第12話宰相のミュートと最高権力
王都の謁見の間。
冷たい大理石の床の先、一段高い玉座の隣に、その男は立っていた。
「待っていたぞ、ルーク・アルベイン。お前のような若造が領主の真似事など、片腹痛い。わかったなら、その刻印をここに置いて、今すぐ失せるがいい」
あざ笑うような目で僕を見下ろす、宰相オズワルド。
彼の周囲には、国最強と謳われる王宮騎士たちが数十名、隙なく刃を構えている。
「オズワルド宰相。君は大きな勘違いをしているよ。僕がここに来たのは、従うためじゃない」
「ほう? 武才もない、魔法も使えないお前が、この状況で何ができるというのだ」
嘲笑うように声を発したあと、オズワルドが手を挙げ、騎士たちに突撃の合図を送ろうとした、その瞬間。
僕は視線で、画面上のすべての騎士たちの横にあるボタンを、一斉にタップした。
カチリ、カチリ、カチリ、カチリ。
謁見の間に、虚しい金属音が重なる。
「……ん? 俺たち、なんでこんなところで剣を抜いているんだ?」
「何のためにここにいるんだ?」
「今日の任務は終わりだったはずだ。帰ろう」
数十人の最強の騎士たちが、一瞬で武器を収め、互いに顔を見合わせながら次々と退室していく。世界からミュートされたオズワルドの声は、彼らにはもう届かない。
「な、何をしている! 戻れ! そのガキを捕らえんか!」
「おい!」
オズワルドが声を裏返して絶叫するが、騎士たちは主君の横を完全に素通りして去っていった。
「言っただろ、勘違いだって」
僕はゆっくりと階段を上り、取り乱すオズワルドの目の前に立つ。そして、彼のステータスの奥にある【国家最高権力】の項目を、迷わずタップした。
『所有者を【ルーク・アルベイン】に書き換えますか?』
【はい】を選択。
カチリ。
「がはっ……!? な、何だ、急に息が……身体が、透けて……」
オズワルドの絶叫は、急激にボリュームを失い、ただの風の音へと変わる。彼の身体は完全に透明になり、その場に崩れ落ち、誰からも認識されなくなった。
玉座に座っていただけの頼りない国王が、震える手で僕を見つめている。
僕は懐から、先ほど書き換えたばかりの「最高権力証明書」を取り出し、静かに突きつけた。
「本日をもって、この国の政治は僕が引き継ぎます。異論はありませんね?」
国王は小さく首を縦に振ることしかできなかった。
実家を追放された無能だったはずの僕が、ついにこの国の最高権力者の座にまで上り詰めてしまった。
謁見の間の大きな扉が開く、
「もう僕たちそして領地を脅かすクズは、この国には一人もいない」
膨大な土地を笑顔を見つめながら、僕は新しく手に入れた世界の地図へと、静かに視線を落とした。
「さあ、次はどうしようかな。」
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