2ー⑥ 3人娘と青年
「スタッフさんでしょ。……え。これって肝試しじゃないよね、アヤ」
半分冗談、半分本気の口調で実咲が言った。実咲、梓ゆみが彩羽の腕をそれぞれつかむ。
「いや、2人とも大丈夫だから。一旦落ち着いて」
キャンプ参加者が夜の園内で迷わないよう、数名の植物園の職員が懐中電灯を持って巡回してくれていることを彩羽が伝える。
その見慣れた背格好で彩羽はわかっていた。男性らしき白い人影も前方の3人の娘に気付き、頭を下げる仕草をした。彩羽もとっさに頭を下げて『こんばんは』、と勝手に喉から声が出た。
顔見知りに対する反応だと気づいた実咲が聞いた。
「アヤの知ってるひと?」
「まぁ、うん」
実咲とゆみの2人は、数10メートル先の夜の蓮池の前で佇む青年をチラリと見た。向こうからは彩羽+2人の娘、と認識されていそうだと、実咲たちにはなんとなくわかった。
2人の娘はあくまで遠目で見ただけだはあるが、はじめて見たその青年の印象は静かすぎて、存在の輪郭が幾層かぼやけているような、普段大学で接している学生たちと少し毛色の違う雰囲気の持ち主だった。
「じゃあ、私ちょっとトイレに行きたいからゆみちゃんと先に行くね。テントに戻ってるから。アヤはゆっくり来なよ」
実咲は彩羽の返事を待たずに、ゆみと腕を組んで去って行った。
「あのひとが例の、彼か」
「違いないね、ゆみりん」
現場からかなり離れてから2人は静かに目配せをした。
残された彩羽と青年れんは、しばらく距離を保ったまま立っていた。夜なのに、表情はわからないはずなのに彩羽は動けなかった。足を踏み出すと、自分の中のなにかを認める意思表示になる気がした。
すると青年のほうから、封鎖代わりの灯籠を避けて彩羽の立つ場所へやってきた。
「こんばんは」
青年が先に口を開く。
「こんばんは」
「もう鑑賞は終えましたか」
「そうですね、だいたいは」
「もうすぐ鑑賞時間も終わりなので、芝生まで歩きましょうか」
「はい。えっと……れんさんのお仕事は?」
青年れんは懐中電灯で2人の前の道を照らした。
「道に迷われていた参加者さんを、ご案内しているということにしましょう。ひとりでは危ないですからね」
そして夜の植物園をゆっくり歩きはじめた。
「あのひとと彩羽ちゃんを2人にして大丈夫だったかな」
ゆみがテントの中のレトロデザインの赤いランタンを見つめながら実咲に言った。彩羽達より先に芝生広場に着いた2人は、とりあえずなにかを語り合いたい気分だった。
「大丈夫。携帯も持ってるし。それにアヤは意外と、っていうか、ちゃんとしっかりしてるから」
次話につづく




