15. 深緑の贈り物
翌日の執務室。
ロザリアのデートのことが気になり、エドワードは朝から落ち着かなかった。
部屋の中を行ったり来たりしているところに、クリストフが入ってきた。
「何してる」
クリストフの問いかけに、エドワードは我に返った。
「……いや別に」
エドワードは気まずそうに咳払いをした。
ちらりとクリストフの方に目をやると、その手に小さな箱があることに気づいた。
「それは?」
「ロザリアからお前にだ」
「え……」
手紙と共に箱を受け取り、すぐさま手紙を開封した。
【陛下。いつも私を見守り、寄り添ってくださり、本当にありがとうございます。陛下のおかげで、私はまた前を向くことができました。
今日、街で陛下にお似合いになりそうなブローチを見つけました。気に入っていただけたら嬉しいです。】
エドワードは思わず顔が綻んだ。
箱を開けると緑の宝石がキラリと光った。
「私の目の色に合わせてくれたのだな」
エドワードはふと夜会のドレスを思い出した。
『そういえば、夜会の日も……いや、さすがにそこまではな』
そんな自分の考えに、思わず小さく笑みをこぼした。
そこでふと、肝心なことを思い出した。
椅子に座り、大して気にしていないふりをしながらクリストフに問いかけた。
「それで……どうだったのだ」
「何がだ」
「その……ロザリアの……」
平静を装っているつもりらしいが、クリストフにはその動揺が手に取るようにわかった。
「ああ、デートか」
クリストフは昨日会ったレイモンドの姿を思い返した。
「非の打ちどころのない好青年だ。先のことも考えているらしいぞ」
ガタッ、と大きな音を立てて、エドワードが勢いよく椅子から立ち上がった。
執務室を一瞬の静寂が包んだ。
「あ……ちょっと出てくる」
そのままエドワードは執務室を出て行ってしまった。
クリストフはエドワードが出て行ったドアを見つめながら、
「さて……どうしたものか」
と頭を抱えた。
外へ出たエドワードはベンチに腰掛け、大きく息を吐いた。
「俺はなにをしているんだ……」
ふと周囲を見渡し、エドワードは気づいた。
ここはかつて、幼いロザリアが自分に寄り添ってくれた場所だった。
「そうだよな……いつかは誰かと……」
あの小さかったロザリアももう立派なレディだ。
もしレイモンドと結婚すれば、ロザリアはガーライルへ行くことになるのだろう。
もう気軽に顔を見ることも、言葉を交わすこともできなくなる。
胸が苦しくなるのを感じて空を見上げた。
「……そういうこと、なのか」
娘のように大切だからではない。
いつの間にか、自分はロザリアを――。
「いくつ離れていると思ってるんだ」
深く長いため息が出た。
そこへクリストフが近づいてきた。
エドワードの顔を見たクリストフは、先ほどまでの様子と合わせて何かを察したのか、何も言わず隣に腰を下ろした。
「ロザリアは幸せそうか?」
クリストフに顔を向け、エドワードが尋ねた。
「ああ」
「なら……それでいい」
エドワードは気づいてしまった自分の気持ちに、そっと蓋をした。
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