2ー⑤ 星合まつり
山吹植物園の一夜限りの七夕イベント、星合まつりに参加を決めた彩羽はまず双子の妹の実咲を誘い、両親の許可を得た。
星合まつりの参加にあたり細かな注意や事前説明を受けたが、青年れんによれば実際はそこまで厳しくはないという。
夜間の植物園を散策し、静かに七夕の夜空を眺めるのが本企画の趣旨のため、あえて催し名にキャンプと付けないのだそうだ。
現地で約2ヶ月ぶりに彩羽と顔を合わせた実咲は、開口一番『彼氏できた?』と言った。
「できてないよ」
「あれ。ホントに?じゃあ好きなひとだ」
彩羽は口をつぐんだ。姉が嘘をつけないことを実咲はよく知っているのだ。
「だってはじめてだよ。アヤからキャンプのイベントに誘ってくるなんて。それでどこにいるの、そのひとは。参加者の中にいるの?」
実咲は集合場所に集まっている、先着順で決まった5組の参加者達をキョロキョロ見渡す。家族連れが2組、男女の組が1組、女性のみの組が2組。実咲は首をひねる。
「ここにはいないのね」
「まぁ、そうみたい」
「そうみたいって……アヤにも来るかわからないの?」
「うん」
青年が同じ敷地内にいることは確実なのだが、今日のようなイレギュラーな状況で目の前に現れるか来るかわからないのだった。何時にどこで、などと約束をしたわけでもない。彩羽は今になって気づいた。どうして約束をしなかったのだろう。
芝生広場にテントを設置し、日が暮れてからバスで卯の花湯に向かった2人は現地で別の女性同士のグループに遭遇した。
社会人の彼女達は2回目の参加だそうだ。昨年はちょうど園内の月下美人が咲くタイミングと重なり、参加者たちだけで鑑賞会をしたという。今夜はデジタルデトックスを兼ねてゆっくり本を読むと話していた。
彩羽たちが卯の花湯から戻り、山の向こうが黄昏れはじめると開放区間だけに設置された小さな灯籠に明かりがついた。彩羽の大学の友人、梓ゆみが合流して3人で自己紹介をしながらぶらぶらと歩く。
夜が更けた植物園では植物たちの姿形はおぼろげになり、代わりにその存在感や香気を強く放ちはじめる。
まだ花期のクチナシの甘い香りを気に入ったゆみは、この香りのオードトワレが欲しいと言った。散策の途中、3人は竹林に立ち寄って七夕用の大きな笹に願いごとを書いた短冊を吊り下げた。
このまま道を進むと、もうすぐいつもの蓮池に着きそうだった。しかし今夜は蓮池への道は塞がれていた。周囲に柵が設置されていない池なので当然だ。
方向を変えようとしたそのとき、ゆみが彩羽の長袖パーカーの裾を引っ張った。
「ねぇアヤ。誰かいる」
「え」
「そこに」
彩羽と実咲は同時にその方向を見た。細身の身長170センチほどの白っぽい服装の人物の後ろ姿だった。
次話につづく




