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16/28

16:閑話

 それから数日間は、ややモグラ魔族の怪我が多いこと以外は概ね平和だった。

 リボンで個体の区別がつくようになったので、よく怪我をするものへ注意ができたと言われもした。

 掘っている場所のせいなのか、格段に不調な個体が増えている。

 魔力も濃いからしかたがない、とガルドさんたちは考えているらしい。

 この場合、人族が長時間入ると影響が出すぎるので、補強も進まない。


 みんなには困る状況だろうけど、わたしにはいいこともあった。


「ほら、土産だ」


 早く帰ってきたガルドさんは、大抵みんなと訓練をしている。

 でも終業時間ごろにはやってきて、レーヴィさんとちょっと話したりする。

 それから、なんとなくいつも、わたしを宿舎へ送ってくれる。

 時間がある時は、ベンチで話をすることも多い。

 今日もそういう日で、魔族の骨の話を聞こうとわくわくしていたら、袋を渡された。


「開けていいですかー?」


 問いかけるとうなずかれたので、結んであった紐を解く。

 中から出てきたのは、バラバラの骨。


「魔族の骨だ、種類は、」

「まだ言わないでくださいー」


 マナー違反だけど遮ってしまう。

 だって、折角なら、骨当てをしたい。

 ガルドさんはそうか、と了承して、間を空けてくれた。

 そこに骨を丁寧に置いていく。


 ……見たことある骨に近い。

 ということは、これがこっちで……


「できた。ワニですね!」

「正解、流石だな」

「よく教授と骨当てしましたからー」


 でも、わたしの知るワニよりずっと小さい。

 だってベンチに置けるくらいなんだから。

 でも構造はしっかりワニで、あと、どうしてもわからない骨もある。

 これは魔物だからなんだろう。


「外見は兵が絵にしていたから、今度見てみるといい」

「そうしますー」


 できれば剥製も見たいが、綺麗に生け捕るのは難しいだろう。

 そもそも、研究のために入っているわけじゃないし。


「ボスが竜だからか、爬虫類もいるんだが、骨だけ持って帰る暇がなくてな」


 それはそうだ、本来の目的はあくまで迷宮の平定と、採掘場所の確保。

 よほど素材になるとかでないかぎり、骨は邪魔なだけだろう。

 今はわりと平和で、小型だから持って帰れたわけで。


「最高のお土産です、ありがとうございますー」


 ガルドさんの気遣いに、最大級の感謝を述べた。


「……ただ、レーヴィに見せるのはやめたほうがいいと思うぞ」


 官舎へもどろうとしたら止められた。

 欠損も少ないから、見応えあるのに、残念。



 そんなことがあってからさらに数日、追加の備品を載せた馬車が到着した。

 ブーツ令息があんな帰りかたをしたから、荷物を止めるんじゃないかと心配だったけど、よかった。

 勿論、怪我は増えないでほしい。でも、必要な治療ができないのも困る。

 ついでに、万一の時のものもたくさん揃えたので、備えは万全だ。



「レーヴィさん、どうぞー」


 暇なのでレーヴィさんや文官さんもちゃんと食堂にきたお昼。

 ちょうどいいとお茶を用意して、みんなの前に置いた。

 令息の対応をしてから、文官さんたちがやたらと声をかけてきたり、レーヴィさんにくっついて一緒にくることが多い。

 わたしから話すことは特にないし、レーヴィさんもいつもどおりでいいって言うから、気にしてないけど。

 骨の形状が違うから見分けはつくが、名前はよく覚えていない。

 ガルドさんが骨を慣らすと、慌てて仕事の続きをしに行くのも、よくわからない。

 今は、ガルドさんは洞窟だから、休憩が終わるまでみんな同席だろう。

 となると、同席している文官さんたちにお茶を渡さないのは変だ。


「……とても、おいしいですね」

「よかったですー」


 医局の院長にも好評だったが、薬草が入っているので好き嫌いはある。

 でも、蜂蜜を入れたりしてかなり飲みやすくしているので、平気だったみたい。


「わたしがよく頼むお茶なんですー。いっぱい注文したので、好きに飲んでくださいー」


 レーヴィさんのために用意した、だと断るだろうから、おすそわけってことにする。

 実際、日持ちもするから多めに頼んでおいたのは本当だ。

 ガルドさんにも飲んでもらいたいし。

 支払いはわたし自身だから、経費どうこうで文句も出ない。

 ここ、と茶葉を置いてある場所を教えておく。


「私では、うまく煎れられる気がしませんよ」


 たしかに。レーヴィさんはあんまり上手じゃない。

 というか、蒸らしている間に書類とか読みはじめて、渋くなったりしている。

 時間と温度を守れば、簡単なんだけどな。


「じゃあ、わたしが煎れるので、一緒に飲みましょうー」


 胃の消化をたすける成分が入っているから、食後に飲んでもらえばぴったりだ。

 お昼も急いで食べがちなみんななので、そこも改善できればいい。

 やることが多いからとはいえ、できれば日々の健康に気を遣ってもらいたいもの。

 お茶は本当に気にいってくれたのか、背筋も伸びている。

 ……あ、そうだ、業務時間じゃ言いづらかったから、今報告しておこう。


「そういえば、令息から手紙がきたんですー」

「……私が見てもいいんですか?」

「はい。というか、どうしようかなと思いましてー」


 とりだしたやたらと派手なレターセットには、きっちり伯爵家の封蝋もしてある。

 ここで働いているわたし(ルビ:セレ)に送るには、逆に違和感が大きい。

 中にはすぐに帰って申しわけなかったという謝罪にはじまり、「あのような危険な地ではなく、王都でまた会おう」と結ばれていた。

 他にも色々美辞麗句があったけど、要約すると一行だ。

 実家にとどいたなら相応の返事をするけど、ここでだと、どうすべきか悩んでしまう。

 中を確認したレーヴィさんは、ふぅ、と一息。


「王命により開拓のために働いている部下を、勝手に引き抜かれては困ります、と上に知らせておきます」


 上、領主か、さらに上か。

 仕事として処理してくれるってことなら、お任せすれば安心そうだ。

 やっぱり、レーヴィさんは頼りになる上司だ。


「ありがとうございますー」

「礼には及びません、この地にはセレさんが必要ですから」


 きっぱり言いきるレーヴィさんに、詳しい話をした覚えはない。

 でも、セレアドリエールじゃなく、セレさん、と呼んでくれたことが嬉しい。


「お茶請けにこれもどうぞー、食べやすいので、作業中にもいいと思いますー」


 小さいし、手も汚れないつくりだし、材料も少ない分、胃に優しい。

 ちょっとした甘さは、文書仕事で疲れた頭にもちょうどいいだろう。

 わたしもよく、小腹が空いた時につまんでいるものだ。

 袋ごと渡すと、知っていたのか「子供の時分によく食べていました」と呟いていた。


 ──レーヴィさんは後々振り返り「あれが嵐の前の静けさだったんですね」と身体を折り曲げた。

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