24. 結婚式の招待状
それからロザリアは再び王宮へ通い、妃教育を再開させていた。
教育係の中には涙を流して喜ぶ者もいた。
政治に関わる貴族たちもこぞってロザリアを歓迎した。
ロザリアこそ王妃に相応しいと、皆分かっていたのだ。
ロザリアが王宮に行くたびにエドワードは顔を見に来た。
教育係たちはロザリアの集中が途切れるので怪訝な顔をしたが、ロザリアの顔を見た後のエドワードは、いつにも増して仕事が捗るので、側近たちは喜んだ。
妃教育の時間が終わると、今度はロザリアがエドワードの執務室に顔を出す。
その時間に休憩をするために、エドワードは熱心に仕事を終わらせるのだ。
二人はお茶をしながら、今日の妃教育のこと、国のこと、お互いのこと、色んなことを話した。
この時間が何よりも幸せだった。
「そういえば、陛下がお部屋を出た後にオズワルド先生が……」
「エドワード」
「あ……」
年上とは思えない、少し拗ねた顔でエドワードがロザリアの話を遮った。
「エドワード……様」
エドワードは、恥ずかしそうに名前を呼ぶロザリアを真顔でじっと見つめた。
「呼び捨ては……無理です」
顔を真っ赤にするロザリアが可愛くて、エドワードは声を出して笑った。
「そうか、その顔を見れなくなるのも寂しいからな。もう少し今のロザリアを楽しむよ」
エドワードは向かい合って座っていたロザリアの隣に座り直すと、目の前の苺を手に取りロザリアの口に入れた。
もぐもぐ口を動かすロザリアが小動物のようで可愛くて、エドワードは真面目で完璧な淑女のロザリアとは違う一面を、自分だけが知っているのが嬉しかった。
隣にいる時のエドワードはほとんど手を繋いで離さなかった。
『ジュリエット様の手紙の「情熱的なあなた」とはこういうことかしら』
繋いだ手が熱くなることを感じながらロザリアはそんなことを思っていた。
時々その場にクリストフもいることがあった。
そんなことお構いなしに、ロザリアへの愛情を垂れ流しにするエドワードにロザリアは少し困った。
「おい、クリストフ。しばらくどこかへ行ってこい」
困っているロザリアのために、エドワードはクリストフを追い出そうとした。
「エドワード様! お仕事もありましょうから、私今日はもう帰ります」
そんなエドワードやクリストフに気を遣い、ロザリアはそそくさと帰って行った。
エドワードは扉が閉まった瞬間に、ガクッとうなだれた。
「クリストフ、お前のせいでロザリアが帰ってしまったではないか」
「エドワード……久しぶりの恋愛で少年に戻るな」
クリストフは呆れてため息をついた。
それから半年が過ぎ、セドリックはベルトライン皇国で勉学に励んでいた。
ある日、皇室主催の夜会に招かれた際、皇国の貴族たちから口々に祝福を受けた。
「おめでとうございます」
「長年空席だった王妃様の椅子がとうとう埋まりましたな」
「エドワード国王陛下は大層ご執心だとか」
セドリックは理解するのに時間がかかった。
父親に恋人がいたなどということは聞いたことがなかったのだ。
「父上が……?! 誰とですか!!」
貴族たちはセドリックが知らなかったという事実を目の当たりにして顔を見合わせて戸惑っていた。
「ご存知なかったのですか?」
「お名前はまだ伏せられておりましたが、大変美しいご令嬢との噂です」
「美しい……ご令嬢……」
セドリックは留学に付き添っていた側近にことの次第を尋ねたが、側近も何も知らなかった。
父親に直接聞こうと筆を手に取った、その時。
侍女が王室からの手紙を運んできた。
「結婚式の招待状だと……」
そこには結婚式の招待状と、エドワードの字で
【来月結婚するから、帰ってこい】
とだけ書かれていた。
その手紙に花嫁の名前はどこにも書かれていなかった。
セドリックには相手が誰かなど想像もつかなかった。
しかしその代わりにとある考えがセドリックに浮かんだ。
『父上が身を固めてくだされば、次は僕の番なのではないか? アメリアと今度こそ婚約できるはずだ! 婚約させてくれなければ、その結婚は認めないとでも言えば……』
セドリックの顔が一気に明るくなった。
勢いよく振り返ると側近に予定の確認を急がせた。
「しばらく予定が詰まっておりますので、アルヴェインにお戻りいただけるのは……来月の頭でしょうか。結婚式の直前ですね」
「結婚式の直前なら、父上も中止するわけにはいくまい! 僕の要求を聞かざるを得ないな! とうとうこの時がやってきた」
両手を広げたセドリックは天井を仰いだ。
「アメリア! 迎えに行くよ!!」
セドリックは勝ち誇ったように高笑いをしたのだった。
セドリックが国に帰れたのは結婚式の三日前であった。
そして奇しくもその日は、エドワードとロザリアが婚姻の正式な手続きを終え、夫婦となった日でもあった。
アルヴェイン王国では、結婚式に先立って婚姻の手続きを済ませるのが慣例となっている。結婚式は三日後だが、この時すでにロザリアは正式にエドワードの妻――そして王妃となっていた。
帰るまでに調べてみたものの、なぜか誰も花嫁のことを知らない。知っていそうな者でさえ、話そうとはしなかった。
実はエドワードが徹底した緘口令を敷いていたのだ。
ベルトライン皇国の皇帝陛下は、確実に何か知っていそうな空気を出していたが、なぜか意地の悪い笑顔を向けるだけで絶対に教えてはくれなかった。
明日帰るのだと報告した時も、にやつきながら、
「結婚式で会おう」
としか言わなかった。
セドリックは半年ぶりの王宮を懐かしみながら、エドワードがいると聞いた執務室へやってきた。
「中で陛下と、王妃様がお待ちです」
エドワードの側近がそう告げると、セドリックは緊張した面持ちで扉を数回ノックした。
「どうぞ」
中から女性の声がした。
どこかで聞いたことのある声だったが、なかなか思い出せない。
セドリックは、相手を確認するようにゆっくりとドアを開けた。
そこには、一人の女性が背を向けて立っていた。
その後ろ姿を目にした瞬間、セドリックは息を呑んだ。
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