第13話僕たちの新しい街、僕たちの優しい国
王宮の広いバルコニーから見下ろす街並みは、どこまでも穏やかに澄んでいた。
行き交う人々は誰もが柔らかい笑みを浮かべ、広場からは子供たちの無邪気なはしゃぎ声が響いてくる。
理不尽な税。横暴な権力。
僕を「無能」と蔑んだ元婚約者も、実家の人間も、この国を裏で牛耳っていた宰相も、もうどこにもいない。あの時、僕の脳内画面で非表示にされたクズどもは、今頃どこかで、誰にも気づかれないまま孤独な終わりを迎えているはずだ。自ら蒔いた種だ。今さら思い出す価値もない。
「ルーク様、お待たせしました! これ、新しい役人の皆さんの制服の試作品です!」
パタパタと小気味いい足音を立てて走ってきたのは、ニーナだ。わざわざ新しく立て直した大きな工房からここまできてくれた。
手渡された上着は、王宮の格式を保ちつつも、驚くほど軽くて動きやすい仕上がりになっていた。かつて悪徳商人に奪われかけた彼女の技術は、今やこの国の「新しい基準」として、多くの仕立て職人たちを育てるまでに至っている。
「本当に素晴らしい出来だね、ニーナ。これなら現場の人間も働きやすいよ」
「えへへ、ルーク様にそう言っていただけるのが、私にとって一番のご褒美です!」
ニーナは頬を少し赤らめながら、僕の隣で嬉しそうに胸を張る。
「ちょっと! 2人だけで盛り上がらないでよ、ルーク! 私だって、今日のために最高の新作を作ってきたんだから!」
バルコニーの扉を勢いよく開けて入ってきたのは、シャロンだ。店て働きながらも、週に2回、王宮にきて、食事を振る舞ってくれる。彼女の料理はみんなに大人気だ。
彼女が抱える大きなお盆の上には、湯気を立てる色鮮やかな料理がずらりと並んでいる。鼻をくすぐる濃厚なスパイスの香りが、一瞬で辺りを支配した。
「これね、この国で新しく採れるようになった野菜を煮込んだ特製スープ! これさえ食べれば、どんな疲れも一発で吹っ飛んじゃうからね!」
シャロンが自信満々にお玉を突き出す。
仕立て屋のニーナ、そして料理人のシャロン。
かつて路地裏で出会った大切な彼女たちは、今や僕の脳内画面で、他とは比べ物にならないほど眩しく輝く、最上位の【生涯のフレンド(最愛の人)】として登録されている。
「ルーク様、お腹空いたでしょう? 早く食べましょ!」
「ああ、シャロンの作った飯は、いつでも世界一だからね」
僕たちはテーブルを囲み、他愛のない雑談を交わしながら笑い合う。
そこには、冷酷な力も、張り詰めた緊張感も一切ない。ただ、互いを大切に想い合う優しい時間だけが、静かに流れていた。
この時間が永遠に続けばいい、邪魔をする人はもういないはずだから。
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