第5話実家からの刺客と、不遜な兄
ニーナが僕のために作ってくれた新しい上着は、驚くほど軽くて動きやすかった。深みのある紺色の生地は肌触りも良く、何より僕の体型にぴったりと馴染んでいる。
「ルーク様、本当に仕立て映えしますね! とってもお似合いです!」
「ありがとう、ニーナ。本当に気に入ったよ。とても動きやすいし。」
ゴードンをミュートしてから数日後。僕はニーナの工房に顔を出し、出来上がったばかりの服を受け取っていた。彼女はゴードンの脅迫から解放され、今では以前のような明るい笑顔を取り戻している。よかった。この笑顔を守ることができて。
僕たちの間には、脳内のシステム画面で黄金色に輝く【フレンド】の絆が確かに結ばれていた。
しかし、そんな穏やかな時間を壊すように、工房の薄い木の扉が乱暴に蹴り開けられた。
「――おいおい、ずいぶんと呑気な面をしているじゃないか。実家を追い出された無能の出来損ないが、こんな小汚い工房で女の尻を追い回していたとはな」
嫌味な笑みを浮かべて入ってきたのは、仕立てのいい軽装鎧を身に纏った青年だった。僕と同じ髪色をしているが、その鋭い目付きには傲慢さと冷酷さが張り付いている。
僕の兄、エドワード・アルベインだ。
剣技の才に恵まれ、若くして実家の近衛騎士団入りを決めた彼は、幼い頃から武才のない僕を「一族の恥」「寄生虫」と罵り、いたぶってきた。殴られたり蹴られたり。家での記憶がフラッシュバックする。
彼の背後には、アルベイン家の紋章を胸に刻んだ数人の私兵が控えている。
「エドワード兄さん……。どうしてここが分かったの」
動揺しながらも、その様子を見せまいと落ち着いた表情で話す。
「お前の動向くらい、調べればすぐに分かる。父上からの伝言だ。『アルベインの名を騙って王都をうろつかれるのは不愉快極まりない。即刻、この国から失せろ』とな」
エドワードは工房の売り物である生地のロールを、革靴の先で小突いて床に転がした。
「ひっ……!」
ニーナが悲鳴を上げ、僕の背後に隠れて震える。エドワードはその様子を見て、さらに下劣な笑みを深めた。
「ふん、まあいい。ただ出て行けというのも能がない。この工房は、我がアルベイン家が直轄する兵舎の物置として、本日付で強制回収することになった。おい、この女を外に放り出せ。ついでにこの無能の荷物も全部叩き出せ」
「待ってください! そんなの横暴です! ここは父が私に遺してくれた大切な場所なのに……!」
ニーナが涙ながらに叫ぶが、私兵たちはにやにやと笑いながら彼女の腕を掴もうと距離を詰めてくる。
腐れきったこの世界。貴族の権力と武力を使えば、平民の工房を握りつぶすことなど造作もない現実。エドワードたちは、自分たちが絶対的な強者だと信じて疑っていない。
けれど、僕の前では、その権力も武力も何の意味もなさない。
(ルーク、頭の中のシステム画面を展開)
【エドワード・アルベイン】――ステータス:傲慢・身内
【アルベイン家私兵(複数)】――ステータス:従属・粗暴
「ニーナ、僕の新しい上着を汚したくないから、少し下がっていて」
「え……? ルーク様?」
僕は一歩前に出ると、エドワードの背後にいる私兵たちの名前の横にある三点リーダーを、視線で一斉にタップした。
(今に見てろ)
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