第9話領主の徴税と歪んだ法律
鼻を突く家畜の臭い。ぬかるんだ泥道。
辿り着いた東の果ての領地は、お世辞にも栄えているとは言い難い。
それなのに、広場に集められた領民たちの表情は、一様に恐怖で引きつっていた。
「おい、ぐずぐずするな! 今月分の『通行税』と『生存税』を差し出せ!」
怒号が響く。
革鎧を着た兵士たちが、老人の手から強引に麦の袋を奪い取っていた。
泣き叫ぶ子供。それを冷酷に見下ろすのは、天幕の奥、豪華な椅子に深く腰掛けた肥満体の男。この地を治める悪徳貴族、ハロルド伯爵だ。
「無礼な平民どもめ。私の領地を歩き、私の領地で息をしているだけで税が発生するのは当然だろう」
贅沢に指輪を嵌めた手で、極上の干し肉を口に放り込む。
この男、自らの遊興費を稼ぐためだけに、毎週のように新しい税を勝手に作り出していた。逆らう者は即座に反逆者として処刑。魔法もスキルもないこの世界、領主の命令は絶対の法だ。力なき領民に拒否権など最初からない。
「……ひどすぎる。何が生存税よ」
ある少女の声が聞こえる。10数そこらだろうか。
怒りに身体を震わせ、袖をぎゅっと掴む。
ある人は、今にも飛び出しそうな目付きで睨みつけていた。
「大丈夫。あんな理不尽な法律、世界ごと消してしまえばいい」
静かに脳内の画面を立ち上げる。
【ハロルド・フォン・クライスト】――ステータス:強欲・領主
いつもなら、ここで即座にミュートのボタンを押す。
けれど、今回は少しやり方を変える。この男をただ消すだけでは、この領地の混乱は収まらない。
僕は、ハロルドのステータス画面の裏にある、もう一つの項目に視線を走らせた。
【領地所有権・爵位】――『譲渡・書き換え可能』
なるほど。僕のこの画面、ミュートするだけが能じゃないらしい。
僕はニヤリと笑みを浮かべ、あえて兵士たちの前に姿を現した。
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