06:案内
宿舎を出てすぐが、昨日の館。
事務仕事をする場所と、昨日の急患を運び入れるところ、他にも広い場所がある。
迷宮を解放したら、冒険者のギルドになるのかな?
馬車を停めた場所からここまでは少し距離があるから、大通りもつくりたいのかも。
今はまだ、土をならしただけで、ちょっと歩きづらい。
さらに奥にはたくさんの建築資材が積まれ、縄張りだけ張ったところがある。
結構広い敷地だから、代官館予定かな?
でも、職人らしきひとは誰もいないから、みんな洞窟なんだろう。
そこから少し離れたところから、大勢の声がする。
道もあるし、建物があるから大丈夫だろうと歩いて行くと、詰所になっていた。
規模はあんまり大きくなさそう。
「ええと、きみは……昨日来たんだっけ?」
「はい、治療班としてきましたー」
入口の鎧をきた兵士さんに確認されたので答えると、すぐ納得してくれて、見学ならどうぞと言ってくれた。
折角なので中へ進んでいくと、訓練場では何人かの兵士たちが汗を流しているらしい。
お揃いの鎧を着た人間の骨が五人、相対しているのは一人の骨、……あれ、この骨のかたちと鎧は、ガルドさんだ。
大人数相手でも、骨は無駄なく動いて、人間側をどんどん叩きのめしていく。
合間に、動きの助言もしているけど、そのへんはわたしにはわからない。
ただ、やっぱりとても綺麗な動きをするから、いくらでも見ていられる。
鎧に隠れて、つなぎ目の部分がどうなっているのか、あまりわからないのがとても残念。
「ありがとうございました!」
人間側の全員が一度は倒され、それから数度の打ち合い。
そこで訓練が終わったらしく、整列した兵士が一礼する。
大きな声にびっくりしていると、かれらに手をふった骨が近づいてきた。
「そんなに面白かったか?」
「すっごく」
今まで間近でこういう訓練を見たことはなかった。
王家主催のやつはドレス着用が大変だからすっぽかしたけど、行けばよかったな。
これはこれで勉強になるし、折れやすい箇所と動きの因果関係がわかれば、治療にも生かせる。
事務仕事が暇な時は、今後も観察させてもらおう。
「モグラのみなさんと、ガルドさん以外に、魔族はいないんですかー?」
訓練所だけじゃなく、どの建物も人間用より大きめにつくってあるけど、他の種族は見かけない。
詰所にいるのも人間の骨ばかりだ。
聞いてみると、今は他にいない、とのこと。
「なにせモグラの数が多いからな。それと、きちんと喋れるのはオレだけだから、あまり増やせない」
モグラ魔族は知性が低いと言ってたけど、身体の構造上、喋るのも難しいんだろう。
昨日の怪我した数もなかなかだったから、数だけで考えると、たしかにこれ以上魔族は増やせないかな。
人語が使えない魔族だと、意思の疎通が難しくて、作業が滞る可能性が高い。
……問題なく話せる魔族は、少ないのかな?
人間の兵士はガルドさんを師匠みたいに思っているらしく、お昼を一緒にとるという。
そこにお邪魔するのはまずいと判断し、いったん宿舎にもどって、用意してもらったお昼を食べる。
よければと誘ってもらったけど、ついついみんなの骨を観察してしまいそうだ。
そうすると、食事どころではなくなってしまう。
骨を見る機会は、これからたくさんあるもの、今は我慢。
食堂で食べている間、レーヴィさんの姿は見ないままだった。
おかみさんに聞いたら、忙しい時はこないらしい。
そういう時はとどけてあげていると言うので、暇なわたしが買って出た。
おかみさんは骨に異常はないけど、肩が動きづらいとこぼしていたので、無理はよくない。
お昼を渡したら、なんだか慌てていたけど、気にせず置いてきた。
夕飯の時に本人が食器を持って帰ってくればいいし、わたしははやく、綺麗な骨を見たかった。
「では、案内、よろしくお願いしますー」
外へ出ると、むこうから平均より高い骨と鎧が近づいてきていたから、すぐにわかった。
わたしも歩いて行って、軽くお辞儀をする。
ここではただのセレとして仕事してるから、これでいいはず。
「じゃ、行くか」
こっちだ、と前を歩いて行くので、後ろから骨を見ることにする。
つなぎ目の部分はやっぱりほとんど鎧で覆われている。
関節は脆いからなのかな。人間と違ってむきだしになるし。
わずかに見える白い骨は、基本的に人間と同じ。
服はあまり着ていないみたい。
素肌に鎧みたいな感じになるけど、感触がないから平気なのかな?
──あと、首回りは骨だけだ、弱いところなのに、不思議。
でも可動をとると、そっちがいいのかな?
「成程、穴が空きそうってのは、こういうモンか」
立ち止まって、呟かれる。
──しまった、見すぎた。
後ろからならいいと思ったけど、ガルドさんは戦うひとだ。
気配には敏感だろう。
「すみません。失礼でしたね」
いくら許してくれても、限度というものがある。
夢中になっちゃいました、ですむ問題じゃない。
大体いつも、やりすぎてしまう、今みたいに。
急いで横に立って、頭を下げる。
「……いや、別に腹は立ってない」
かたり、と微かに顔のあたりのどこか骨が鳴る音。
むきだしの手が招くので、半歩後ろあたりについた。
手袋がないから、反省した直後なのに、長い指の骨に目がいってしまう。
「朝も言ったが落ちつかんだけだ。こんなにまっすぐ見つめられることはないからな」
「そうなんですかー? きれいな骨なのに」
骨は正直だ、言葉とかより、ずっと。
だけど、わたしの視界は大多数と違うから、いつもわかってもらえない。
でもガルドさんは骨の魔族だ、だからみんなと同じ見えかたのはずなのに。
どうしてみんな、よく見ないんだろう。
「キレイ、なぁ……とりあえず、洞窟入口についたぜ」
迷宮とは正式に発表してないから、基本は洞窟と呼ぶと教わった。
入口は本当に洞窟っぽい感じ。
崩れてこないよう補強がしてあるから、採掘場でも違和感がない。
見張りの兵は二人だけで、ガルドさんを見て敬礼した。
特に気になるものもないので、歩きだす骨を追いかける。
「魔物が出たりはしないってレーヴィさん言ってましたけど、本当なんですかー?」
二人だけって少ない気がする。
骨だけじゃ強さは読めないけど、声から若そうだった。
「定期的に内部で討伐してるから問題ない。入口付近は沸かないようだしな」
「規則? みたいなのがあるとは聞きましたけど、本当なんですねー」
鉱石が再生成されることといい、不思議すぎる。
まるで、迷宮がいきものみたい。
全体が生物だとしたら、という仮説も読んだ、事実でも、骨格はないだろう。残念。
「最深部にはボスもいるが、そいつは基本持ち場を離れない。だから、増えすぎないよう雑魚を狩っておけば、概ね安全だ」
逆を言えば、定期的に駆除しないと、どんどん増えてしまう。
だから、冒険者がきてくれるように整備をして、採掘もできるようにしたいと。
うまく回れば素材も得られる、いい循環だ。
……にしても、迷宮のボスか。
「どんなボスなんですかねー」
「ああ、竜だ」
「竜!」
実物も、標本もまだ見たことがない。
今の言いかただと、会った……戦ったのかな?
「その話、詳しく聞きたいですー」
なんなら腰を落ちつけてじっくり知りたい。
せがむと、指先の骨がとんとんと小刻みに揺れた。
「構わんが、そうすると案内する時間が減る」
そういえば案内を頼んでいたんだった。
でも、建物は逃げないし、そんなに興味もない。
「それはまた後日でいいです、教わってない場所は行きませんからー」
どうせ明日から仕事だから、行く時間もあまりない。
ガルドさんも洞窟に入るなら、時間がとれなくなるだろう。
案内は誰でもできる、でも、ボスの話はかぎられる。
だったら、聞きたいことを優先すべきだ。
わたしの言葉に、ガルドさんはちょっと悩んでいたみたい。
「……わかった、じゃあ、そのへんでいいか?」
そのへん、と示したのは、伐採した木材が置いてある場所。
休憩用に用意したのか、ざっくり切ったベンチっぽいものが置いてある。
天気もいいから、問題ない。
ポケットから手布を出して敷くと、隣にすわらせてもらう。
……隣だと、見上げないと顔の部分があんまり見えない。
「話すのはいいが、骨のことなんて覚えてないぞ」
「構いませんー。普通は、覚えているものじゃないですしー」
戦っている時に骨を見る余裕はないだろう。
わたしは骨の構造が一番気になるけど、それ以外にだって興味はある。
「オレは開拓前の、このへんにいた魔物の討伐から参加していた」
ということは、最初の段階からの関係者ってことだ。
その時いた魔物は、前からルタ地域に関する情報に載っていたのと同じ。
標本は持っていないけど、特徴は頭に入っている。
「で、原因が迷宮にあるってわかって、とりあえず踏破することになった」
簡単に言うけど、迷宮攻略って難しいんじゃないかな。
しかも、未開の地といわれるほど、強い魔物が出てくる迷宮なら、なおさらだ。
でも、ガルドさんの声には気負ったところがまったくない。
さっきの模擬戦といい、かなり強いんだろう。
「人族と組んで探索して、最深部にいたのが、竜だったんだ」
「それで、倒せたんですかー?」
「どうにかな。少し被害は出たが」
口調は重くないから、本当に少しだったみたい。
竜を相手にって、凄いことなんじゃないかな。
その後も話を聞いていたら、大きさもかなり巨大な上、炎などを吐いてきたという。
わたしにはぴんとこないけど、簡単に勝てる相手じゃない気がする。
「そいつのいた部屋の先は行き止まりで宝があったから、じゃあここが最後だろうって判断して、竜を持ち帰ることになった」
「持ち帰れる大きさじゃなさそうですけどー」
「ああ、そのままじゃ運ぶのも大変だから、仲間が細かくバラしてたな」
「み、見たかったー……」
解体するところを見ていれば、構造もかなり把握できたのに。
巨大な身体なら、骨もあっただろう、爬虫類に似ているのかな、それとも鳥?
もう一度挑戦したり、しないのかな。
バラされた部位の状態でもいいから、地上に持ってきたところを観察したい。
「素材は人族に任せたから、要望があればまたとりに行くかもな」
王城で分析やらなにやらしているんだろう。
竜といえば無駄な箇所がない、とかだったっけ?
定期的に倒して素材が得られるのは強みだけど、希少性が失われるのも避けたいだろう。
できればもう一、二回は、研究用に確保したいと要請があってほしい。
骨は覚えていないと言っていたものの、ガルドさんはなんとか思いだそうとしてくれた。
竜に似たいきものの名前を上げてくれたけど、残念ながら詳しくない魔物だったので、想像できなかった。
他にも迷宮で遭遇した魔物の名前を教えてくれたので、メモをとっておく。
今後、治療の際に、知識として得ておくのは重要だから。
そんな感じで話しこんでしまったので、作業終了の鐘が鳴ってしまった。
暗くなると危険だからと、暮れてきたら仕事をやめるのが決まりらしい。
実際、灯りも少ないし、店もないから、外を歩いても無駄だし。
「今日はありがとうございましたー」
案内は途中になったが、わたしにとってはものすごく実のある時間だった。
色々な質問に答えてくれて、見た目だけじゃなく中味もいい骨さんだ。
深々とお礼をすると、べつにいい、と顎の骨を動かして笑う。
夕食は一緒じゃないらしく、わたしを宿舎まで送ってくれたあと「じゃあな」と去って行った。
わたしは今日のメモを先にノートに書き写しておきたかったので、おかみさんに夕食をずらしてもらい、まず部屋へ走った。
ざっと書き終わって食道に行くと、レーヴィさんたちは食べ終わって部屋へもどっていると教えてもらった。
おかみさんと一緒にごはんを食べ、食器洗いを手伝い、お風呂を使わせてもらうと、すぐに就寝した。
ランプに使う魔石だってタダじゃないし、睡眠不足は判断ミスを招くから。




