第7話泥棒ギルド長
実家との因縁をミュートし、王都を離れて自由な旅に出た僕。
気分はとてもすがすがしく、足も軽い。
新しい街の賑やかな市場を歩いていると、五感を猛烈に刺激する、とてつもなく香ばしい匂いが漂ってきた。じっくり煮込まれた肉と、独自のスパイスが絡み合った、鼻に抜ける極上の香りだ。今まで嗅いだことのない最高の匂い。
(すごくいい匂いだ。何があるのだろうか)
「行ってみようか」
匂いに誘われてたどり着いたのは、小さな路地裏の飯屋だった。そこまで大きな店ではなく、でも繁盛しているらしい。木でできたその飯屋はとても温かみがあったあ。
店を切り盛りしていたのは、お玉を握りしめた、元気そうな赤髪の少女――シャロンというらしい。
「へい、いらっしゃい! うち自慢の特製肉煮込み、食べてきな!」
「とってもうまいよ!」
「あ、ありがとうございます。」
お礼を言いながら出された料理を一口食べた瞬間、僕は目を見張った。
この世界で、ただの素材と火加減、そして彼女の圧倒的な技術だけで、これほど深い味わいが出せるなんて。まるで魔法でも使ったよう。
一瞬で、僕の脳内画面に【シャロン】がフレンド候補として登録される。
しかし、至福の時間は、ガシャーンという激しい音で破られた。
店の看板が、荒々しく蹴り倒されたのだ。
何が起きたのかと、音のした方を見る。
「おい、シャロン! 今月の『上納金』と、その煮込みの『秘伝のレシピ』を早く渡してもらおうか!」
ニヤニヤと下品な笑みを浮かべて入ってきたのは、この街の料理ギルドを牛耳るギルド長、バルトというやつだった。数人のガロの効いた荒くれ者を従えている。いかにも、悪者らしい格好と、無様な棒を持っている。
「バルト! 上納金なら先週払ったはずでしょ! それに、レシピは私が何年もかけて作ったものよ。なんであんたに渡さなきゃいけないの!」
「フン、この街で料理店を開くなら、料理ギルド長の俺にすべての権利を譲渡する規約になっているんでね。拒否するなら、お前を『毒混じりの料理を出した犯罪者』として役所に突き出し、二度と包丁を握れないようにしてやるぞ?」
バルトは懐から、偽造された役所の告発状をチラつかせた。
平民の料理人が、ギルド長という権力者に目を付けられれば、どれだけ美味いご飯を作ろうが、一瞬で職を奪われ路頭に迷う――それがこの理不尽な世界の現実だ。
「くっ……そんなの、あんまりよ……」
シャロンが悔しさに拳を震わせる。
「なるほど。美味しいご飯の邪魔をするクズは、僕の視界には必要ないな」
僕は静かに立ち上がり、脳内のシステム画面を展開した。
【バルト(料理ギルド長)】――ステータス:強欲・泥棒
これから、あの汚い男をミュートする。
僕はバルトの横にいる荒くれ者たちの名前を、視線で次々とタップした。
「さようなら」
読んでいただきありがとうございます!
評価とブックマークをおねがいします。
次回もお楽しみに。




