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『元婚約者様、私が新しいママです』 ~婚約破棄された私が国王陛下に溺愛されるまで~  作者: 萩原 遊


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14. 無自覚な想い

ロザリアがレイモンドとのデートの日。



クリストフは朝からエドワードの執務室にいた。


「ロザリアはどうしてる」


エドワードは何気なく聞いた。


「今日はデートだそうだ」


面白くなさそうな顔でクリストフが答えた。

その瞬間、エドワードは固まった。


「なっ、誰と? どこのっ……」


なぜかエドワードは慌てていた。


「なぜお前が焦る」


「……確かに」


そう言われて、エドワードは我に返った。

なぜ自分が一瞬あれほど慌てたのか、自分でもわからなかった。


「ガーライル王国のベルフォワーズ公爵令息だ」


「あぁ、あの無駄に好青年の……」


エドワードは眉間に皺を寄せて返事をした。


「なんか棘があるな」


「そうか、デートか……お前はそれを許したのか?」


「可愛い娘の新しい恋を邪魔するほどバカ親じゃないよ」


「恋? 恋なのか?!」


エドワードは勢いよくクリストフを見た。


「だからなぜお前が焦る」


「いや、べつに……見守る者として当然だろう」


エドワードはそう言って書類に目を落とすも、ペンで机をコツコツと叩き、なんだか落ち着かない様子を見せていた。


クリストフはそんなエドワードを見てぽつりと呟いた。


「……まさかな」




そんな会話が繰り広げられているとは露ほども知らず、ロザリアとレイモンドを乗せた馬車は王都一番の高級街へやってきた。


レイモンドは先に馬車を降りると、ロザリアへ手を差し伸べた。


「ここだよ」


ロザリアをエスコートしながら、目の前の建物を示す。


パステルカラーのかわいらしい外装。ショーウィンドウにはカラフルなケーキが飾られていた。


「まあ、かわいらしい!」


ロザリアは心を弾ませ、店へ入っていった。

内装も同じくパステルカラーで統一されており、貴族令嬢たちに流行る理由がよくわかる。


特別室へ案内され、二人は向かい合って座った。

メニューを見ながらロザリアは頭を抱えた。

挿絵付きのメニューのため、どれもとても美味しそうに見えて決められない。

それを察したのかレイモンドが声をかけてきた。


「好きなだけ頼むと良いよ」


「でも、こんなかわいらしいケーキを残してしまったら申し訳ないわ」


「では二つだけ選ぶのはどうだろう。残りは次のデートでまた食べればいい」


さらりと次のデートを約束するようなレイモンドの言葉に、ロザリアは思わず頬を赤らめた。




しばらくお茶を楽しんだのち、二人は貴族御用達の宝飾店へやってきた。

ロザリアがもうすぐ母親の誕生日なのだとレイモンドに告げたことで、二人はプレゼントを選びに行くことにしたのだ。


「この髪飾り、お母様に似合いそうだわ」


そう言うと、ロザリアは鏡を見ながら髪飾りを自分の髪に当ててみた。

母が喜ぶ姿を想像すると、自然と笑みがこぼれた。


ふと、ロザリアは男性用のブローチに目を留めた。

深い緑色の宝石が使われている。


『……陛下に似合いそう』


ロザリアは何気なくそんなことを思った。


「これも包んでください」


「誰に買うの?」


「たくさん、ご心配をおかけした方に……」


どこか嬉しそうにブローチを見つめるロザリアの表情を、レイモンドは初めて見た。

レイモンドはそんな彼女を見つめ、少し考え込んだ。


「どうかなさいましたの?」


「あ、いや……その人が羨ましいなと思って」


ロザリアには、レイモンドの言葉の意味がわからなかった。

レイモンド自身も、胸の奥に生まれたもやもやの正体を、まだうまく言葉にはできなかった。




ヴァロア邸に着く頃にはもう、日が落ち始めていた。


ちょうど帰宅したクリストフと玄関先で鉢合わせた。


クリストフがロザリアに紹介された目の前の青年は、なんとも爽やかで眩しい、まさに好青年だった。

娘の新たな相手として考えても、今のところ反対する要素は見つからなかった。


ロザリアを先に屋敷へ入らせて、クリストフはレイモンドに問いかけた。


「娘とは、今後もお付き合いを続けるおつもりですかな?」


突然の問いにレイモンドは少し驚いた様子を見せたが、すぐににこりと笑うと、クリストフの目を見て答えた。


「それはもちろん。いずれ改めて、公爵閣下にご挨拶に伺うことになるかもしれませんね」


深くお辞儀をし、クリストフに見送られてレイモンドは帰っていった。



屋敷に入ると、ロザリアが駆け寄ってきた。


「お父様。これを陛下にお贈りしたいのですが、お渡しいただけますか?」


小さな箱を受け取りながらクリストフは尋ねた。


「これは?」


「今日見つけたんです。陛下にお似合いになると思って……いつもご心配ばかりかけているので」


クリストフはなんとも言えない気持ちになった。

初めてのデートの最中に、別の男性への贈り物を選んでいたとは……。少しばかりレイモンドに同情した。


陛下の話をしている時のロザリアの表情。

今朝、デートと聞いた瞬間のエドワードの様子。

クリストフの中で、二つの光景が嫌なほど綺麗に繋がりかけた。


「……いや、まさかな」


クリストフは首を振り、浮かんだ考えを頭から追い払った。

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