第13話 冒険者姉妹の朝 ーーオパール視点
ぐらぐら、と視界が揺れた。
「オパール、起きて。朝だよ」
「お姉ちゃん。 まだ眠いよ……」
耳元で姉さんの声がする。 私は藁のはみ出した薄い枕に顔を埋めたまま唸る。
ーーまだ眠い。 宿屋の薄い壁の向こうから、騒がしい音が漏れてくる。
「もー、お姉ちゃん起きるよ……ぐう」
「寝てるじゃん!」
「うぐ!」
ルビー姉さんは、私の肩を掴んで、手をさらに強く揺さぶる。 そして、容赦なく毛布を引き剥がしにかかる。 私は毛布の端を必死で握りしめた。
「今日も鉱山に潜るんだから。 早く準備して!」
「パス!」
「そんなのないから!」
ーー死の鉱山。 私たちが毎日のように潜っているダンジョンの蔑称だ。
本当の名前なんて、知らない。 聞いたことない。
街から一番近い場所。 ーーいや、このダンジョンが先にできたそうだから、当然か。
新人冒険者から伝説の冒険者まで。 冒険者なら誰でも挑むことができるダンジョンだ。
私は渋々と体を起こした。
「……顔、洗ってくる」
「行ってらっしゃい。 下で朝ごはん頼んでおくからね」
姉さんはもう革鎧の留め具を点検し始めていた。 長い赤い色の髪を後ろで一つに束ねている。 私の白髪は、寝癖でとんでもないことになっているのになぁ。
食堂に行くと、大勢の人で繁盛していた。 私たち鉱山冒険者の朝は早い。
私たちが見つけた席に着くと、知り合いのおっちゃんーーボンバが話しかけてきた。
「おはようさん、嬢ちゃんたち。 ……今日も二人で潜るのか?」
「はい、今日も二人ですね……」
姉さんが当たり前のように答える。 私は黙ってパンとスープの皿を受け取った。 硬いパンをスープに浸して、ふやけたところを口に運ぶ。
ボンバは、姉さんに向かって少しだけ眉を寄せた。
「……最近、奥のほうで妙な話を聞く。 二人じゃ危険だぞ!」
「……妙な話ですか?」
「なんでも、冒険者同士で窃盗や殺人が横行しているらしい……」
私はパンを噛む口を止めた。 姉さんはちらっと私を見て、それからボンバに向かって伝える。
「私たちは浅いところまでしか行きませんから。 大丈夫ですよ」
「そうか? ……ならいいが」
ボンバはそれ以上は何も言わず、ご飯を食べていた。 私は姉さんの横顔をじっと見た。 姉さんはスープを一口飲んで、それから小さく言った。
「……噂は噂よ。 気にしないで、オパール」
「うん……」
私は頷いた。 ーーけれど、本当はちょっとだけ気になっていた。
ーー死の鉱山。 窃盗、暴行、そして殺人。
この街では、その言葉が日常の中に紛れ込みすぎていて、もう誰も真剣に怖がらない。
でも、本当に怖いものは、怖がらなくなった私たち人間だーー
パンを飲み下して、私は立ち上がった。
「行こうか、姉ちゃん……」
「ええ、行きましょ」
私たちは死の鉱山に向かう。 今日を生きるためにーー
◇◇◇
「……死の鉱山か。 ……俺の夢が、ここにある」




