16:閑話
それから数日間は、ややモグラ魔族の怪我が多いこと以外は概ね平和だった。
リボンで個体の区別がつくようになったので、よく怪我をするものへ注意ができたと言われもした。
掘っている場所のせいなのか、格段に不調な個体が増えている。
魔力も濃いからしかたがない、とガルドさんたちは考えているらしい。
この場合、人族が長時間入ると影響が出すぎるので、補強も進まない。
みんなには困る状況だろうけど、わたしにはいいこともあった。
「ほら、土産だ」
早く帰ってきたガルドさんは、大抵みんなと訓練をしている。
でも終業時間ごろにはやってきて、レーヴィさんとちょっと話したりする。
それから、なんとなくいつも、わたしを宿舎へ送ってくれる。
時間がある時は、ベンチで話をすることも多い。
今日もそういう日で、魔族の骨の話を聞こうとわくわくしていたら、袋を渡された。
「開けていいですかー?」
問いかけるとうなずかれたので、結んであった紐を解く。
中から出てきたのは、バラバラの骨。
「魔族の骨だ、種類は、」
「まだ言わないでくださいー」
マナー違反だけど遮ってしまう。
だって、折角なら、骨当てをしたい。
ガルドさんはそうか、と了承して、間を空けてくれた。
そこに骨を丁寧に置いていく。
……見たことある骨に近い。
ということは、これがこっちで……
「できた。ワニですね!」
「正解、流石だな」
「よく教授と骨当てしましたからー」
でも、わたしの知るワニよりずっと小さい。
だってベンチに置けるくらいなんだから。
でも構造はしっかりワニで、あと、どうしてもわからない骨もある。
これは魔物だからなんだろう。
「外見は兵が絵にしていたから、今度見てみるといい」
「そうしますー」
できれば剥製も見たいが、綺麗に生け捕るのは難しいだろう。
そもそも、研究のために入っているわけじゃないし。
「ボスが竜だからか、爬虫類もいるんだが、骨だけ持って帰る暇がなくてな」
それはそうだ、本来の目的はあくまで迷宮の平定と、採掘場所の確保。
よほど素材になるとかでないかぎり、骨は邪魔なだけだろう。
今はわりと平和で、小型だから持って帰れたわけで。
「最高のお土産です、ありがとうございますー」
ガルドさんの気遣いに、最大級の感謝を述べた。
「……ただ、レーヴィに見せるのはやめたほうがいいと思うぞ」
官舎へもどろうとしたら止められた。
欠損も少ないから、見応えあるのに、残念。
そんなことがあってからさらに数日、追加の備品を載せた馬車が到着した。
ブーツ令息があんな帰りかたをしたから、荷物を止めるんじゃないかと心配だったけど、よかった。
勿論、怪我は増えないでほしい。でも、必要な治療ができないのも困る。
ついでに、万一の時のものもたくさん揃えたので、備えは万全だ。
「レーヴィさん、どうぞー」
暇なのでレーヴィさんや文官さんもちゃんと食堂にきたお昼。
ちょうどいいとお茶を用意して、みんなの前に置いた。
令息の対応をしてから、文官さんたちがやたらと声をかけてきたり、レーヴィさんにくっついて一緒にくることが多い。
わたしから話すことは特にないし、レーヴィさんもいつもどおりでいいって言うから、気にしてないけど。
骨の形状が違うから見分けはつくが、名前はよく覚えていない。
ガルドさんが骨を慣らすと、慌てて仕事の続きをしに行くのも、よくわからない。
今は、ガルドさんは洞窟だから、休憩が終わるまでみんな同席だろう。
となると、同席している文官さんたちにお茶を渡さないのは変だ。
「……とても、おいしいですね」
「よかったですー」
医局の院長にも好評だったが、薬草が入っているので好き嫌いはある。
でも、蜂蜜を入れたりしてかなり飲みやすくしているので、平気だったみたい。
「わたしがよく頼むお茶なんですー。いっぱい注文したので、好きに飲んでくださいー」
レーヴィさんのために用意した、だと断るだろうから、おすそわけってことにする。
実際、日持ちもするから多めに頼んでおいたのは本当だ。
ガルドさんにも飲んでもらいたいし。
支払いはわたし自身だから、経費どうこうで文句も出ない。
ここ、と茶葉を置いてある場所を教えておく。
「私では、うまく煎れられる気がしませんよ」
たしかに。レーヴィさんはあんまり上手じゃない。
というか、蒸らしている間に書類とか読みはじめて、渋くなったりしている。
時間と温度を守れば、簡単なんだけどな。
「じゃあ、わたしが煎れるので、一緒に飲みましょうー」
胃の消化をたすける成分が入っているから、食後に飲んでもらえばぴったりだ。
お昼も急いで食べがちなみんななので、そこも改善できればいい。
やることが多いからとはいえ、できれば日々の健康に気を遣ってもらいたいもの。
お茶は本当に気にいってくれたのか、背筋も伸びている。
……あ、そうだ、業務時間じゃ言いづらかったから、今報告しておこう。
「そういえば、令息から手紙がきたんですー」
「……私が見てもいいんですか?」
「はい。というか、どうしようかなと思いましてー」
とりだしたやたらと派手なレターセットには、きっちり伯爵家の封蝋もしてある。
ここで働いているわたし(ルビ:セレ)に送るには、逆に違和感が大きい。
中にはすぐに帰って申しわけなかったという謝罪にはじまり、「あのような危険な地ではなく、王都でまた会おう」と結ばれていた。
他にも色々美辞麗句があったけど、要約すると一行だ。
実家にとどいたなら相応の返事をするけど、ここでだと、どうすべきか悩んでしまう。
中を確認したレーヴィさんは、ふぅ、と一息。
「王命により開拓のために働いている部下を、勝手に引き抜かれては困ります、と上に知らせておきます」
上、領主か、さらに上か。
仕事として処理してくれるってことなら、お任せすれば安心そうだ。
やっぱり、レーヴィさんは頼りになる上司だ。
「ありがとうございますー」
「礼には及びません、この地にはセレさんが必要ですから」
きっぱり言いきるレーヴィさんに、詳しい話をした覚えはない。
でも、セレアドリエールじゃなく、セレさん、と呼んでくれたことが嬉しい。
「お茶請けにこれもどうぞー、食べやすいので、作業中にもいいと思いますー」
小さいし、手も汚れないつくりだし、材料も少ない分、胃に優しい。
ちょっとした甘さは、文書仕事で疲れた頭にもちょうどいいだろう。
わたしもよく、小腹が空いた時につまんでいるものだ。
袋ごと渡すと、知っていたのか「子供の時分によく食べていました」と呟いていた。
──レーヴィさんは後々振り返り「あれが嵐の前の静けさだったんですね」と身体を折り曲げた。




