04:骨と上司
「骨が骨!」
「何言ってるんだオマエ」
きり、と今度は軋む音。
そんな音がするのも、納得だ。
だってこの立派な骨の持ち主は、本当に骨だけの魔族なのだから。
背が高すぎて頭蓋骨までちゃんと見えていなかったけど、よくよく見れば、頭頂部は普通の人間と違う形状をしていた。
とさかみたいな? 角? の下地? みたいな隆起した部分が、こめかみの上から後頭部へむけて流れている。
はじめて見る形状だけど、美しい流線型だ。
隣にいるレーヴィさんは、眼鏡をかけて見つめると、ちゃんと肉が見える。
頭蓋骨も、ごく普通の人間と同じ大きさだし、凹凸も少ない。
でも、ガルドさんは、何度見直しても、どちらの視界でも骨のまま。
「魔族って、骨だけの存在もいるんだ……」
びっくりした。
魔族については素人だから、まだまだ勉強しなくちゃいけない。
仕事できてるけど、ものすごく楽しみができた。
「そんなん見りゃわかるだろ?」
腕を軽くふると、かしゃん、という音がする。
これは骨の音じゃなくて、鎧がぶつかって出ているみたい。
肉があればここまで明らかな音は出ない、骨の魔族だからこその音。
鎧のせいで、骨が露出している部分はかなり少ないから、もっと細部も見てみたい。
「──とりあえず、全員、身ぎれいにしてから、再度集まりましょうか」
レーヴィさんの声で、そういえば、と気がつく。
わたしとレーヴィさんは怪我した魔族の手当をしていたから、血とかで汚れてる。
現場に行ったというガルドさんも、あちこち煤けた状態だ。
異論はないし、わたしは荷物を持たずにここへきてしまった。
「セレ嬢は宿舎に案内します」
「よろしくお願いしますー」
色々聞きたいことはあるけど、とりあえずお預け。
でも、怪我した魔族の対応が終わったから、時間はとれるはず。
楽しみがあとに待ってるなら、さっさと荷ほどきとか、してしまおう。
「こちらが宿舎です」
レーヴィさんに案内されたのは、大きめの家。
三階建てで、旅の間に泊まった宿と似ている。
着替えるレーヴィさんと別れ、住み込みで働いているおかみさんに部屋まで案内してもらう。
置いていった荷物は、誰かが運んでくれたらしい。
男性と女性で区画が分かれてるので安心、でも鍵はちゃんとかけて、だって。
食事もつくってくれるし、お風呂も時間内なら自由に入れる。
かなり至れりつくせり、よかった。
集合時間を考えるとお風呂は無理だから、お湯でざっと拭いて、違う服に着替える。
医局で着ていたのと同じ、いつでも仕事ができる、装飾品もないから一人で着るのも簡単。
眼鏡も綺麗にしてから宿舎を出て、再びさっきの建物へむかう。
そういえば、眼鏡は汚れてなかった、なんでレーヴィさんはびっくりしたんだろう。
とにかく、この建物が今のところ中心部、代官館ってことらしい。
「ああ、早かったですね」
「レーヴィさんこそー」
同じ服っぽいけど汚れてないから、替えがいっぱいあるんだろう。
指定の時刻までもう少しあるのに、建物の前に待機してくれてた。
案内されるまま、もう一度中へ入り、部屋の説明を受ける。
さっきの救護室として使っている部屋、応接室っぽいもの、文官と事務作業をする部屋……などなど。
それにしても、人影が少ない。
建物の中もがらんとして、歩きやすくていい。
最後に応接室として使っている部屋へ通された。
来客をもてなすためだから、ここの家具は実家と似ている。
でも、寄せ集めた感じで、統一感はない。
「待たせたな」
時間ぴったりくらいに、ガルドさんがやってきた。
こっちも鎧は同じ。でも、綺麗になってる。
骨の白に、対照的な黒っぽい鎧。
特に関節部分の骨を守るためか、装飾は控えめだけど、しっかりしたつくりになっている。
レーヴィさんがお茶を煎れようとするけど、手つきが危なっかしい。
「やりますよー」
「……ありがとうございます」
医局では持ち回りでお茶を煎れてたし、家庭教師にも習ってる。
茶葉を確認すれば、知っているものだったから問題ない。
出ている茶器も綺麗な柄がついてる。
三人分あるので、ガルドさんも飲食できるらしい。
「さて……では、改めて自己紹介を」
一息ついたところで、レーヴィさんが口を開く。
「先ほども申し上げましたが、私はレーヴィ。人間側の現場責任者で、回復魔法の使い手です」
このひとの情報は知ってる。
教授の教え子でもあるそうだから。
なので、わたしの先輩ともいえる。
さっきの様子を見ても、腕がいいのは間違いない。
「俺はガルド、魔族側の責任者だな。普段は大体洞窟で、モグラたちの統率をしてる」
洞窟、という単語がひっかかる。
モグラ魔族の怪我は崩落って言ってたから、そのこと?
あれ? 開拓じゃなかったっけ。
疑問はあれど、まずは自己紹介。
「診察の手伝いにきました。正式な名前は長いので、セレと呼んでくださいー」
さて、どこまでわたしの能力を知らせよう。
教授の教え子のレーヴィさんと、骨の魔族。
この二人だけなら、いいかな。
どちらも責任者だ、言っていいことと悪いことの区別はつくだろう。
「いきものの骨状態が通常視界になってますー」
結構なひとが持っている、固有魔法とか、特殊能力とかいうもの。
持っていても、あまり他言しないのが普通だ。
でも今の状況なら、知らせておくほうが作業が進むだろう。
「骨……ですか」
「生身も見ることはできますが、普段は骨ですー」
レーヴィさんの声と一緒に、コツコツと、小さな音が響く。
発生源は骨さん、指先の骨同士がぶつかっているらしい。
「──つまり、セレ嬢の視界では、私とガルドが同じに見えるわけですね」
少しの間を置いてから、確認してくる。
骨、って意味では一緒だけど。
「全然違いますよー。だから見分けはできますー。たとえば、レーヴィさんは背骨曲がってるので、二十年後を考えると、背筋伸ばしたほうがいいですー」
言った瞬間、背が伸びた。
でもすでに背骨は歪み気味だから、今後も頑張ってほしい。
それに比べて骨さんは、まさに完璧な骨。
見えているところは少ないけど、見えてる頭蓋骨の部分の曲線がやっぱりきれい。
そういえば、歯も舌もないのにきちんと発語できている、不思議だ。
「ああ、だから治療が早かったのか」
納得してうなずくと、顎の骨が揺れる。
人体模型では見られない自然な骨の動きだ。
でも、人間のものとも違う。ひとにはある肉がないから。
骨のつなぎ目はひとと同じように隙間があるのに、ばらばらにならないのも魔族だからかな。
「あとは、必要なら文書作業もできますよー」
「是非お願いします」
めちゃくちゃ食い気味に頼まれた。
そんなに人手がいないのかな。
とはいえ、どこまでわたしが見ていいかわからないので、それは様子を見てから。
「他にも人間も魔族もいますが、何かあれば私かガルドにお願いします」
「わかりましたー」
覚える人数が少ないのはありがたい。
このふたりの骨は覚えやすいから、間違えることもないだろう。
勢いとなりゆきできちゃったけど、魔族の骨はたくさん見られそう。
モグラはあまり見てこなかったから、勉強しなくちゃ。
しかも、素敵な骨さんがいる。明日からも楽しみだ。




