05:説明
翌日。
朝ごはんを食べに食堂へ行くと、先客がいた。
猫背気味に丸まっている背中と、平均より高い、綺麗な骨。
ということは。
「レーヴィさん、ガルドさん、おはようございますー」
宿舎は人間用なので、レーヴィさんたちも住んでいる。
朝ごはんの時間は決まってるから、一緒になるのは不思議じゃない。
でも、骨さんは別の場所だと聞いた。
モグラ魔族はとある一帯を巣にしているけど、他の場所にものべつまくなし穴を掘るから、近くにいて止めないとなんだって。
「簡単な打ち合わせをついでに行うんです。本当は夜のほうがいいんですが、大体日中に何かしら起きますからね……」
剣状突起のあたりを抑えるレーヴィさん。猫背だけじゃなく前もなのかな。
すわっていることが多い仕事だろうし、気をつけてほしい。
「あなたが嫌でなければ、同席してくれると助かります」
申し送りとか一度ですませたいのはわかるから、お邪魔しますと席についた。
少しして、三人分の食事が運ばれてくる。
……骨だけど、ガルドさんも摂取するんだ。
お茶の時はあまり見ていられなかったけど、口内に入ったら消えていた気がする。
もっとちゃんと、どういうふうに食べ物が消えるか確認したい。
「消化の仕組みを見ていてもいいですかー?」
「……バカ正直に聞いてくるのははじめてだ」
「ちょ、ガルド……!」
「でも、勝手に見るのは失礼ですからー」
レーヴィさんが一段高い声を出す横で、小さな骨の音。
ふっと息をつく音がした。呼吸音は出るんだ。
肺はあるのかな、鎧で隠れてわからない。
「イヤなら同席しない。ただ、見られすぎると落ちつかん」
「わかりました、じゃあ、ほどほどにしますー」
許可を得られたなら、これから毎日見られる。
それなら、少しずつ観察すればいい。
ということで、いそいそと自分の分を食べはじめる。
わたしには話すことはないから、聞き役に徹するだけだ。
咀嚼の合間に、じっと観察させてもらう。
歯はついているからか、噛み砕いてはいるらしい。
そのあとは、喉の骨へと下りるわけでもなく、どこかへ消えてしまう。
……うーん、不思議だ。
ふたりは昨日の件を話していた。
怪我した数や、その後の対策とかだ。
慣れっこらしく、今回は、みたいな単語がよく出てくる。
モグラ魔族は全体をしばらく休ませて、人間が壊したところを補修するらしい。
洞窟の地盤が、って話題になったので、質問し損ねたことを思いだす。
「集落の開拓、って聞いていたんですけどー」
洞窟の話は教授から出ていない。
気になったので問いかけると、ああ、と声が返る。
「まだ公表していませんが、この地には迷宮があるんです」
──迷宮、って。
たしか、魔力の多いところにできる洞窟だ。
魔力によって魔物などが生成される。
当然、危険もあるけど得るものも多いとか。
「希少な鉱石が採掘できる可能性が高いと出ました。ですから、坑道を掘っているところです」
普通の鉱山は、とりきってしまえば枯渇する。
でも、迷宮の場合は魔力がたまればまた鉱脈が復活することもある、らしい。
だからモグラ魔族に掘ってもらっていて、でも、ちゃんと命令を聞いてくれないから進みが悪い。
ついでに掘ったら掘りっぱなしなので、人間が補強する必要もある。
ちなみに、ルタ地域に魔物が多かったのも、迷宮が理由だったそう。
駆除されずに増え続けて、迷宮から溢れていたわけだ。
なかなかの大事件の気がするから、数年すれば教本に載りそう。
「骨の面白い魔物はいるんですかー?」
迷宮にしかいないものも多いという。
特殊な生態には、とても興味がある。
迷宮の魔物は、大抵その場で解体するから、骨は見たことがない。
わくわくして聞いてみたけど、ふたりとも骨には詳しくないから、よくわからない、って。残念。
「骨が見たいからって勝手に中へ入るなよ」
「しませんー、無理ですからー」
「ガルド、言葉遣い……」
骨を見る前にわたしが骨になったら意味がない。
それに、ここには仕事できているのだから。
どうしても見たいなら、休みの日に、護衛を雇って準備を整えてからだ。
動いてるところを見て勉強したいのは山々だけど。
「非常識な奴かと思ったが、そうでもなくて安心した」
「──っ、と、とりあえず、セレ嬢は旅の疲れもあるでしょうから、今日はゆっくり休んでください」
レーヴィさんが咳き込んだあと、そう言ってきた。
勿論、急患が出たら仕事をするけど、人間が作業する場合は安全第一だから、そうそう重篤なことにはならないって。
そんなに疲れていないけど、お言葉に甘えておく。
「あと、午後には商隊が出発しますから、忘れずに必要なものを注文しておいてくださいね」
一緒にきた商人たちは、荷物をとどけ、新たな注文を受けて、また街へもどる。
そして仕入れて、もどってきて……を定期的に繰り返している。
まだまだ開拓地だけではまかなえないし、資材もたくさん必要だから、行き来は多いのだろう。
必要なもの、かぁ……と考えてみて。
「特にないですー、治療用の薬などは、発注ずみですよねー?」
昨日の手伝いで確認したが、医療器具はちゃんとしたものが揃っていた。
減った分の注文さえしてあれば問題ない。
わたしよりレーヴィさんのほうが、必要数はわかっているだろうし。
「それは勿論。……ではなく、あなた自身に必要なものです」
「わたしですか? 骨を見るにはなにも必要ないから、大丈夫ですよー」
眼鏡が割れたらちょっと困るけど、予備も一本あるから問題ない。
実は伊達眼鏡だし、視界の切り換えがしやすいから使っているだけで、なくても作業はできる。
先輩たちに、トラブル防止に仕事の時はつけておきなさい、って忠告されているからなだけだ。
「……部屋に何もないでしょう。広さはどうにもできませんが、調度品くらいはなんとかできます」
「収納と寝台と机と椅子、ちゃんと揃ってますよー?」
「……、……貴族のご令嬢の部屋には、もっと色々あったでしょう」
たしかに、実家の部屋は数倍大きくて、棚にたくさん本や標本が置けた。
こつこつお給料で増やしていくのが楽しかった。
ただ、動物の骨格標本を飾っていたら、掃除の使用人に泣きつかれた。
目が合って恐い、って言うので、普段はカーテンで被っている。
「もしここで大きい骨が手に入ったら、その時は実家に送りたいので、頼むと思いますー」
「…………わかり、ました」
大変じゃなかったら、迷宮の魔物をその場で処理せず、持ち帰ってきてほしい。
解体したあとの骨がもらいたいから。
わたしの個人的なお金から出せば、許可もらえるかもしれない。
レーヴィさんは何度も剣状突起を抑えながら、とぎれとぎれに頷いた。いいってことかな?
にしても、歪んでいるだけで骨に異常はないのに、怪我でもしたみたいに動きが変だ。
「他の建物とか、見ても平気ですかー?」
そんなに疲れていないから、周辺の確認をしておきたい。
でも、まだ開拓途中だと、危ないところもあるだろう。
わたしの確認に、レーヴィさんは背中を伸ばし直した。
「この周囲にある建物はどこを見ても構いません。ただ、その先は一人では……誰か護衛を用意しないと」
「そんなに危険なんですかー?」
迷宮が近いから、魔物が出てくるのかな。それは困る。
兵の手を煩わせるのはよくないから、我慢するべきかな。
「迷宮の出入口は不寝番がいますし、今のところ魔物が出てきたことはありません。ですが万一があってはいけませんし……流石にあなたも、護衛なしで歩くのは不安ですよね!?」
やたらと強い語尾で訊ねられた。
医局に行く時は一人で乗合馬車に乗っていたから、今さら不安はない。
護衛はついていたらしいけど、視界に入ることはなかったし。
ただ、わたし一人がふらついていると問題があるなら、ちょっと面倒だけどしかたない。
「午後でよけりゃ、オレが案内してやれるぞ」
ここまで聞き役だった骨さんが、会話に入ってきた。
午前中はモグラ魔族の対応と、兵士の訓練がある。
でもそのあとは、洞窟には入らないから時間ができるようだ。
レーヴィさんは書類仕事がいっぱいで、身体は空かないらしい。
「じゃあ、お願いしたいですー」
魔族の責任者という、偉い立場の相手に頼むのはよくないかもだけど、綺麗な骨を間近で見ながら歩けるなら、そのほうが楽しい。
それに、詳しい相手のほうが、質問も気軽にできるからちょうどいい。
わたしの言葉に、ガルドさんは「おう」と顎の骨を動かした。
「ガルド、くれぐれも、よろしくお願いしますね」
レーヴィさんが繰り返し頼みこんでいる。
そんなに立ち入り禁止区域があるのかな、うっかり入らないよう気をつけよう。
そんなこんなで朝食がすみ、わたしはひとまず部屋へもどる。
改めて室内を見渡すけど、べつに足りないものはない。
ちゃんとカーテンもついているし、女性用の部屋としてつくってあるんだろう、化粧台まである。
収納は少ないけど、持ちこんだものはすべて収まっている。
やっぱり頼むものはないと判断して、外へ出た。




