第12話 ナナシの行方 ーーフレイア視点
酒場の扉が、勢いよく開かれた。
「あら~? フレイアちゃん、泣いているの?」
妖艶で、甘ったるくて、どこか棘がある声。 彼女は紫色の長い髪を揺らしながら、こちらに近づいてくる。
「うう、リディ。 ルーブが死んじゃう……」
「あらあら。 人間って短命ね……」
「……おい」
私たちはそんな軽い挨拶を交わす。 すると、横にいたルーブが大きなため息をついた。
「お前ら⋯⋯勝手に俺を殺すな。 ⋯⋯まったく、付き合いきれん」
ルーブはまたため息をついて、グラスのお酒を一気に飲み干した。
その時、酒場の奥から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「⋯⋯ふむ、賑やかだのう」
マルクがこちらにやってきた。 元はこの国の王だったらしいけど、今はただのしがない学園の副担任。 なんだけどーー
「マルク? どうしたの、調子が悪そうね……」
「いやな。 最近どうも、具合が悪くてな。 ⋯⋯昔は剣を一日中振り回しても平気だったというのに」
「あら、お年寄りねぇ」
「リディ、容赦ないわね」
「……ふむ。 貴様もサキュバスか。 お前たち種族は根絶やしになったはずじゃが…… キャスといい、サキュバスはしぶといのう……」
「……キャスですって? まさか……」
マルクは笑いながら、近くの席に腰を下ろす。 彼の動きは、確かに以前よりもゆっくりだった。
ーー人間は、こうやって老いていくのね。
私は再びルーブを見つめる。 彼もいつかは、こんな風になるの? いえ、それよりも前に、彼の命はーー
いけない、また悲しくなってきちゃった。
その時、リディが切り出した。 さっき一瞬、態度が変だったわね?
ーー貴方、キャスのこと知っているのかしら? まあ、今は関係ないわね。
「ところで、フレイアちゃん、ルーブちゃん。 ちょっとナナシが、ややこしいことになっているのよ!」
「あら、何かしら?」
ナナシ。 その名前を聞いて、私の表情が引き締まる。
「ナナシが、どうしたの?」
「彼ね、『黄金の鉱山』に向かったらしいのよ」
「黄金の鉱山ですって!?」
黄金と聞いた瞬間、私の目はキラキラと輝いた。 そう、それは私の大好きなワードよ!
しかも、あの有名な黄金鉱山ですって! 私もリディと一緒に行けばよかったーー
「フレイアちゃん、目がお金マークになっているわよ⋯⋯」
「だってだって、黄金よ? 黄金!」
私が興奮気味に手を叩いていると、横でルーブが盛大にため息をついた。
「⋯⋯お前ら、知識が古すぎる」
「え?」
「黄金の鉱山なんて、もうとっくの昔の話だ。 あそこは今、別の名前で呼ばれている」
「別の名前⋯⋯?」
「その通りだ……」
ルーブの言葉を、マルクが引き継ぐ。 彼はグラスにお酒を注ぎながら、淡々と告げた。
「『死の鉱山』と呼ばれているダンジョンだ。 今はモンスターの巣窟で、冒険者たちの修行場だ。 ……ただし、命懸けのな……」
「死の⋯⋯鉱山⋯⋯」
私はその名前を聞いて、ゾッと背筋が冷えた。
ナナシは、そんな危険な場所に行ったというの?
「リディ。 今のナナシは、どんな状況なのよ?」
私が尋ねると、リディは扇子を広げて口元を隠した。 その表情は、いつもの妖艶さよりも、どこか真剣味を帯びていた。
「ナナシちゃんはね⋯⋯今、仲間と共に死の鉱山の深部を目指しているわ。 目的は、まだはっきりしないけれど⋯⋯どうやら、最奥を目指しているそうよ……」
「最奥?」
「ええ。 噂では、どんな願いでも叶う遺物があるそうなのよ……」
「⋯⋯!」
ーーなんでも叶うですって! 最高じゃない!




