第2話世界からのミュート
「ふぅ……」
カフェを出て、王都の賑やかな大通りを歩く。
心はすごく軽く、今までため込んでいたものが一気に解放された気分。足取りも軽く、すがすがしい。
(なんでもっと早くやらなかったんだろ)
僕が使った『ミュート機能』。
それは単に僕の耳に相手の声が届かなくなるだけではない。
僕が相手を「ミュート」した瞬間、この【世界そのもの】が、その相手の存在を「無視」し始めるのだ。
世界からのミュート。
それは、周囲の人間から認識されなくなる、恐ろしい「社会的抹殺」の始まり。
(いい気味だ。オレの気持ちを分かるといい)
試しに、僕は少し離れた場所から、先ほどのカフェのテラス席を買い物のついでに観察してみることにした。ミュートした本人だけが、声を聞くことができる。まあ、もちろん普段は聞こうとしないけど。
テラス席では、エレナがまだ怒り狂っていた。
僕が途中で立ち去ったことが許せなかったのだろう。彼女は、通りかかったカフェの店員を大声で呼びつけた。
「ちょっと! さっきの男がどれだけ無礼だったか、貴方も見ていたでしょう!? あんなゴミみたいな男、二度とこの店に入れないようにしなさい!」
エレナは激しい身振り手振りで店員に詰め寄る。
しかし――店員の反応は奇妙なものだった。
「……? おや、お会計ですか?」
店員は、エレナの激昂を完全にスルーし、虚空を見つめるような目で、淡々と伝票を確認している。
完全に彼女が切れた。が、
「な、何を言っているの!? 私の話を聞きなさいよ!」
エレナが店員の肩を掴もうと手を伸ばす。だが、店員はまるでそこに誰もいないかのように、自然な動作で一歩下がり、エレナの手をすり抜けるようにして隣のテーブルの片付けを始めてしまった。
「え……? ちょっと、何よこれ。おい、お前からも何か言いなさい!」
焦ったエレナは、後ろに控えていたエリー男の腕を掴んだ。
しかし、その男すらも、ぼんやりとした目で周囲を見回している。
「あ、あれ……? エレナ? どこへ行ったんだ……? さっきまでここにいたはずなのに……」
「な、何言ってるのよ! 目の前にいるわよ! あなたの目の前に!」
エレナが男の胸ぐらをつかんで揺さぶる。だが、男は「おかしいな、急に寒気が……」と呟くだけで、目の前で叫ぶエレナの顔を、文字通り『見て見ぬ振り』ならぬ『見えていない』状態になっていた。
エレナの叫び声は、通行人たちの耳にも届かない。
彼女がどれだけ大声で叫んでも、人々はただの「風の音」か「雑音」として処理し、誰一人として彼女と目を合わせようとはしなかでたのだ。
「あっはははははは!」
「いい気味!」
世界から無視される、透明人間状態。
これから彼女がお店に入っても料理は出てこないし、仕事の依頼は受けられない。誰に話しかけても、存在しないものとして扱われる。まさに無価値の人間。
自業自得、だ。僕の顔を見たくない、消えろと言ったのは彼女なのだから。ご要望通り消してあげたよ。貴方をね。これでもう僕と会話せずにすむんだから。
僕はニヤリと笑うと、どこに行こうか迷った末、市場に足を運ばせた。友達を作りたかったし、楽しい会話でもしたかったから。気分がすごく高揚しているのが自分でも分かる。
「さて……僕は僕の人生を楽しもうかな」
読んでいただきありがとうございます!
次回!市場に行ってどうなるのか!?
お楽しみに!




