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19/28

19:この先(本編終了)

 翌日の朝食。

 普通にやってきたガルドさんは、破損した鎧の代わりに、べつの鎧を身につけていた。

 念のために予備はいくつかあるらしい。

 傷(ここではこう表現する)がどうなっているか見えなくなったけど、レーヴィさんも平然としていたので、口には出さないでおいた。


「事後処理がまだ必要か、このあと潜るが、まあ、問題ないだろう」

「わかりました、よろしくお願いしますね」


 業務連絡も滞りなく終わり、ガルドさんたち精鋭がまず洞窟へ。

 大丈夫なら、元気なモグラ魔族を連れて行って、穴をならすらしい。

 そうしたらいつもどおり、あとは人族が坑道を整備していく。


 仕事場へ行き、夜間の引き継ぎを行う。

 患者は夜間も暴れることはなく、容態も落ちついていた。 

 兵士たちも異常を訴える者はいないというから、毒の影響は抜けたと言っていいだろう。

 カエルの魔物は迷宮とは無関係で、ボスに勝てないから隠れて、池に巣をつくっていたらしい。

 だから時間を置いたら復活することもない。

 これが迷宮が産む魔物だったら、採掘できなくなるところだった。

 開拓計画が白紙にならなくてよかった、とレーヴィさんが呟いていた。


 仕事を終えるて外に出ると、なぜか毎日ガルドさんに会う。

 いつものベンチに腰かけて、今日あったことを喋って、宿舎に送ってもらう。

 約束はまだ果たされていない。見せられるようになったら、ガルドさんから申告するだろう。

 いつもだったら、治る様子も観察したくなるけど……なんとなく、したくなくて、黙っていた。

 無事な部分の骨ならとせがむ気にもなれず、数日が経過した。



「普通の服って新鮮ですねー」

「……おう」


 カタカタカタカタ、と小刻みにわずかな音がする。

 今日のガルドさんはお休みだったようで、珍しく、朝から布の服を着ていた。

 破損した鎧は修理できる職人がいないそうで、ずっと予備のばかり。

 形状にあまり違いはないけど、守りの魔法がかかっていたり、なにより素材が違うらしい。

 蜂魔族の花畑が見える、ちょっと奥のほうへ散歩がてら歩いて行き、手前のベンチに腰かける。

 こっちは、丸太を削っただけの簡単なものだ。


「治ったから、確認したいかと思ってな」


 肋骨部分の話だ。

 だからめくりやすいように服にして、なおかつ、人目につかないところを選んだのかな。

 服を脱ぐなら、室内のほうがいい気がするけど、寒さは平気なんだろうか。


「……部屋の中で脱ぐと、それはそれでマズイだろ」

「診察は普通、天幕の中とかですよー?」

「──ああ、まあ、そうだが、診察するわけじゃないし」


 ちょっと骨が軋む音がする。

 ガルドさんの説明に、それもそうかと納得した。

 骨の魔族である彼は、わたしがわざわざ見る必要はない。

 ……折角服なら、半袖にしてくれれば、ついでに気兼ねなく腕の骨も観察できたのに、残念ながら長袖を着ている。

 裾にいくにつれて布が広がっていて、そこから白い骨が覗いているのだけど、なんだか、目がいってしまう。


 ガルドさんはシャツの裾をめくりあげてくれた。

 ……一瞬、視線をやりづらい気がしたけど、あの時の骨を思いだしたからだろう。

 治ったのだから、見ても、大丈夫。

 わたしはじぃっとそこを注視した。


「本当に、もとにもどってる」


 普通の骨ではありえないことだが、欠けたところは埋まり、骨と骨の接続部分も問題ない。

 腐食のようになくなっていた箇所がどこだったか、ほぼわからない状態だ。

 でも、よく見るとうっすら色味が違う。新しく生成されたからだろう。

 時間が経てば、わからなくなりそうな程度だ。

 ということは古傷で変色した部分も、削ったりすればもとの色になるのかな。

 絶対に痛いだろうし、白さにこだわるのもどうかと思うから、やってくれなんて言うつもりはない。


 とにかく。

 手持ちの骨格標本と大差ない状態だ。

 完治したと判断して間違いない。

 いつのまにか詰めていた息を吐いた。


「……よかった」

「おう、なんなら触ってもいいぞ」

「それは、…………やめておく」


 だってなんだか。……なんだろう?

 悪いことではないのに、よくないような気がする。


「もうすぐ掘る作業は終わるから、モグラ魔族の手当てもなくなるな」

「そうなんですねー」


 モグラ魔族の掘削が終わったら、あとは人間の仕事。

 坑道を整備して、冒険者ギルドを設立して、そのための人員を配置して、……


「……ということは、そろそろわたしの仕事も終了ですねー」


 希望すれば冒険者ギルドの医局勤務もできるかもしれないが、いったん契約は切れるはず。

 あくまで開拓の手伝い、だったから。

 この先どうするにしても、一度は実家にもどらないとだろう。

 そうなったら、またここにくるのは……難しいかな。


「ガルドさんも帰っちゃうんですよねー?」

「ああ、ここは人族の領地だからな」


 ガルドさんくらいの存在がいると、指揮系統の意味でもよくないだろう。

 竜のダンジョンが人間だけで抑えられるか疑問だが、そういうことを考えるのはわたしの仕事ではない。


 わたしは王都へ、ガルドさんは西大陸の、魔族の地へ。

 西大陸の地理は知らないけど、王都からここまででもかなりあるのだ。

 そのさらに先となると、……遠いなぁ。


「貴族社会は苦手だし、ガルドさんみたいなきれいな骨は他にないし、ずっとここで暮らせたらいいんですけどー」


 うっかり、不可能な願望を呟いてしまった。

 このままの状態なんてありえない。

 開拓は終わるべきだし、モグラ魔族の怪我もなくなるべきだ。

 だのに、今が一番、……そう、楽しいから、ついわがままを口にしてしまう。


「それなら、オレと一緒に来るか?」

「え?」


 ぎし、と軋む音。

 今日は鎧はないのに、どこから鳴ってるんだろう。


「これからもそばで、オレの骨が一番だと言ってほしい」


 そんなの、近くにいるなら、いくらでも言う。

 だって本当に、ガルドさんの骨が一番好きになったから。


 ……好き?


 あ。そうか。これが好き、ってことなのか。


 ──だったら、願ってしまっても、いいのかな。

 正しいか悪いかはよくわからないけど、ガルドさんにはすなおに答えることにする。

 絶対、ガルドさんは否定しないから。


「わたしも、ずっとガルドさんの骨を近くで見て、きれいって言いたい、みたいですー」

「そこは断言してほしいんだがな」


 カラカラと骨が鳴る。

 なんだか楽しそうだ。

 わたしも、なんとなく楽しい。


「まあいいさ。今後、な」


 今後。この先。

 つまり未来の話。


 当たり前のようにガルドさんが口にする。

 でも、そうか、一緒に行って、いいんだ。


 ──嬉しい。


「ちなみに、ゆくゆくは番……夫婦になる、って意味だぞ」

「なんとなく、そんな気はしていますー」

「そうか」


 からん、と一回だけ小さな骨の音。

 納得してくれたらしい。


 わたしが結婚するとしたら、政略結婚だと思っていた。

 だから正直、ちゃんと考えたことがない。

 なので、まだ、恋とか愛とか、夫婦とか、そういうのはぴんとこない。


 でも、これから一緒にいれば、多分、当たり前になっていくんだろう。

 本編はここまでです、ありがとうございました。

 エピローグなどの番外編が、八話ほどあるので、

 毎日一話ずつ更新していきます。

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― 新着の感想 ―
最後にまとまりましたねー。 セレちゃん相変わらずだけど! でもそれがこの2人のペースならgood! 周りの反応や如何に!? 番外編も楽しみです。
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