魅了と暗示
「違和感て?」
グレイスが水を飲みながらきいた。
昨日の顛末を、朝食の席で聞きたがったグレイスに教えたのだ。
「・・・それがわからないんです。メイラから聞いていたマシアス様と私の知るマシアス様。それに、皇后さまとメイラ。それに・・・」
ティアが話しながら徐々に俯いていく。
「帝国を出たときね・・・」
グレイスが呟いた。
グレイスはティアがいなくなった時、周囲に探すよう何度も言ったそうだ。
ティアの性格を考えれば、信頼のおける相手に何も言わず姿をくらますのは信じられない、と。
タティファ商会に預けている弟にすら居場所どころから、生存すらも伝えていなかったからこそ。
グレイスは疑ったのだそうだ。
「私はあなたの話を聞いて、余計確信出来ますわ。やはり、帝国を出るときに幻覚魔法にかけられたのですわ。」
「ですが・・・それにしても、まともな言動ができていたし、今でも帝国を出てからの記憶はきちんと残ってるんです。」
ティアの言い分に、グレイスは少し考える。
「・・・前に、どこの国だったかしら・・・お父様の商談についていった時だわ・・・どこの国かしら・・・」
グレイスが呟いていると、ノックの音がして侍女たちが対応している。
疲れた表情の侍女がグレイスに近づく。
「第2皇子殿下がお見えです。」
侍女の言葉に、グレイスはため息をつく。
「追い返して」
「グレイス様!」
侍女ではなく、ティアが咎めるように声を出した。
「いいのよ。どうせプロポーズですもの」
「・・・・・・・・・」
それは良くないのでは・・・・?
「あなたが戻ったら結婚するといったの。あまりにもうるさくて」
おおっと・・・もしもこれ以上引き延ばしたら、恨まれる気がしますけど・・・
「そんなことより」
そんなことより!?
「そのどこかの国の文献で、幻覚魔法の研究をした本を見たわ。」
「・・・幻覚魔法の研究ですか?」
ティアは驚いた。
幻覚魔法の研究は世界的に禁止されている。
幻覚魔法は危険すぎて悪影響になりうるため、魔塔が魔法の研究を一手に引き受けていた。
それを全て管理するのが魔塔庁長。
そして、幻覚魔法を使えるのは、魔塔庁長に許された者のみ。
彼のものが幻覚魔法を使えば魔塔庁長はわかるらしい。
「確か・・・幻覚魔法は、魔法を展開するときの魔力の強さに取って効果が全く異なるらしいの。例えば、魔力を多く使えば魅了だけど、まあまあだと暗示、とか。」
「暗示・・・」
「・・・そうよ。あなたはどちらかというと暗示に近かったのでは?」
もうすでにグレイスの言葉は耳に聞こえていなかった。
暗示。
メイラは私に暗示をかけていた?
なぜ私は・・・古の国へ行ったの?
それは、もしかして暗示・誘導された・・・?
でもどうして?
暗示をかけていたとして、なぜ暗示を?それこそ、操れば良かったはず。
「どうしたの?」
グレイスが心配そうに聞いた。
「いえ・・・ただ、どうして暗示だったのか・・・と。魅了で操っても良かったはず・・・」
「それは・・・魅了だと何か難しいことだったのでは?」
「難しいこと?」
「・・・私もうろ覚えだけれど、確か・・・弱めの暗示であれば、緻密な検査をしなくてはわからないって書いてあったはず・・・魅了はすぐばれるでしょう?見ただけでもわかるだろうし。・・・何かがばれるのが嫌で、暗示にしたのかしら。」
グレイスは少し自信なさげに呟く。
古の国には賢者がいた。
賢者であれば、もしもティアが魅了にかかっていればすぐに気付くはず。
ただの弱めの暗示だと気づかない?
いや、賢者なら気づくはず。
気づいて放置した?
危険も問題もなかったから?
古の国は確かに閉鎖的な国だけど、自国民のことを大切にしている。
もしも、ティアが何か古の国に危害を加えようものなら、引き入れることはなかったはず。
昔ティエルノ様に言われた。
幻覚魔法を使うときは、“段階をふんで”使うようにと。
じゃないと相手の心を壊してしまう、と教えられた。
メイラはそれを知っていた?
でもどうして?
そこまで詳しいことは、通常の魔法教育にはない。
「グレイス様。メイラに会わせてもらえないですか?」




