十九話
次の日の昼休み。俺はいつも通り、いや、以前の俺のように寝たふりをしていた。
昨日ベットに潜り色々考えてみたが一度確信づいた回答は覆ることはなかった。しかしなんで俺はこんな簡単な答えに気づかなかったのだろうか。友達もいないボッチな俺に好意を寄せる女の子なんていないということに。
俺は自惚れていた。自分がまるで青春ラブコメディの主人公だと思い込んでいたのだ。本当は主人公達を遠めに羨むモブキャラが妥当だというのに。超恥ずかしいな俺。
「ルシフェール様。お昼にしましょっ!」
俺がそんなことを考えているとは知らず、天ヶ原さんがいつもの調子で声をかけてくる。
俺は依然と寝たふりをしている。今日は彼女の顔を見たくはなかった。
「ルシフェール様? どうなされたんですか? 具合でも悪いんですか?」
無視されていることに気づいていない天ヶ原さんは俺の体調まで気遣ってくれる。全く天ヶ原さんはどこまで優しいんだろう。
でも、その優しさは……。
俺はそれ以上は考えるのを止めて、体を起こし彼女を見た。
すると天ヶ原さんは。
「あ、お目覚めですか? 今日も張り切ってお弁当作ってきたんですよぉ。はい眷属特製の愛情たっぷりお弁当ですっ!」
天ヶ原さんはニッコリと笑顔の花を咲かせて、俺にお弁当を差し出してくる。
俺の中に生まれた虫がピクリと反応した。
その笑顔は誰に向けられた物だ? その愛情弁当は誰に対して思いを込めた弁当だ? その優しさは誰を思っての優しさだ?
分かってるよ。全部俺じゃあないんだろ?
「…………気分悪いから食べられないや。ごめんね」
俺は愛想笑いを浮かべて、弁当箱を彼女に返した。上手く笑えているかは分からないが。
「そうですか……いいえ謝らないで下さい。今日の愛情の分、明日倍にしてお弁当作ってくるんで!」
彼女は少し残念そうな顔をしたがすぐえへへと笑った。
虫がモゾモゾと蠢き始めた。
「それよりルシフェール様。本当に大丈夫ですかぁ? なんだか顔色が悪いですよ」
彼女が心配そうな表情で俺を見つめる。
虫が体の内側を這いずり始めた。
「無理なさらないで保健室行きましょうか? 私ついていきますよ?」
虫が這いずりながら上へ登っていき、俺の喉元まできやがった。
やめてくれ。もうこれ以上俺に優しくしないでくれ。
でないと俺は。
「もしお熱があったら直ぐ帰りましょうね。看病は私に任せてください。治るまでずぅーっとお世話しますから。だって私はルシフェール様の眷属ですからね!」
そう言って天ヶ原さんは少し照れくさそうに笑った。
俺は……俺は……。
「…………もうやめよう。こんなこと」
「へ? やめるってどういう意味ですか?」
先程の笑顔から表情が曇る天ヶ原さん。
「だから、こういうことだよ。一緒にお弁当を食べたり遊んだり……眷属ごっこはもうやめようって言ったんだ」
「ルシフェール様? どうなされたんですか?」
「その名前で呼ぶんじゃねぇっ!」
俺は机を両拳で思い切り叩いた。
「俺はルシフェールなんかじゃないんだ! 堕天使でもなければ君のマスターでもない。ただのプライドだけが一丁前の冴えない男なんだ! 」
「で、でもルシフェール様はルシフェール様で……」
「だから違うっていってるだろっ! ルシフェールは俺が作った架空のキャラクターなんだ! 君が好きで好きで愛して止まない人はこの世界には存在しないんだ!」
「でも……でも……」
「……天ヶ原さん。もうやめてくれ。俺は辛いんだ。だからもうやめてくれ……」
虫は俺の口から醜い姿をさらけ出して辺り一面に毒を撒き散らした。
天ヶ原さんはもうこれ以上何も言わず、ただ唇をかみ締めて自分の席に戻った。
俺はまた机にうつ伏せになって寝たふりをした。ああ、俺はなんて格好悪いんだろう。でもこれでいいんだ。
これがいいんだ。天ヶ原さんも俺のことなんか早く忘れてもっと素敵な男に出会ってそれで幸せになればいいんだ。
俺に青い春なんて似合わないんだ。
俺はひっそりと目を閉じる。暗闇の中で目を閉じてもそこには闇しかないのだがそこが俺の唯一の居場所だった。
俺はこの日を境にルシフェールとしての活動を辞めた。そして天ヶ原さんは学校へ来なくなった。




