番外編3:相手
「貴族ってのは、外面を気にするって話だが」
ある日の午後、急にガルドが言ってきた。
そわそわしているのか、小刻みな骨の音がしている。
「そうみたい。わたしはよくわからないから、例は挙げられないけど」
急にどうしたんだろう。
ガルドになにか言うようなひと、いないはずだ。
レーヴィさんなら、理由も説明するはずだし。
「……その、抱きしめたいんだが、まずいのか?」
「わたしを?」
「他に誰がいるんだ」
うーん。
未婚の女性が異性と二人きりになるのは駄目。
でも、わたしとガルドはそのうち結婚する。
ただし、家の許可を得ていないから正式な婚約者ではない。
この場合って、どうなるんだろう。
「悩むなら今はこれでいいぞ」
どうしようか考えていたら、ガルドが手を伸ばしてきた。
つなぎたい、ということなんだろうか。
それくらいなら平気だろうと、手を上げると、きゅっと絡められた。
骨っぽい。骨だから当然だ。
体温的なものはないようで、少しひんやりとすら感じられる。
「人族の流儀はよくわからないからな、駄目なら駄目と言ってくれ」
「うん」
わたしも頭では理解しているが、理由がよくわからない。
でも、迂闊な言動で不利になるのは避けたい。
それにしても、抱きしめたいとか思うんだ。
「ガルドって、今まで相手がいたことあるの?」
がしゃん、と大きな骨の音。
「……急にどうした」
「だって、魔族は実力主義なんでしょ」
つまり、強い個体は人気がある。
動物はおおむね、強いボスにメスがついていく。
ボス一匹にメスが数匹、なんていうのもある話だ。
知性の低い動物と比較するのはよくないが、傾向は似ているだろう。
それに、抱きしめたいとか思うってことは、過去にそういう経験があるのかもしれない。
「いや、惚れた相手に触れたいのは、どの種も同じじゃ……ああ、そうか、お前は少し違うか」
悪かったな、と謝られて、それほどじゃないと返す。
手も離そうとしたので、こっちからにぎって止めておいた。
たしかに、知らない相手からだと嫌だけど、ガルドなら別だ。
……触る、というなら。
「あれ、じゃあ、生殖の本能もあるの?」
がちゃん! とさっきより凄い音。
頭蓋骨が外れるんじゃないかと思うくらいだった。
ガルドの腰回りは見たことないけど、骨だけなら、生殖器はない気がする。
「お前……他の連中には絶対に言うなよ」
細かな骨の振動をさせつつ、念を押される。
「ガルド以外と生殖行動する予定はないから、聞く必要はないよ?」
魔族って一夫一婦なのかな、確認してないや。
モグラ魔族は……聞いたら駄目かな、普通のモグラはどうだっけ?
「……そのへんの説明は西に行ってからするつもりだったが、魔法を使って子供をつくる方法は、ある」
「そうか、でなきゃ異種族だと子孫がつくれないか」
「まあ、大抵の種族は同類同士だがな」
そのほうが妊娠・出産の危険度も少ないだろう。
魔族同士は魔法で意思の疎通がある程度できるから、異種族でも話は可能。
でも、番になるとなったら、色々変わってくるだろう。
「ちなみに、相手がいたことはないからな」
なぜか強い口調で、念を押すように説明された。
かわいそう枠はレーヴィだけだと思っていたら、そうでもなかった。
頑張れ、男性陣。




