↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/28

13:手打ちと来訪

「おはようございますー」

「おはようございます」

「……おはよう」


 朝、いつもどおりの挨拶をかわす。

 ……でも、そのあとの言葉が浮かんでこない。

 眠るまでの間、ずっと考えていたけど、ただ謝るのはちょっと違う。

 だって、わたしの行動は間違っていなかった。

 だけど、正しかったのかというと、そうでもなくて。

 食事の時にまずくなる話題は避けるべきだから、気まずいまま、ちょっとした会話だけで進む。


「……オレも怒鳴ったし、手打ちにしないか」


 食後のお茶の時になって、ガルドさんからの提案。

 わたしに反論する余地はない。

 なによりレーヴィさんがくの字に身体を折りかけてる。


「わかりました。あと、もう元気なので、大丈夫ですよー」

「……ならいい」


 かしゃん、と軽い音。

 ほら、と綺麗になっているはずの腕を見せると、納得してくれた。

 腕の骨を見せてくれた時も、色移りを気にしていた。だからなんだろう。


「あいつらも傷が残っていたら、落ち込むだろうからな」


 そうか。そっちは考えていなかった。

 回復魔法はもったいないと感じたけれど、間違いじゃなかったんだろう。


「……オレも、安心するしな」

「万全の状態で治療に当たれますよー」


 腕は動くしちゃんと寝たから頭もすっきり。

 ただ、もうちょっと体力はつけたいかも。

 昨日の全力疾走で、今日はちょっと足が痛い。


「では、仲直りしたところで、報告といきましょうか」


 仲直り。喧嘩ってほどじゃないけど、表現するならそうかもしれない。

 会話の替え時がわからなかったし、レーヴィさんがいてくれてたすかった。


 そして、話題は昨日の暴走に関して。

 二人いわく、モグラ魔族の様子がおかしくなるのは、今までもあったらしい。

 なにせ迷宮内には魔力が充満している。

 当てられて調子を崩すのは、よくあることなんだとか。

 だから人族も魔族も、必ずその日のうちに帰還する。


 今までは意思の疎通が難しいという理由で、ガルドさんがもどってくるまで処置ができなかったから、トラブルもなかった。

 暴れようとしても、兵士たちがいるし、太刀打ちできない骨の存在もあったから。

 今回は室内に非力な人族のわたしだけだったから、暴走してしまったんだろうって。


「ですので、あなたの怪我は私の責任でもあります」

「治ったから気にしないでくださいー」


 レーヴィさんの指示にもおかしなところはない。

 ただ、運が悪かっただけだ。

 謝り合戦になりそうなので、やめてもらう。

 わたしが言わなければ、実家も知ることはない、沈黙はなんとかだ。


 今後の治療時には兵を控えさせた状態で、と決めて、話は片づいた。

 暴走した個体は休ませて、それ以外で採掘に入るという。

 今日も怪我が出るかもしれない、備えを確認しておかないと。


「ガルドさんは、影響を受けないんですかー?」


 魔力の濃いところで体調を崩すのを、酔う、と我々は言う。

 酩酊したような状態になるからだ。

 わたしたちの住む地域ではその程度だけど、もっと濃度が高い迷宮は危険なんじゃないか。

 でも、ガルドさんはいつも平然としている。

 責任者として毎日のように中へ入り、長時間い続けているのに。


「影響は出るが、制御できるから問題ない」


 上位魔族だからなのかな。

 わからないけど、きっぱり言うし、骨が鳴ってないなら本当なんだろう。

 色々な部位から聞こえる骨の音は、感情と連動しているようだ。

 どこがどの感情かはまだよくわからないけど、それがしないなら、平静ということ。


 洞窟へ行くガルドさんを見送ると、わたしは途中になっていた診療記録をつけていく。

 兵につきそってもらい、昨日の患者を確認していった。

 勿論、誰にも襲われることはない。

 落ちついたらしいモグラ魔族たちは、昨日のことを覚えていないようで、安心した。

 嫌なことなんて、忘れているほうがいい。


 記帳が終わったあとは、備品の整理をしておく。

 今日も怪我があれば運びこまれる、暴走の危険も考えておかなければ。

 念のために睡眠の瓶もとりだしやすい位置に置いておいた。

 昨日のようなことは、二度と起こさない。


「セレさん」


 黙々と作業していたら、少し慌てた口調で、レーヴィさんがわたしを呼びにきた。

 時計を確認。まだ終業にははやいのに、どうしたんだろう。


「先達の伝令がきまして……領主代行が、もうすぐ到着するそうです。ですので、出迎えをお願いします」


 ここにくる際、知識としては覚えている。

 ルタ地域を含む領地を有している伯爵家。

 土地は広いけど、ルタ地域周辺は資源として使えないから、辺境伯でも裕福とはいえない。

 ただ、魔物の被害を食い止めてはいるから、それなりの評価は受けている家だ。


「あまりこないって聞いていましたけどー?」

「ええ、久しぶりです。どうして急に……」


 レーヴィさんにも心当たりはないようだ。

 開拓中だし、一応は国王から命じられているのだから、視察もしくは滞在すべきだ。

 だのに、わたしがここにきてから一度も見ていない。

 いくら世情に興味ないわたしでも、あまりいい上司でないことくらいはわかる。

 でも、立場としては上だから、ちゃんとお出迎えしないといけない。


 館の前に集まっていると、兵が走ってきた。

 遠くに馬車が見えてきた、という報告のあと、レーヴィさんになにかひそひそ話。

 彼は、はぁ──と大きなため息をついた。


「セレさん、領主の息子のことは、覚えていないんですよね?」


 勿論、覚えていない。

 そもそも記憶していたらちゃんと申告しておく。

 わざわざレーヴィさんが確認してきたということは。


「様子を見に行った兵に、セレアドリエール嬢は本当にいるのか、と聞いてきたそうです」

「じゃあ、どこかの夜会で会ったんでしょうねー」

「……あなたのドレス姿を見て、勘違いする男性は多そうですし……」


 医局の先輩と同じように、妙にしみじみ呟いている。

 ドレス姿を見たことないはずなのに、よくわかるなぁと前も不思議に思った。

 レーヴィさんはしばらくうつむいていたけど、ぱっと顔を上げて、わたしを見る。


「──目的を達成するためなら、多少の芝居は打てますか?」

「使えるものは使うべきだと考えていますよー」


 ひとによるけど、レーヴィさんの言う目的は、私利私欲じゃない。

 それなら、利用できるものは使ったほうがいい。

 限度はあるけど、本当に嫌なことはさせないはずだし。

 わたしの返答に、では──と、短い時間で打ち合わせを開始した。



 上等な馬車が見えてきたので、わたしたちは頭を下げる。

 扉の開く音と、許しのあとに顔を上げた。


「ようこそいらっしゃいました、ヘンダーソン様」

「レーヴィ、報告書にあったリボン購入の件、あとで説明してもらうぞ。無駄遣いは許さないと言っておいただろう」


 挨拶もねぎらいもなく、文句からはじまる。

 ……うーん、声に覚えがあるような、ないような。

 あ、でも、靴と骨が合っていない、このひとだったのか。

 そういえば母が名前を言っていた気がする?

 もっともそれ以外は全部忘れてるから、あんまり意味はない。

 にしても、リボン、わたしが自費で出すつもりだったのに、計上したのか。律儀なレーヴィさんだ。

 ちゃんと役立っているのに、頭ごなしに叱責してくるなんて、ちょっと面白くない。


「お前の責任問題も重要だが、それより……セレアドリエール嬢はどこにいる?」


 開拓地の現状を聞く前にそれって、どうなんだろう。

 そもそもまめにこない時点でどうなのって状態とはいえ。

 ……まあ、おかげで自由にできているから、みんなのびのびして、悪いことばかりじゃないかな。


「わたくしでしたら、こちらにー」


 レーヴィさんの後ろから進み出て、顔を上げて名乗る。

 事前に髪の毛をおろして櫛で梳いたし、眼鏡も外した。

 はじめて素顔を見た文官さん二人が、怪我した時より大きな声を出してうるさかった。

 一枚変わっただけで騒ぎになる不可思議は、令息相手にも効果があるから、そういうものなんだろう。


「ああ、その姿! 何度夢に見たことか……!」


 ブーツ令息の夢に出た覚えはない。

 勝手に出演させないでほしいところだ。

 とはいえ、これなら打ち合わせの件はうまくいきそう。


「リボンはわたくしがお願いしたのですー、モグラ魔族のみなさんを見分けたくてー。ですので、お叱りはわたくしにお願いしますー」


 いつもはわずかな語尾の伸ばしを、意識的に長くする。

 レーヴィさんの評価が下がるのは嫌なので、あっちがなにか言う前に説明した。

 これだって、わたしが喋るほうがうまくいくはずだ。

 注文がわたしと知ると、ブーツ令息は「それなら構いません!」と即答した。

 納得できなくても、レーヴィさんの過失にならないなら、とりあえずいい。


「それにしても、本当にあなたが怪我人の治療を行っているなんて。なぜ自ら……」

「お世話になった教授の推薦ですー、それに、開拓は陛下も願っていらっしゃるとのこと。臣下として、当然のことですー」

「なんと高潔な……! 見た目だけでなく、心も美しい!」


 なんだか変な納得をしている。

 見た目と心?……どちらもわたしには見えないものだ。

 というか、ブーツ令息にだって見る能力があるとは思えないのに、すごく自信満々。不思議だ。

 ちらっと横を見ると、レーヴィさんがうなずいた。


「開拓が進めば怪我も増えますー、医薬品など、多めに備えておきたいので、そのあたりも含めて、報告させていただきたいのですがー」


 ほとんどここにいなくても、本当は父親が責任者でも。

 今この場で、諸々の決定権を持っているのは間違いない。

 なら、最低限の仕事はしてもらう必要がある。

 わたしが水をむけると、ブーツ令息は深くうなずいた。


「勿論だとも! レーヴィ、報告を聞こう。さあ、セレアドリエール嬢、お手を」


 ここには仕事できている。

 だからわたしは貴族令嬢ではなく、ただのセレのつもりだ。

 従って、エスコートされるいわれはない。

 でも、言っても聞いてはくれないだろう。

 ごねられても時間が惜しい。

 しかたがないので、その手をとって官舎へむかった。


 官舎に移動すると、ブーツ令息は以前おねえさまがすわった椅子に、当然のように腰かけた。

 レーヴィさんの報告書の大きなまとめだけを読んでいく。細かな部分も大切なのに。

 わたしが近くにいたから、くどくど説教とかもなかったし、医薬品の補充もふたつ返事だった。

 モグラ魔族の様子を見ていると、ちょっと心許ない備蓄量だったから、これで安心できる。


 令息の到着は午後だったので、今夜は一泊していくことになった。

 といっても、貴族用の邸宅なんて準備はない。

 官舎の上に邸ができるまで用に豪華な部屋がしつらえてあるそうで、そこに泊まるらしい。

 夕食を一緒にと誘われるのかなと覚悟していたけど、急患が出たという知らせを受けて、レーヴィさんと失礼することができた。

 患者は本当にいたけど、急を要するものじゃなく、どうやらレーヴィさんの采配だったらしい。


「いくらあなたが気にしないとしても、私が不愉快なので」


 丸くなりかけた背を伸ばしながら、レーヴィさんが呟く。

 その後、採掘に出ていたモグラ魔族も怪我をして帰ってきたから、実際、忙しくなった。

 勿論レーヴィさんは最後まで治療をして、残った報告書をまとめておくと残業しに官舎へもどる。

 あなたは先に、のお言葉に甘えて宿舎へもどりながら、上司に恵まれてるな、と思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
>web拍手<
 押していただけるだけでも励みになります。
― 新着の感想 ―
拍手画面のおねー様が、、、、胸が腕にはみ出ていらっしゃる!凄 セレちゃん、カワイイ。お仕事中は眼鏡っ娘でGooですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。