラが亡くなったみたいだね。』

開口一番まさかの発言であった。



「なんでご存知なんですか?」

第2皇子が聞いた。


『ああ・・・君は、第2皇子か。ピーターだっけ?』


「失礼しました。ジャクソンと言います。」

ジャクソンの部分をかなり強めに言った。


『私は今までメイラに閉じ込められていたからね。やっと自由になったんだ。メイラが解放するとは思えないしね。死んで解放されたとしか思えなかった。』

マシアスの眩しい笑顔に周囲が光って見えた。


いいや、彼自身が発光しているように見える。


『ああ悪いね。久しぶりの自由で久しぶりの外で、テンションが上がっちゃった。』


すごくいい笑顔だった。


『ルアン、いやティアと呼ぶべきかな?君にずっと話したかったけれど、メイラの誓約で何も話せなかったんだ。』


なるほど。それでいつも曖昧ン話し方だったのか。


『まあ、私もそこまで詳しいことはわからないのだけれどね。』


「・・・話したいこととは両親のことですか?」

ティアが鏡に映るマシアスに真剣なまなざしを送る。


『ご両親のことは私もわからない。ただの疑いでしかない。証拠も何もない。ただ、皇后とメイラが何か怪しかったとしかね。私は魔塔の人間だから干渉できないし。』


「では何の話ですか?」

アレクサンダーが割って入った。

若干だけティアの前に立つ。


「ははは。良い人を見つけたね」

マシアスの言葉に、ティアは真っ赤になる。


『私が知っているのはメイラと皇后は双子で、メイラは隠された存在だった。双子だったことで、古風なアジュート家はメイラを“災い”として召使のように扱っていたのに、急に追い出したんだ。メイラは当時、たまたま帝国に密かに入国していた古の国の人間に助けられたようだよ。』


それでメイラは魔法のことや、古の国のことを知っていたのだ。


『魔法を極めて、再びアジュート家に会いに行ったようだね。そこで、皇后の身代わりにされたそうだよ。私が彼女に会った時、彼女は既に身も心もボロボロだった。生きる目的もすべて諦めた後だった。・・・私が知る彼女の全てだ。』


ティアは俯く。

もうすぐ目の前に真実がありそうなのにつかめない。


『それともう一つ、これは・・・まあ、干渉したけど聞かなかったことにして。皇后は、ルアンの母上が消息不明になった同時期に、最側近で侯爵家から彼女のそばにいた騎士と侍女を宮廷から追放したそうだよ?その後の消息はさすがにバレそうだったから調べていない。』


「騎士と侍女・・・」

ジャクソンが呟いた。


「殿下、同化されました?」

アレクサンダーが呟いたジャクソンに声をかける。


「いや・・・気のせいかもしれないが、昔、誰かが皇后に“以前あなたが捨てた侍女は元気ですよ”と言っていたんだ。その後、その・・・誰かは・・・誰だったかな・・・?誰・・・」

ジャクソンの様子がおかしくなった。


『ルアン、読み取りの“逆法”を彼にしてあげて』

マシアスの言う通りに、ティアはジャクソンの額に指で触れた。

ティアが触れたところにオレンジの光が集まる。


うつろな目になりつつあったジャクソンが少しずつ元に戻る。

「今何が・・・」

ジャクソンが呟いた。


『うーん・・・随分、緻密で意地の悪い暗示をかけられているね』

マシアスが言った。


「暗示って・・・メイラが?」


『いや。メイラはそこまで器用じゃない。たぶん・・・皇后を覚えていたのなら、覚えていないほうの“だれか”がかけたんだろう。』


「・・・しかし、私は魔法に操られないために、教会に魔封じをかけられている。」

ジャクソンが答える。


『本来、魔封じはそこまで効力はない。教会による光魔法での魔封じは、効力は弱めてくれるが、相殺してくれるわけではない。相殺するくらいの技術なら賢者にしかできない。私ですら無理だよ。』


「・・・これ意味ないのか・・・」

ジャクソンは呟きながら手元にある指輪を見ていた。


『ただ、幻覚魔法の暗示は周囲にもかけたのがばれるから、弱めの暗示だろう。たぶんルアンもかけられたものだ。逆に弱めの暗示はかなり難しい。かなりの技術を持っているものしかできない。』


ティアは周囲でそこまでの技術がある人を思い出そうとする。

しかし、心あたりはになかった。

ティアの知る人物では、賢者しかいない。賢者たちは古の国から滅多に出ないし、外界にまず干渉しない。


今回が特別すぎた。


『ところで・・・ここからが本題なんだけど』

マシアスの言葉に、その場にいた三人は絶句した。


早く言えよ。



『時戻りの石の核はメイラが植え付けた。自分で過去に戻りたかったようだ。ただ、時戻りの石は好きな時代に戻れるわけではないけどね。』


「どうして時戻りの石の話を?」

ティアが聞いた。


『ルアンが時戻りの力を使えばいいと思って。私が外から医師に魔力を送って、君が石で過去に戻れば、確実性は無理だけどある程度思っている時代に戻れるはずだ。』

マシアスの言葉にティアの心は動揺した。


戻れるのなら戻りたい。

しかし、その先のマシアスの言葉にティアは空虚感を抱いた。


『ただし、因果律がある。真実を見ることは可能だけど、未来を変えることは許さない。』

マシアスの厳しくも、有無を言わせない声音が部屋中に響いた。




「しかし・・・過去に戻れるなら、未来を変えることも可能なのでは?」

アレクサンダーが言い募る。


答えたのはジャクソンだった。

「因果律を犯してはいけない。未来をむやみに変えれば、あるはずの命がなかったり、奪われるはずのない命が奪われたりする。それを変える権利は誰にもない。だからこそ・・・難しい魔法なのでは?」



俯き気味のジャクソンの隣で、アレクサンダーはそれ以上にうつむいた。

浅はかな言葉がティアを傷つけていないか気になったのだ。



ティアは頭では理解している。

けれど、両親と一緒にいたかった。

一緒に笑って喧嘩して、怒られたかった。



「・・・行くとしたら、母さんが宮廷を追われるとき」

ティアが呟いた。


アレクサンダーとジャクソンはぱっとティアを見る。

マシアスは鏡の向こうで微笑んでいた。


『それでこそ、私が見込んだ子だ。』

自慢気なマシアスの言葉に、何故か自分を誇らしく感じた。





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