番外編4:騎士団長
「ハァイ、きたわよォ♪」
「あ、イスキァおねえさま、いらっしゃいー」
仕事をしていると、おねえさまが入ってきた。
今日もみっちみちの骨なので、ひとの姿をしているらしい。
「ガルドはまだ戻ってないわよネ? それまで、セレちゃんのお仕事みててもイイかしらァ?」
上司に見られて困るものはないので、快諾する。
イスキァおねえさまは、わたしがまとめた診療記録を熱心に読んでいた。
魔族の国でもこういう整備をしたいらしい。
でも、モグラ魔族の一件をみるに、難しそうだ。
「そういえば、おねえさまの名前って、どうつけたんですかー?」
モグラ魔族はボス個体だけ名乗っていた。
おねえさまもガルドも、名前はあるけど家名は口にしたことがない。
そもそもガルドは家族がいないから、家名はないんだろう。
おねえさまは蛇だから、家族がいてもおかしくない。
「魔族は自分で名前をつけるのよねェ」
なるほど。だからモグラ魔族は名前がない個体が多いのか。
となると、他の動物に似た魔族も同じような感じかな。
名前問題を解決しないと、診療記録はもとより、戸籍も難しい。
仕事が終わると大抵ガルドを探しに行くけど、今日はおねえさまがいるから、つい話に夢中になってしまった。
変化しても骨は痛くないというけど、なら骨より大きくはなれるのかとか、知りたいことがいっぱいだったから。
ちっとも宿舎にこないと、レーヴィさんと連れだって見にきたから、少し驚いた。
そのまま、おねえさまも一緒に夕ご飯。
蛇って雑食だったっけ?
「イスキァおねえさまも、よければどうぞー」
恒例のお茶をふるまってしばらく。
「ねェ、セレちゃん、王直属の騎士団長なら『セレ嬢』の身分と釣り合うかしらァ?」
「……いけると思いますよー」
実際、騎士団の兵は人気だ。
王直属となると、強さだけでなく容姿も最低限が求められる。
わたしにはぴんとこないけど、王の威厳を保つための舞台装置なのだろう。
「じゃあガルド、アナタ今日から騎士団長ねェ」
「……オレの話だったのか?」
手をひらひらさせながら、軽く言うことだろうか。
と思ったら、手品みたいに書状が出てきた。
「王にはもう許可とりずみよォ、もともとアナタ、そういう仕事だものねェ」
言われてみれば、王から命じられてルタ地域の魔物殲滅に助力、その後の開拓の責任者になったわけで。
今までは名称がなかったが、この際にときちんとしたものにしたらしい。
無理にとってつけたわけではないってことだ。
「肩書なんてどうでもいいが……セレが家族と揉めずにすむなら、もらっておく」
「ウフフ、アナタがそんなコト言うようになるなんてねェ。ねェねェ、ドッチから告白したのォ?」
わたしのほうを見るガルドに、弾んだ声のおねえさま。
役職をつくって知らせてくれたお礼に、教えるべきだろうか。
……でも、告白、したっけ?
ゆくゆくは夫婦になるとは約束したけど。
お慕いしています、と赤面して伝えた記憶はない。
「アチラの王に親書も送るから、少なくとも表立っての反対はナイはずよォ」
ここの開拓もだけど、国としては魔族と友好関係を築きたいらしい。
となると、わたしとガルドの結婚は、ちょうどいいことになる。
おおごとになるのは面倒だけど、反対されないためにはしかたないかな。
「なら、手紙を送るのと同時に、セレの親に会いに行くか」
「え、一緒にくるの?」
思わず聞き返してしまった。
ガルドは細かく指の骨を鳴らす。
「スジは通すべきだろう?」
魔族にも結婚の許可どりってあるのかな。
ガルドは譲る気はなさそうだ。
でも、ガルドは骨の魔族。
王都には当然ながら、明らかな見た目の魔族はいない。
「……ガルドがバカにされるのは、いやなんですよねー……」
本人はどうでもいいって言うだろう。
でも、おもしろおかしく噂を立てる貴族たちの餌にするのは、嫌だ。
だったらわたし一人で行く。
「……成長しましたね」
「ほほえましいわァ」
「言いたいことはわかるが、お前らいちいちうるせぇ」
三者三様によくわからないことを口にしている。
イスキァおねえさまは、大丈夫よォ、とゆるやかに呟いた。
「余計な手間をかけないよう、ちゃーんとガルドに仕込んでおくワァ」
……なにを?
よくわからないけどおねえさまはそれ以上は教えてくれなかった。
開拓も落ちついてきたので、今のうちに一度、実家に帰ることになった。
東大陸から西大陸への嫁入りということで、多少はお披露目とかもしていかなきゃらしい。
実家へ到着予定日を先に手紙で知らせ、いざ出発当日。
支度をして外へ出ると、見たことのない馬車と、頑丈な馬の骨格が宿舎前に止まっていた。
馬に見える骨たちは、足の骨が特にしっかりしている。
貴族が持つ馬は脚が華奢で心配になるが、こっちは安心だ。
馬車は装飾はほとんどないけど、つくりはよくできている。
魔族領って、こういうものもつくれるのかな。
「この馬車は人間に頼んだモノを届けてもらったのよォ。セレちゃんを乗せて長旅だもの、快適か確認しなきゃねェ」
隣で見ていたおねえさまが教えてくれる。
ガルドに仕事があるといって、ここしばらくはおねえさまが開拓地にいた。
実家に同行するにあたって、必要なことだから、って。
扉が開くと、中からガルドが出てきた。
「遅い乗り物は慣れん」
「だから乗せたのよォ」
行きは馬だった気がするから、比べれば遅くてイライラするのかも。
わたしの乗馬は歩く程度だし……あ、でも二人乗りならいけるかな。
荷物は馬車にするのもアリかもしれない。
「ホラホラ、練習の成果、見せなさいよォ」
おねえさまがせっついている。練習?
ガルドは面倒くさそうに指の骨を小刻みに慣らしていたけど、観念したらしい。
ぐぐっと骨が変わって──変わる?
「頭蓋骨のでっぱりが消えた。え、どこに収納?」
「……視界を変えてくれと頼むのを忘れてた」
「セレちゃんは相変わらずねェ」
そうか。骨が変化ということは。
視界を切り換えると、ガルドの骨格をした、知らない男性がいた。
背丈はほぼもとと同じだし、一部、人骨と異なる部分がひとになっているけど、違いは少ないほうだ。
おねえさまみたいな無理のある変化には見えない。
「ガルドも変化の魔法、使えたんだ」
もしかして特訓って、これのことだったのかな。
「高位の魔族は大抵できるようになる、オレは使ったことがなかっただけだ」
「もとの姿が大きかったりすると、そのほうが便利なのよォ」
たしかに、おねえさまの本来の姿だと、大きめにつくってあるこの扉でもギリギリだ。
かといって大きい種族に合わせれば、モグラ魔族みたいなのには大きすぎる。
色々な種族が共存するのは、物理的に難しいんだな。
「コレならセレちゃんの心配は解消、でしヨ?」
それは、多分そうだろう。
でも、いいいんだろうか。
嘘をついているわけじゃないけど、人族に都合がよすぎるような気がする。
ううん、と悩んでいると、おねえさまに軽く押された。
「考えゴトは馬車でもできるわよォ」
そうだ、御者のひととかを待たせるのはよくない。
わたしは慌ててレーヴィさんたちに挨拶すると、ガルドの手を借りて馬車に乗った。




