22. それぞれの行き先
二人が思いを通じ合わせてから数日。
エドワードは毎日会いに行きたい衝動を抑え、執務に没頭していた。
国王という立場上、むやみやたらと動くわけにはいかないエドワードは、今はまだ回復が優先のロザリアにも配慮して、会うのを控えている間に仕事を減らしておくことにしたのだ。
そこにクリストフがやってきた。
「熱心だな」
「おぉクリストフ。ロザリアの様子はどうだ?」
クリストフはエドワードをじっと見た。
「……お前のそんな顔、久しぶりに見た気がするな」
「なんだそれ」
「いや、なんでもない。ロザリアはもうだいぶいいよ。時々畑に水をやったりして、日常を取り戻しつつある」
エドワードは「そうかそうか」と嬉しそうに、目の前の書類に判を押した。
「ずいぶんだらしのない顔になったな。お前にそんな顔をさせてるのが我が娘なのが複雑だが」
「お前をお義父様と呼ばねばならないのか……」
「やめてくれ……」
二人は顔を見合わせて笑った。
年の差はあれど、エドワードならロザリアの相手として申し分ないことは、クリストフもわかっていた。
親友と愛娘。二人とも過去に苦しい思いをしている。そんな二人が幸せになることがクリストフには嬉しかった。
「男たちはどうなった」
楽しい空気が一変、二人は険しい顔になった。
男たちとはもちろん、ジャンとゴロツキたちのことだ。
彼らは捕まった後、王国の司法機関が管理する拘置施設へ移された。
事件の重大性から厳しい取り調べが行われ、ジャンはアメリアのためにやったのだと吐き出した。
それを受けアメリアにも聞き取りが行われたが、嘆いていただけのアメリアが罪に問われることはなく、首謀者はジャンということで処理された。
ジャンとその一味は重罪人として拘置され、裁きを待つ身となった。
「アメリア嬢絡みか……狙ってやったと思うか?」
「いや……そこまでは……」
二人は頭を抱えた。
「まぁいい。ひとまず暴漢は逮捕され、身柄も確保されている。それで十分だ」
クリストフは胸を撫で下ろした。
「それで……」
クリストフはエドワードをちらりと見て、言葉を続けた。
「お前の倅のことはどうする」
「そこなんだ……」
「正直俺は、お前と結ばれたロザリアを見た時のセドリック王子の顔が見てみたいけどな。あのようにロザリアを傷つけたんだ。それぐらいのことを思ってもいいだろう」
クリストフは、セドリックが婚約破棄を言い渡した夜会を思い出して、少しイライラした表情になった。
「確かに」
そう言いながら、エドワードは何かを閃いたような顔をした。
「セドリックにお灸を据えるには、これ以上ない状況だな。……よし、しばらく黙っておこう。相手が誰なのか、結婚まで秘密にするのもおもしろいな」
「結婚するのか?」
「当たり前だ」
「ロザリアには……」
「これから言う」
エドワードは再びロザリアのことを考え、顔を緩ませていた。
翌日、エドワードは朝食の席でセドリックにある提案をした。
「セドリック、お前はしばらく他国で学んでこい。お前は王太子として見聞を広げなければならない」
突然の話にセドリックはぽかんと口を開けた。
エドワードは続けた。
「私も昔留学した経験がある。世界を見てくるのは王太子として必要なことだ。まあ私の場合はお前より若かったがな」
父である国王に「王太子として必要」と言われてしまえば、セドリックも反論はできない。
それからトントン拍子に話は進み、セドリックは大国ベルトライン皇国へ留学していった。
行く直前にアメリアと涙ながらに抱き合う姿が目撃されたそうだ。
「いいのか? 愛息子をこんなふうに追い出して」
「可愛い子には旅をさせろと言うだろう。王太子が留学して他国へ行くことは当然のことだ」
二人は顔を見合わせ、少し悪い笑みを浮かべた。
その日の夜、ヴァロア公爵邸では、家族全員で食事を取っていた。
事件があってから、ロザリアは毎日のように家族との時間に幸せを噛み締めていた。
その日も家族とたわいのない話を楽しんでいた。
会話が落ち着いた時にクリストフが話し出した。
「ロザリア、体調はどうだ」
「問題ありませんわ、お父様」
「そうか……なら明日、王宮へ行きなさい」
首を傾げるロザリアに、クリストフは優しく笑いかけた。
「国王陛下が、二人の思い出の場所で大切な話をしたいそうだよ」
そう言われた途端ロザリアは顔を真っ赤にして、両手で口元を覆った。
「王宮から馬車が迎えに来て、万全の警備体制での送迎だ。安心して行っておいで」
「はい、お父様」
明日、エドワードに会える。
そう思うだけで、ロザリアの胸は高鳴った。
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