31. 王様のライバル
そこからのアメリアの成長は著しかった。
必ず王妃まで上り詰めてやる、という野心が彼女を突き動かしたのだ。
それは、講師陣から報告を受けたロザリアが感心するほどだった。
「ほう、意外だな。早々に投げ出すかと思ったが、やるじゃないか」
共に報告を聞いていたエドワードも、驚いた様子だった。
「これだけ進んでいるなら、アメリアには今日ぐらい休みを与えてもいいんじゃないか」
「……そうですわね。たまにはいいかもしれませんね」
エドワードの提案に、ロザリアも頷いた。
するとエドワードは、ロザリアのそばにいたアンに声をかけた。
「彼女の今日の予定は?」
「今日は、アメリア様のことがないのであれば、いくつかの書類の確認と、王立孤児院の視察だけですね」
「孤児院の視察か……」
エドワードは何やら考えたのち、自身の側近に声をかけた。
「ロイ、私の今日の予定は午前中で終われるか?」
側近のロイが、何かを察した顔をした。
「陛下次第ですが、可能だと思います。これから報告予定でしたが、宰相閣下より午後の会議の資料が不十分とのことで、来週に延期を提案されております」
エドワードはにやりと笑って、ロザリアに向き直った。
「孤児院には私も同行しよう。いいか?」
エドワードとロイのやり取りを期待を込めて聞いていたロザリアは、満面の笑みを浮かべた。
「まあ、ご一緒していただけるなんて嬉しいですわ。私も急いで執務を終わらせますわね」
エドワードは、喜んでいるロザリアの手を取った。
「愛しいロザリア。私も君のために一秒でも早く終わらせるよ」
そう言うと、軽く手の甲に唇を落とした。
二人の相変わらずの甘い空気に、その場にいた者たちは皆、微笑ましく見守るのだった。
予定より早く執務を終わらせた二人は、午後共に孤児院へ向かった。
王立孤児院は、前王妃ジュリエットが創立したもので、その視察はロザリアが引き継いだ仕事の中でも、特に大事にしてきたことだった。
「料理長にたくさんクッキーを焼いてもらったんです。午前中に少し時間が空いたので、型抜きは私も手伝ったんですよ」
「それは良いね。子供たちも喜ぶだろう」
エドワードはにこにこしながらそう言うと、ロザリアをしばらく見つめていた。
「……?」
ロザリアが不思議そうな顔をすると、次に真剣な顔つきになった。
「ロザリア……、私のは?」
「えっ……あ……」
エドワードの気持ちを遅れて察したロザリアは気まずそうな顔になった。
「ごめんなさい……あの……ご用意がなくて……」
ロザリアはそう言ってエドワードの手を握った。
「今度、私が作りますから、食べていただけますか?」
上目遣いでそう言うロザリアから何かを食らったエドワードは、ロザリアの頬に手を当てた。
「私以外に食べさせてはいけないよ」
と言って微笑んだ。
二人の前では同乗していたアンとロイが、何も見えない聞こえないという顔で、窓の外を見ていた。
孤児院に到着した二人を、子供たちは列になって迎えてくれた。
「国王様、王妃様、いらっしゃいませ!」
声を揃えて歓迎してくれる可愛らしさに、二人の顔はほころんだ。
「皆さん、歓迎をありがとうございます。今日はクッキーを持ってきました。後でおやつの時間に、みんなで食べましょうね」
わぁー!と子供たちが思い思いに喜びの声を上げた。
「王妃様、いつもありがとうございます。陛下までお越しいただけるなんて、大変ありがたいことにございます。さあ、中にご案内いたしましょう」
孤児院の院長を任されているシスターフィリアが二人を中へ促して、一同はそれに続いた。
院内に入ると、ロザリアはいつも通りまず一ヶ月の運営報告を聞いた。
困り事などを聞いて、真剣に仕事に取り組むロザリアをエドワードは口を挟まず眺めていた。
そんなエドワードのマントを一人の小さな少年が引っ張った。
「王様! 王様って強いの!?」
近くにいたシスターが、慌てて少年をエドワードから引き剥がした。
「ジョージ! 陛下に失礼ですよ!」
焦るシスターを片手で制したエドワードは、少年ジョージに目線の高さを合わせた。
「私はどんな時でも王妃を護れるよう、剣の練習をたくさんしているんだ。強いと思うよ」
ジョージは声を張ってエドワードに返答した。
「お、俺だって! 王妃様を護れるよ!!」
まさかの返しにエドワードは固まった。
「……えっと、どういうことだい?」
ジョージは両手を腰に当てて仁王立ちになった。
「いつか王様に勝って、王妃様と結婚するんだからね!」
そう言い捨てて走り去って行った。
ぽかんと口を開けてそんなジョージを見送ったエドワードに、先ほどのシスターが何度も頭を下げる。
「申し訳ございません! 後ほどよく言って聞かせますので!」
するとエドワードは吹き出した後、大きな声で笑い出した。
「ロイ……。どうしよう、ライバルができてしまったぞ」
「鍛錬を怠ると、いつか奪われてしまうかもしれませんね」
ロイの冷静な言葉に、エドワードは余計に腹を抱えて笑った。
そこへロザリアが院長との話を終えて近づいてきた。
「一体どうされたんですか?」
「いやあ……君はモテるな」
「……?」
頭上にはてなを浮かべているロザリアの顔を見て、エドワードはまた笑うのだった。
それから二人は子供たちとクッキーを食べ、遊ぶ時間を設けた。
マントと上着をロイへ預けたエドワードは、袖を捲ると、子供たちと外で鬼ごっこをした。
そこには先ほどのジョージも混ざって、エドワードに負けじと走り回っている。
ロザリアはそれを見ながら他の子供たちと、孤児院の畑の手入れを手伝った。
そのうちエドワードや、走り回っていた子供たちもその中に加わった。
二人で畑で笑い合ったあの日のように、穏やかで楽しい時間だった。
帰り際のロザリアの元に、一人の少女が野花をいくつか束にして持ってきた。
「王妃様、また来てね。必ず来てね」
ロザリアはそれを受け取りながら、にっこり笑うと、
「ええ、必ず来るわね」
と、約束をして馬車に乗り込んでいった。
「エドワード様、いかがでしたか?」
「ああ、とても楽しかったよ。毎月一緒に来てもいいかもしれないな」
機嫌良くそう答えるエドワードを見ながら、ロイの眉毛がハの字に傾いたのをロザリアは見逃さなかった。
「"できる時には"、そういたしましょう」
ロザリアの返答に小さく何度も頷くロイに、ロザリアもアンもくすくす笑うのだった。
――それからさらに時は過ぎ、季節は夏を迎えた。
その日の朝、ロザリアはいつものようにエドワードと朝食を共にしていた。
「ロザリア、顔色が優れないようだが、大丈夫か?」
「ええ、少し寝不足なだけですわ。ご心配なさらないでください」
そう言って微笑んだロザリアだったが、目の前に運ばれてきた料理の香りに、思わず口元を押さえた。
「ロザリア!?」
慌てて立ち上がったエドワードに、ロザリアは小さく首を振った。
「大丈夫ですわ。ただ……少し部屋で休ませていただきます。お食事中に申し訳ございません……」
そう言って立ち上がったところで、ロザリアは目の前が真っ暗になり、その場に倒れた。
お読みいただきありがとうございます!
しれっと側近に名前が付きました!(笑)
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