13. 隣国から来た青年
秋が過ぎ、冬がやってきた。
その頃にはロザリアとクレア、レイチェルはすっかり仲良くなっていた。
互いの家へ招き合っては、他愛もない話に花を咲かせていた。
その日はレイチェルの自宅に集まっていた。
レイチェルの母が用意してくれた紅茶の美味しさに、二人が感嘆の声を上げていると一人の青年が近づいてきた。
「やあレイチェル、楽しそうだね。二人のレディを僕に紹介していただけないかな」
爽やかな笑顔でそう言った好青年に、クレアは顔を赤らめ、ロザリアと目配せして戸惑っていた。
レイチェルは立ち上がると、その青年の横に立った。
「みなさま、紹介しますわね。彼はレイモンド・ベルフォワーズ。隣国ガーライルの公爵家のご長男で、私のはとこにあたる方です。1年間の留学のため、我が家で暮らすことになったんですの」
レイチェルはそう言うと、クレア、ロザリアのこともレイモンドに紹介した。
「もしよろしければ、僕も参加させてもらえないかな。まだ来たばかりで、友人と呼べる人間がいないんだ」
クレアはすでにロザリアたちとは身分の垣根を越えた仲になっていたが、初対面のレイモンドは隣国の公爵令息だ。自分から勝手に了承するのもためらわれたのか、ロザリアの意向を窺うように顔を見た。
そんなクレアの気持ちを察して、ロザリアが代わりに答えた。
「もちろんですわ。ガーライル王国のお話もぜひ聞かせていただきたいわ」
レイチェルが侍女に席を用意させ、レイモンドはレイチェルとロザリアの間に腰掛けた。
レイモンドはガーライル王国の流行や、国の様子を教えてくれた。
これまで知らなかった隣国の実情に触れ、ロザリアは興味深そうに耳を傾けた。
多少政治の話を交えても、興味を示し、次々と質問をしてくるロザリアに、レイモンドも嬉しそうに話を続けた。
実はレイモンドは、ロザリアのことを知っていた。
最初は、「アルヴェイン王国の王太子に婚約を破棄された美しい公爵令嬢がいる」という程度の認識だった。
しかし、留学に先立って招かれたアルヴェイン王国の建国記念パーティーで、国王陛下と踊るロザリアを目にした。
優雅に舞うその姿に、思わず目を奪われたことを覚えている。
そして今、その彼女が目の前にいる。
実際に言葉を交わしてみれば、彼女はただ美しいだけの令嬢ではなかった。知識も豊富で、自分の考えをしっかりと持っている。
レイモンドはいつしか、ロザリアとの会話に夢中になっていた。
クレアとレイチェルは、そんな二人の様子を見て目を合わせた。
『これはひょっとすると……』
『あるかもしれないわね』
言葉に出さずともお互いの考えがわかり、二人は意味ありげに微笑み合った。
しばらくしてレイモンドが時計を気にして席を立った。
「僕はそろそろ失礼するよ。クレア嬢、ロザリア嬢、楽しい時間をありがとう。また会おう」
レイモンドが部屋を出たあと、クレアとレイチェルはロザリアを見た。
「ずいぶん話が弾んでいましたわね!」
「絵になるお二人でしたわ!」
「レイモンドが女性とあんなに楽しそうにしてるところなんて珍しいんですのよ」
「家柄だって釣り合っていますし、本当にお似合いに見えましたわ」
ロザリアは矢継ぎ早に話しかけてくる二人にたじろいだ。
「そんな、まだ今日初めてお会いした方なんですのよ。お二人とも気が早いですわ」
二人は肩をすくめた。
「そうですわね、ごめんなさい」
「あまりにもお似合いなお二人に気が急いでしまいましたわ」
三人は笑い合っておしゃべりを続けた。
その後も何度かレイチェルの家へ遊びに行くたびに、レイモンドも加わり、楽しい時間を過ごした。
そんなある日、クレアが体調を崩し参加できなかった日。
たまたまレイチェルが母に呼ばれて、ロザリアはレイモンドと二人きりになった。
「ロザリア嬢、よければ今度、二人で街へ行かないか。最近流行のパティスリーがあるとレイチェルに教えてもらったんだ」
「私と二人でですか?」
「ああ。君と行けたら楽しいだろうなって思って」
「えっと……」
ロザリアは考えていた。
どういう意味で、自分が誘われているのかを。
「はっきり言うね。僕は君のことが気になっている。出会った時からずっと」
ストレートなレイモンドに、ロザリアの顔は赤くなった。
「ここでのおしゃべりも楽しいけど、できればデートがしたい」
ロザリアはこんなに積極的な男性に会ったことがなかった。
公爵令嬢という立場上、ほとんどの人間はロザリアに対して遠慮がちに接する。
真っ直ぐに自分を見つめるレイモンドの瞳を、ロザリアは嫌だとは思わなかった
「……はい。お受けいたしますわ」
満面の笑みで喜ぶレイモンドを、ロザリアは可愛いと思った。
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