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Re.NARIA  作者: 朔夜 百舌
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第二話 妹

「最強?お前が?」

 隼人は、ナリアを疑いの目で見る。ナリアはどっからどう見ても、年端も行かない少女でしかなく、最強とは世辞でも言い難い。

「私は最強ですよ」

「嘘つけ」

 隼人は、ナリアの頭にポンっと手を載せ、まるで小さな子供を相手にするかのように、かがみながら言った。

「こんなちんちくりんが最強とか、面白い冗談だな」

「だーれがちんちくりんですか!」

「お前以外誰がいるんだよ」

「それは暴言に値します!訂正の要求をします!」

「嫌だね。ちんちくりん」

「だーかーらー!いいんですか?この最強の私を怒らせても」

「そういえば、最強とか言う設定があったな」

「忘れるの早すぎますよ。あと設定ではなく、本当に最強です!」

「はいはいそうですか。じゃあ最強だったら一人でもやっていけるよな。じゃ、俺は帰るから。じゃあな、最強さん」

「はい!私は最強です!」

 最強と言ってもらい、満足そうにしているナリアを横目に、隼人は建物から出て行った。

「さて、帰るか」

 隼人は、まっすぐ家に帰る。依頼の品は見つけたし、もうこの区域に居座る必要がないからだ。あとは家に帰り、あのカプセルを引き渡せばいいだけだ。中から変な少女が出てきたが、依頼内容はあのカプセルであって、中身ではない。だから問題はないはずである。


 隼人は家へ着くなり、ソファにもたれかかった。ソファはすでに古びており、クッション性がなくなっていて座り心地が良いものではない。しかし、異様に疲れた今だと、このソファですら心地よく感じる。

「それにしても、あいつは何だったんだ。ナリアだっけ?どうしてあのカプセルから出てきたんだ?それにヒューマノイド型AIだとかなんとか言っていたよな……」

 隼人はそのままソファに寝転がる。

「そもそもAIってなんだ?パソコンとかにある、コンピュータの一種だったとは思うけど……でもただの機械があんなヒトみたく話せるものか?」

 分からなかった。考えたところで、そもそも隼人にそのような知識がないため、どれだけ時間を使っても、結論が出るはずがなかった。

「よし、なら調べるか」

 隼人はソファから飛び起きて、すぐに家を出た。隼人が向かったのは、『墓地』を出て、しばらくの距離にある一軒家だった。

 隼人は一軒家の前へ着くと、インターホンを鳴らす。インターホンの横には、芳田と書かれたプレートがあった。そう、ここは芳田佐奈の家である。

『はい。芳田ですけど——って、相川君!どうしたの?』

「えっと……芳田の家ってさ、パソコンとかあったよな」

『あるけど、どうして?』

「ちょっと調べ事したくてさ。それで少し使わせてくれないかなって」

『そうなんだね……うん、いいよ。鍵は開いているから入って』

 どこか寂しいような声色ではあったが、芳田はパソコンを使うことを許可してくれた。

「おじゃまします」

 ドアを開ける。隼人の家とは違い、真新しく、綺麗なドアだ。それに、ドアだけではない。外観も綺麗な白色で、ひび割れなどはなく、壁に蔓などが生い茂っているわけでもない。家の中も埃一つなく、フローリングも穴が開いていたり、ソファも破けたりしておらず、座り心地がよさそうだった。

「急にごめんな、芳田」

「ううん。気にしないで。いつでも頼ってって言っているのは私なんだし。パソコンはここにあるから、自由に使って」

「ありがとう」

 隼人はパソコンの前に座り、検索エンジンを開いた。そして、隼人はAIとは何なのかということを調べる。

「AI?」

「そう。ちょっとね……」

 隼人は、検索結果を一通り目を通した。その内容は、AIは人工知能のことであり、人間の知能を模したものである。しかし、いまだにその技術は乏しく、膨大な計算をこなしたり、情報検索を少し楽にしたりする程度で、人のまねごとなどはまだできるものではない。それに、AIを動かすためには、部屋を埋め尽くすような巨大なコンピュータが必要とされる。そのため、日常で関わる機会は少ないものである。一部では、戦時中に超高度なAIが実用化されたとも書いてあったが、信憑性の低いサイトだったし、そのサイト以外では見なかった。やはり、人のように話したりするAIは夢物語でしかない。

「なるほどね……」

「AIってすごいんだね。人間がやろうとしても、時間がかかってしまうことが一瞬でできちゃうなんて」

「でもそれもある程度限度はあるし、何よりそう簡単に使える代物ではなさそう」

「そうっぽいね。それでどうしてそんなものを?」

「いや、今日少し仕事でAIって単語を聞いてな。それでどんなものなのかって思って」

「どんな仕事なの?」

「探し物」

「ふーん。相川君が何をどうするかは自由だけどさ、あまり無茶とかしないでね」

「大丈夫だよ。犯罪行為だけは絶対にしないから」

「ならいいけど……それじゃあ私は少しすることがあるから。すぐもどってくるけど」

「分かった。もう少し使わせてもらうよ」

「どうぞどうぞ」

 その後隼人は、AI以外にもヒューマノイドについても調べたが、やはりナリアのようなものは見つからなかった。人と外見が似ているものどころか、そもそも人に似せられているものはなかった。検索で出てきたのは、見た目は金属でできており、無機質な外観になっていて、姿勢も人間というより、類人猿のような姿勢のものばかりだった。

「やっぱあいつの言っていたことは冗談か何かだったか……ていうか、よく考えてみれば当たり前だよな」

 隼人が、ため息交じりに呟いた。すると、右後方から声がした。

「何が当たり前なのですか?」

「何がって、そりゃあナリアがヒューマノイドだかAIだかって話だよ」

「それなら冗談でもなんでもないですよ?私は本物のヒューマノイド型AIですから」

「だからな、それがおかしいって——は?」

 隼人は声の聞こえる方へ振り向く。そこには、堂々として立っているナリアがいた。さも当然かのように、芳田の家へ入り、人の独り言に対して返事をし、すごいでしょと言わんばかりの顔をしていた。

「お、おお、お前!どうしてここにいるんだよ!」

「どうしてって、そりゃあマスターの元に行くのは当然ですから!」

 当たり前のことをやってのけたと、無い胸を張っている。

「どうしてここってわかったんだよ……!」

「それは私が最強だからです!」

 また意味の分からない返しをする。

「えっと、相川君その子は?」

 用事が終わったのだろうか、芳田が戻ってくる。すると、見知らぬ少女が勝手に家に入っていて、その子が隼人の横で隼人と話している状態に、驚きが隠せなかった。手元には、二人分のお茶が入っていたコップがあったが、それを落としかけてしまうほどに動揺していた。

「えっと……」

 隼人が、何て説明すればいいか迷っていると、ナリアが先に口を開いた。

「初めまして!私は、ヒューマノイド型AI、NARIAと言います」

「えっと……私は芳田佐奈です。よろしく?」

「よろしくお願いします」

 ナリアは元気よくお辞儀をした。まるで小さな子供だ。

「あの……相川君……」

「だよね、俺も困惑した。ちなみに調べ物の原因はこいつな」

 隼人がナリアを指さす。

「こいつとは……マスターは酷いです!私はNARIAです!ちゃんと名前があります!なのでちゃんと『ナリア』と呼んでください!」

「俺にだって相川隼人って名前がある。俺はお前のマスターではない」

 むぅっと頬を膨らませてナリアが怒る。そんなナリアを無視して、隼人は芳田に話しかける。

「仕事で色々あってな。そしたらこいつを見つけたんだ。そしたらだ、急に自分はヒューマノイド型AIだとか言い出すわ俺のことをマスターと呼ぶわでさ……」

「何が何だか私にはわからないよ……」

「安心しろ、俺もわからない」

「それでさ、どうして……ナリアちゃん?がここにいるの?」

 隼人はナリアを見て、説明を促す。

「はっ!私が説明するのですね!」

「当たり前だ。俺だって気になる」

「なぜか、それはもちろん私が最強だからです!」

「はいはい。で、本当は?」

「マスターならすぐに私のことについて調べると思ったので、AIやヒューマノイドと調べている端末を探しだしました」

「は?なんだよそれ。そんなことができるわけ——」

「できますよ」

 ナリアが遮る。ナリアの目を見ると、どこか冷たい目をしていた。しかし、すぐに無垢な子供のような表情に変わり、両腕を胸の前で引き絞るように構える。

「なーぜーなーらー——私が最強だからです!」

 最強と言うと同時に、溜めていた両腕をバッと開いて飛び跳ねた。


 一旦ナリアを椅子に座らせ、隼人も向かいに座る。

「お待たせ。お茶ですよ」

 芳田が、三人分のお茶を用意して、隼人の横に座る。

「それで、結局お前は何者なんだ」

「先ほどから言っているじゃないですか。私はヒューマノイド型AIですよ」

「だからそれが意味わかんないって言ってんだよ。さっき調べた限りだと、そんな代物は存在しない」

「ですが……確かに検索してみても、私のような存在は見つかりません……ですが!私はれっきとしたヒューマノイド型AIです!マスターだってうすうすは分かっていますよね?」

「まあ……俺のことや仕事のこと、それに芳田の家まですぐに特定されはしたが……けど、AIならできるとしたとしても、そんなコンピュータはどこにあるんだよ」

「ここです」

 ナリアは、自分の頭を指さす。

「私のここにありますよ」

「それは……どういうことだよ」

「簡単に言えば、小型化に成功したってことですよ」

「じゃあなんでそのことが世間に出回ってないんだ?」

「さあ?」

「さあって、わからないのかよ」

「残念ながら……」

「なんで作られたとか、これまで何してたとかは覚えてるか?」

「いえ、実はそのあたりの記憶がなくて……私も知りたいと思い、色々と調べたのですが、どれもヒットしませんでした」

 芳田が椅子から立ち、しょぼくれているナリアの肩にポンっと手を載せる。

「ねえ相川君。さっき調べてた時に、少し気になる記事なかった?」

「気になる記事?」

「うん。戦争の時に高性能なAIが開発されたとか」

「あれか。でも信憑性が——」

 隼人は、目の前にいるナリアを見て言葉を無くした。ナリアを見ていると、記事の内容に信憑性を感じ始めたからだ。

「なあナリア。お前って戦争の時どうしてたんだ?」

「残念ながら覚えていませんね……調べはしましたが、戦争に関することはなぜか検索できなくて……」

「検索できない?」

「はい。フィルターのようなものがかかっていて。闇サイトや、国家機密程度なら簡単にアクセスできるのですが、どうも戦争関連になるとほとんど検索できません」

「うーん。じゃあもしかして、そこにお前の記憶に関することでもあるのかもな」

「そうだね。ねえ、ナリアちゃん。戦争に関することは全て無理なの?」

「あ、いえ。そういうわけではないようです。皆さんが知っているようなことは基本調べられますよ。ですが、それ以外は……」

 ナリアは申し訳ないと、顔を伏せる。

「なあ、俺たちサラッと流してるけどさ、そもそも、普通じゃ知りえないことも知れる時点で十分やばいぞ」

「あ、そっか。それに相川君の居場所とかも特定できてるし」

「すごいでしょ」

 ナリアが無い胸を張っているが、いったん無視することにした。

「そうなるとやっぱり、国が戦争用で作ったとかじゃ……」

「かもね……」

「なあ、こいつをこのままってのはやばくないか?」

「どして?」

「そりゃそうだろ。もし俺たちの考えがあっていたら、それって軍事機密みたいなものだろ」

「そっか。それはやばいかも……」

 二人は、胸を張って鼻息を鳴らしているナリアを見る。

「ん?どうしたのですか?」

「なあ、もう一度問うが、お前は何者だ?」

「私はヒューマノイド型AIのナリアですよ?どうしてもう一度確認を?」

 隼人は立ち上がり、ナリアの側に歩く。

「お前、俺たちの予想では、相当やばい存在なんだ」

「さすが私ですね」

「ああ。だから、お前を国に引き渡す」

「え?」

「すまん」

 ナリアは勢いよく立ち上がり、隼人の服を握る。

「ど、どうしてですかマスター!私はいらないんですか?」

「いるいらないじゃないんだ。いたらだめなんだよ」

「ですが……」

 ナリアは、今にも泣き出しそうな声で隼人に訴えかける。

「私は……私はマスターの……マスターのお役に……」

「だけど……」

 すると、芳田が隼人に歩み寄る。

「ねえ相川君。なんだか、今のナリアちゃんがかわいそうに見えてきたよ……やっぱ国に渡すのはやめない?」

「だけど……」

「相川君も本心じゃないんでしょ?」

「それは……まあ……国に渡したところで、どうなるかは大体想像はつくけどさ……」

 もともと、ナリアは国家機密だった。それが、じいちゃんの会社で密かに保管されていた。そしてそのナリアが入ったカプセルに、五億もの懸賞がかけられていた。あれはたぶん国が出したものだ。それほど、重要なもの。回収しなければならないものなのだ。それが隼人の出した答えである。

「ねえ、相川君。少し様子見をしない?」

「だけど……こいつをどこに置いておくんだよ」

「それは——考えてはなかったけど」

 すると、ナリアが能天気に提案する。

「私のマスターはあなたです。なのでマスターの家に行きます」

 ナリアは、まっすぐ隼人を見つめる。隼人は、ナリアに見つめられ、照れくさくなり、顔を背ける。

「あ、あのな。俺の家はその……人を招けるようなところじゃないんだ」

「私はそれでもかまいません」

「でもな——」

「ねえ相川君。一回家に連れ帰ってみたら?」

「私もそれがいいと思います!」

「はあ、わかったよ……じゃあ一回帰るか。色々とすまんな、芳田」

「ううん。大丈夫だよ。また困ったときは、いつでも私を頼ってね」

「ああ。感謝するよ」

 そうして、隼人とナリアは、芳田の家を出て、まっすぐ隼人の家へ向かった。


 隼人は、玄関のドアを開け中に入る。

「おじゃましまーす!——ここがマスターの家ですか」

「何もないし、ボロボロだけどな」

「それでもなお使い続けているのは、素敵なことです」

「素敵なことね……まあ、お前はそこらへんでくつろいでいてくれ。俺はすることがあるから」

「それなら私も手伝いますよ!マスターのお役に立ちたいのです」

「いや、いい。気が散るだけだからそこでじっとしていてくれ」

「ですが……」

「俺がマスターなんだよな?」

「はい!あなたが私のマスターです!」

「よし、なら命令だ。そこでじっとしていろ」

「あ……えっと……わかりました」

 隼人の手伝いができなくて残念だったのか、ソファの上で三角座りをして俯く。その姿を見ていると、無性に申し訳なく感じる。しかし、相手は人間ではなく、ロボットだ。AIだ。悲しいとか、残念だとか、そう言った感情を持ち合わせてはいないはずである。だとすると、その行為は、今最もふさわしいしぐさをしているだけだ、と隼人は考えるようにして、すぐにガレージへ向かった。

 ガレージには、いくつかの工具などが置いてある。しかし、どれも新品ではなく、あちこちから拾って来たものばかりで、どれも錆びついている。

 隼人は、棚の上に置いてあった工具箱を手に取り、タイヤの付いていないバイクの横にしゃがみ込んだ。このバイクは、隼人が長い時間をかけて、修理しているものだ。戦争が始まって、まともに学校に行ったり、仕事ができなかった隼人には、もちろんバイクの修理などの知識はなかった。そのため、長い時間をかけて、たった一人、独学で修理し続けている。

 隼人は工具を取り出し、修理を始めた。

「あと少しなんだ……」

 あと少し。あと少しでバイクの修理が完了する。そのことだけを今はモチベーションにして、黙々と修理を続ける。


 隼人が修理を始めて、二時間は経つだろうか。額には、滝のような汗を流し、汚れた手で拭った跡が付いている。

 隼人は、休憩としてすぐそばに置いてあるパイプ椅子に座って、一息つく。夕方になったとはいえ、夏は暑く、体力を大きく消耗させたのだ。

 そうして、隼人が休んでいると、ガレージに入るためのドアが開く。そこには、お茶を持ったナリアがいた。

「どうしてここへ来た。俺は待っとけと命令したはずだ」

「はい。でもマスターが戻ってこなかったので。それで、きっと喉も乾いているだろうと思ってお茶を持ってきました。いけなかったでしょうか」

 声色からも、ナリアが自分が指示に背いたことをしているということは、自覚しているようだ。ナリアの独断で、お茶を隼人に持ってきた。これは命令違反ではあるが、理由が理由だったため、これ以上咎める気分にはならなかった。

 隼人はお茶を受け取り、一口で飲み干す。

「ありがとう」

「どういたしまして!」

 感謝の言葉を聞き、ナリアはまた元気を取り戻した。

「それで、マスターはなにをしていたのですか?」

 ナリアが首を傾げて聞く。そして、奥に置いてあるバイクに目をやった。

「修理ですか?」

「そんなところだ」

「どうして……」

「俺には金がないからな。自分で直すしかない。それに、できれば他のやつにはやらせたくもないしな」

「それって——」

 ナリアは周囲を見渡す。そして、ポツンと一つ置かれた写真立てを見つけた。ナリアは写真立てに近づき手に取る。

 写真には、バイクの前に三人が立っていた。中央に大人の男性が一人、その男性の右手には幼い男の子、きっと隼人である。そして左手には隼人よりも小さな女の子が写っていた。

「お父さんのバイクなのですか?」

 ナリアは写真を隼人に見せながら聞いた。

「ここに写っているのってマスターのお父さんですよね?それにこの女の子は——」

「俺の妹だ」

「その妹さんって今はどこに?」

 ナリアは、純粋な疑問を、隼人に問いかけただけだった。しかし、その質問は隼人にとってはしてほしくもなかったのだろう。表情が沈み込み、ナリアから顔を背けた。

「いないよ。もう」

「いない、ですか」

「行方不明だ。戦争が始まった時からな」

「……」

 ナリアは沈黙した。初め、この写真を見た時、隼人の父親と妹について検索をした。父親はすぐに戦争で死んだと断定できた。しかし、妹については、まったく検索にヒットしなかったのだ。だからこそ、隼人に聞いたのだ。

「芳田さんの誘いを断り、マスターがこの家に居続ける理由って——」

「待っているんだ。妹が帰って来た時に、家に誰もいなかったら寂しいだろ?両親は死んで、残った兄もどこかで悠々と暮らしている。そんなとこ、妹には見せられないよ」

「それでこの家に一人で、ですか?」

「ああ、そうだ」

「それは——それまでマスターはずっと一人なのですか?」

 ナリアの返答が、隼人にとって思いがけないものだったのだろうか。先ほどまで目を合わせていなかった隼人は、漸くナリアをその目にしっかりと映した。

「そうだな。独りだった。独りで待ち続けると決めたんだ。妹が、紬が帰ってくるまでな」

 隼人は、ここでやっと自分の妹の名前を口に出した。妹の紬が行方不明になり、ずっと帰ってこなく、気が付けば隼人は妹の名前を呼ぶのを避けていた。その名前を口に出せば、大切な妹を失った悲しみと、守れなかった自分への怒りが込み上げ、心がぐちゃぐちゃになりそうだったからだ。そうして、気が付くと隼人は、妹の名前をその口から言うことはなくなっていた。何年も。もう妹の名前をどうやって発声するのかすら忘れてしまいそうなほど、隼人は名前を呼ばず、妹とだけ言い続けた。

 しかし、今この瞬間に、隼人は妹の名前を口から発することができたのだった。「紬」と。

「それじゃあマスターはこれからもずっと一人で——」

 悲しいと言った表情だろうか。ナリアは手を胸元に押し当て、顔を俯かせていた。今にも涙が溢れそうな——しかし、泣くことはない。

「何言ってんだよ」

「え?」

「今は——これからはお前が、ナリアがいるんだ。俺はもう一人じゃないよ」

「ま、マスター……」

「マスターはやめてくれ。隼人でいい」

「……はい。隼人さん!」

 ナリアは、太陽のような笑顔で笑った。満面の笑みだ。それほどまでに、彼女にとっては嬉しかったのかもしれない。マスターである隼人の役に立つことが、一緒にいることが。

「これからよろしくな。ナリア」

「よろしくお願いします!隼人さん!」

第二話 妹

タイトルが適当だと思ったそこのあなた、その通りです。いいタイトルが思いつきませんでした。


というわけで、前回に引き続き時間稼ぎのための投稿です。今週忙しくてまったく書けませんでした......

もっとも、今現在登校してある作品とは、また別で書いていたやつにお熱だったかというのもありますが。


何はともあれ、Re.NARIA第二話 妹 をお楽しみいただけたなら光栄です!

ではまたいつか!

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