夕方の会話 in the evening
幼き二人と現在の二人。
「アーティー!!」
「どうしたんだ、ネル?そんなに慌てて」
「おめでとう!!」
「は?」
「君が当代の勇者に選ばれたよ!!」
「…冗談だよな?お前の得意の」
「ボクはそこまで悪趣味じゃないよ!ほんとだって」
「いや、だって。俺より優秀なやつはたくさん…」
「…成績で決まるものじゃないのかも。とにかく!おめでとう!というわけで」
「おい、その何か企んでそうな笑顔やめろ」
「君の奢りで今日はパーチーだぁ!!」
「なんで?!なんで俺の奢りなんだ?!ふつうお前もちだろう?しかもパーチーってなんだ、言い方が爺さん臭いぞ」
「そのほうがかわいいもん」
「お前に可愛さなんてものがあったことが驚きだよ。俺は奢らないからな。当たり前だろう?」
「ええ~、アーティーのけち!せこい!吝嗇家!」
「り、吝嗇家って…。そこまで言うか」
「言う!君が奢ってくれるまで言う!」
「はぁ…。わーったよ、アイスぐらいなら奢ってやるから!…ったく、なんで俺が」
「やった!ほら、勇者に慣れた嬉しさでつい財布の紐も緩んじゃうでしょ?」
「…別にそんなんじゃない。お前がしつこいから」
「じゃぁ、ついでにハンバーガーとシェイクとポテトと…」
「調子に乗るなぁっ!!」
***
「覚えてるか、ネル」
「ああ、そういうこともあったねぇ。君ってば本気で怒るんだもん。面白くってついついやりすぎちゃうんだよね」
「お前昔から俺をおもちゃにしてたよな」
「うふふ。アーティーは優しいからね」
「甘えすぎ」
「うん、そうだね」
「だから、今回だけは、お前の言うことは聞いてやらない」
「アーティー?」
「絶対、お前を殺したりしない。ちゃんと助ける」
「…助けるって、ねぇ?ボクは魔王なんだよ?倒すべき相手じゃないか」
「何言ってるんだ。…俺にとってお前は助けるべき『お姫様』だ」
「………やられた。まさか前のボクの言葉にそう返すなんて」
「顔、赤くなってんぞ、ネル」
「君が恥ずかしいこと言うからだよ」
「首を洗って待っていろよ、魔王。必ず助ける」
「……できるものならやってみたまえ、勇者」
ネルの眼は少し潤んでいた。




