28. かわいいだけではダメだった
結婚式の後、ロザリアの王妃戴冠式も行われた。
愛する人、家族、国内外たくさんの貴族たちに見守られ、ロザリアの頭に王妃の冠が乗せられた。
エドワードと並んで大聖堂のバルコニーに出ると、集まった国民からの盛大な拍手が湧き起こった。
ロザリアはその光景を決して忘れず、民のために尽くそうと誓った。
結婚式から数週間は、国内外からの謁見や、政務官や国王が代わりにやっていた王妃としての公務の引き継ぎなど、ロザリアは忙しく過ごしていた。
そしてその全てにおいてロザリアは優秀だった。
外交の場では堂々と振る舞い、公務も驚くほどの速さで習得していった。その姿に、王妃就任に難色を示していた貴族たちも次第に口をつぐんでいった。
そうした日々がようやく落ち着きを見せた頃、アメリアが王宮へやってきた。
アメリアはセドリックが用意したドレスに身を包み、彼のエスコートで迎えの馬車から降り立った。
王宮を見上げたアメリアは、まるで悪の巣窟に挑むかのように眉間にシワを寄せ王宮を睨みつけた。
「……アメリア?」
セドリックの声かけにハッと我に返ったアメリアは、すぐにいつものような甘ったるい声を出した。
「あ、えっと……セドリック様、あたし怖くてぇ……」
セドリックは見間違いだったのかと胸を撫で下ろし、アメリアの肩を抱くと顔をキリッと整えた。
「案ずるなアメリア。何かあれば必ず私が守ってやる! ロザリアなど取るに足らず!!」
ビシッと王宮を指差して、キメ顔のセドリックにアメリアは抱きついた。
「さすがです。セドリック様ぁ〜!」
そんな二人の世界に、国王の側近が割って入った。
「セドリック王太子殿下。アメリア・ギアース様。国王陛下と王妃様が謁見の間でお待ちです。お急ぎください。そして僭越ながら……王妃様を敬称なく呼ばれるのはいかがなものかと」
至極真っ当な指摘にセドリックは罰の悪そうな顔で咳払いをした。
「そ、それもそうだな。……さ、さあ参ろうアメリア」
セドリックが王宮の中へ入ると、続けてアメリアも中へ入った。
平民のアメリアにとって、当たり前に初めて足を踏み入れるその場所は、物語の世界そのものだった。
エントランスホールでは、王宮仕えの侍女たちが一斉に頭を下げて二人を迎え入れた。
辺りを見渡しながらアメリアは進んでいく。
この煌びやかな世界が自分のものになるのだと、アメリアは興奮に身震いするのを必死に抑えた。
いよいよやってきた謁見の間の大きな扉を目前にしてアメリアは深く長い息を吐いた。
国王の側近の合図と共に、ドアの脇に立つ衛兵たちが槍の石突きを床に打ちつけた。
「セドリック王太子殿下、アメリア・ギアース様、ご入場!」
衛兵の大きな声と共にドアが開いた。
長い絨毯の先、玉座にはエドワードとロザリアが並んで座っている。
謁見の間の両脇には、クリストフを始めとする宮廷貴族や高官、衛兵たちがずらりと並んでおり、視線が一斉にアメリアへと注がれた。
その場の空気に圧倒されたアメリアは息を呑んだ。
セドリックはアメリアと一緒に二人の前まで進むと、胸に手を当て、軽く頭を下げた。
「国王陛下、王妃陛下。本日はアメリアと共に馳せ参じました」
玉座では、エドワードは冷たい視線で、ロザリアはにっこりと微笑んで、それぞれが真逆の表情を見せて二人を眺めており、周りの廷臣たちも冷めた目を向けていた。
「さあ、アメリア。ご挨拶を」
セドリックは緊張の面持ちでアメリアの背中を軽く叩いて囁いた。
「馬車で教えた通りに言えばいいから」
「はぁい」
アメリアの気の抜けた返事に周りの視線はさらに冷たくなっていく。
「アメリア・ギアースですぅ。王さ…あ、国王様、王妃様、よろしくお願いしまーす」
かわいく、愛想を振りまけば国王だって自分を可愛がるはずだとアメリアはそう考えていた。
しかし現実はそんなに甘いものではなく、謁見の間は一瞬で静まり返った。
「ア、アメリアッ!」
セドリックさえも焦りを隠せないでいた。
「やだっセドリック様ぁ。お二人とも怖い目であたしを見てきます。あたし何か間違えちゃいましたか? やっぱりロザリア様はあたしのことを怒ってるのかも……」
緊張感のないアメリアに、もはやセドリックは開き直るしかなかった。
「し……仕方ないではありませんか、アメリアは平民なのです! これから一つずつ覚えていくのです! 王妃様が過去のことは忘れて、一つずつ教えてくださればいいことです!」
セドリックがそう言い切った時、エドワードは頭に手を当てて呆れきっていた。
そんなエドワードの手に、ロザリアがそっと触れ首を横に振った。
「私が話します」
ロザリアは立ち上がり、アメリアの前まで歩いて行った。
「アメリアさん、お久しぶりです。一つはっきり申し上げますね。私はあなたに対して、怒りなどもう少しも持ち合わせておりません。そんなことよりも大切なことがございます。セドリックを愛しているのなら、国のため、民のためにあなたは立派な王太子妃とならねばなりません。そのために、私があなたの教育の全てを取り仕切ります。被害妄想はそこまでにしていただかないと、今後の王宮での関わりに差し支えますよ」
ロザリアの強い言葉に、セドリックが口を開くより先にアメリアが答えた。
「わかってますから、そんなに意地悪な言い方しないでください!」
「そ、そうです! そんなことではアメリアが萎縮してしまいます! アメリアは繊細なのですよ。かわいそうではないですか」
アメリアを抱きしめながら、セドリックは自分が正しいのだと言わんばかりに抗議した。
『こいつら全然わかってねぇな』
クリストフや、その場にいた全員がそう思った。
ロザリアさえ、アメリアの王太子妃教育をかって出たことを、少し後悔してしまうほどだった。
その空気にエドワードが割って入った。
「ロザリア、こちらへ戻っておいで。……セドリック、お前たちはもう下がっても良い」
エドワードに促され二人が部屋から出た後、エドワードはロザリアに向き直った。
「本当によかったのか?」
「……とりあえず、やってみます」
いつになく自信なさげなロザリアを見て、エドワードは小さく笑った。
「君にも苦手なものがあったんだな」
「……エドワード様、笑い事ではありません」
「すまない。あまりに可愛らしくて」
エドワードはロザリアの頭を優しく撫でた。
「無理はしなくていい。君が頑張りすぎる前に、私が止めるから」
「……ありがとうございます」
「それに、君がどれほど優秀でも、あの二人をどうにかできるとは限らないよ」
ロザリアは思わず吹き出してしまうのだった。
お読みいただきありがとうございます!
ロザリアが正式に王妃になり、アメリア教育スタートです!
このタイトル気に入ってます(笑)
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