23. 二人で幸せに
翌日はとても晴れていた。
朝からヴァロア公爵邸は侍女たちがせわしなく動いていた。
「奥様、やはりグリーンでしょうか」
「うーん……ちょっと露骨すぎるわ。そちらの薄い黄色はどう? 清楚な感じが出てて良いんじゃないかしら」
「少し明るすぎませんか? こちらの薄いピンクの方が……」
エンリエットと車椅子に乗ったアンが、ああでもない、こうでもないと、ロザリアのドレスを選んでいた。
ロザリアは朝から他の侍女たちに、肌をピカピカに磨き上げられていた。
「みんな、張り切りすぎではない?」
ロザリアはされるがままになりながら、自分を取り囲む侍女たちに疑問を投げかけた。
「当然です! 奥様から、今日はとびきりの美女に仕上げるようにと仰せつかっております」
「そ、そう……」
ロザリアは身を委ねるしかなかった。
髪はハーフアップにし、丁寧に巻かれ、派手すぎない化粧が施された。
小ぶりなアクセサリーが、ロザリアの自然な美しさを際立たせている。
エンリエットは、鏡の前に立つロザリアの肩に両手を置いた。
「今日のあなたは誰よりも美しいわ。お母様はあなたの幸せを願っているわよ」
エンリエットの言葉を聞きながら、ロザリアは鏡の中の自分をじっと見つめていた。
「ありがとうございます、お母様」
自分の気持ちに素直になったロザリアは、清々しい顔をしていた。
「お嬢様! また惚気話を期待しております! いってらっしゃいませ」
母やアンたちに見送られ、ロザリアは王宮の馬車に乗り込んだ。
襲撃事件の後ということもあり、これでもかというほどに王宮兵士に囲まれていて、ロザリアは少し緊張した。
馬車が王宮に着くと、出迎えた側近の一人が案内を申し出たが、
「いえ、自分で行きます」
と、それを断ったロザリアは、まっすぐ「思い出の場所」に向かって行った。
その場所とは、10年前ロザリアがエドワードを抱きしめたあのベンチがある場所だ。
エドワードにとっては、ロザリアへの気持ちに気づいた場所でもあった。
ロザリアはあの日の情景を思い出していた。
『まさか、こんな気持ちでここを訪れる日が来るなんてね』
フフッと笑いながら、そこにあるベンチに腰掛け、空を見上げた。
草を踏む足音が聞こえてそちらを見ると、エドワードが近づいてきた。
愛しさと気恥ずかしさが入り混じったような顔でロザリアを見ていた。
ロザリアも、久しぶりに会うエドワードを前に、少し緊張していた。
立ち上がり、エドワードにお辞儀をするロザリアに彼はにこりと笑顔を向けた。
「ロザリア、元気になって良かった」
我慢できずに、エドワードはロザリアを抱きしめた。
「会いたかった」
久しぶりのエドワードの温もりに、ロザリアは胸を高鳴らせ、彼の背中に腕を回した。
「私もです」
二人はあの日通じ合った想いを確認するかのように、しばらく抱き合っていた。
その後ロザリアをベンチへ座らせると、エドワードも隣に座り、ゆっくりと話し出した。
「覚えているだろうか……ジュリエットが亡くなり、周囲のすべてに心を閉ざしていたあの日。この場所で君に慰められた」
「ええ、はっきりと覚えております」
「あの日、君は私にとってより一層特別な少女になった。……そしてセドリックのことがあって、傷つきながらも立ち上がり、前を向いて歩き出した君をこれからも見守っていきたいと思った」
エドワードはぎゅっと両手を合わせて力を込めた。
「見守っていたい。ただそれだけを思っていたはずなのに、大人になった君と過ごすうちに、その気持ちは少しずつ形を変えていった……。しかし、年の差もある。加えて私はセドリックの父だ。レイモンドと幸せになるならそれでいいと、一度は自分の気持ちを押し込めようとしたんだ」
エドワードは胸のポケットからジュリエットの手紙を出してロザリアに差し出した。
「そんな時にこれを見つけたんだ」
「これは……? 私が読んでも?」
「あぁ、構わない」
ロザリアは手紙を読んだ。
「ジュリエット様……」
ロザリアは目を潤ませながら手紙をエドワードへ返した。
「君が誰を選ぼうと、私が自分の気持ちに向き合う勇気を彼女がくれたんだ」
エドワードは切なげに手紙を見つめていた。
ロザリアは意識を失っていた時のことを思い出して、夢の中のジュリエットの様子や言葉を、エドワードに話して聞かせた。
「不思議ですね……ジュリエット様は私の背中も押してくれました」
エドワードはその夢の話に驚きを隠せなかった。
「そうか……彼女は、君のところにも行ってくれたんだな」
エドワードは立ち上がり、両手でロザリアの手を握ると、その場でひざまずいた。
「ロザリア、私と結婚してほしい。これからは妻として、私のそばにいてほしい。愛している」
ロザリアは涙をこぼしながらそれに応えた。
「はい……。私も、愛しています。ジュリエット様との約束も、この胸に抱いて。あなたをお支えしたいです」
エドワードはロザリアを抱きしめ、二度と離さないとでもいうように、その腕に力を込めた。
「これからは、二人で幸せになろう」
「はい」
ロザリアもエドワードの背中に再び腕を回した。
そして二人はそっと口づけを交わすのだった。
その日はクリストフとエンリエットも王宮に招かれていた。
何も知らなかったロザリアは、案内された部屋にいた両親に驚いた。
「お父様、お母様、いつの間にいらっしゃったのですか?」
「お前のすぐ後に家を出たのだよ」
エドワードは笑顔で口を挟んだ。
「一秒でも早く君と婚約をしたくてな」
「断られるとは思わなかったのか」
クリストフは少し呆れた顔で笑った。
並んで座るロザリアとエドワードを前に、エンリエットはこれまでにないぐらいにこにこしていたが、その目にはうっすら涙が浮かんでいた。
その場で改めて結婚の意思が伝えられ、クリストフとエンリエットも二人の婚約を心から祝福したのだった。
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