第11話 エルフの時間感覚ーーフレイア視点
ここは酒場。 今日も今日とて、私は潜伏任務終わりの晩御飯を楽しんでいる。
最初こそミスしたが、見事にミステリアスなエルフとして、クラスに潜伏成功したわ。 恩人様ーーキャスたちが、仲良くしている教室で、私は寡黙に微笑んでいるの。 とっても、楽しんでいる、はずだわ。
ーーいや、楽しんでいる、というのは少し違うかしら?
私の機嫌は、ここ最近ずっと良かったの。 なぜなら、少し前にルーブが学園で優しくしてくれたから! 「いいぞ、さっさと行くぞ」ですって!
あの時の彼ったら! まるで王子様みたいで、思い出すだけで頬が緩んじゃう!
初めて会った時は、私が抱き抱えていたのにねーー
あれ? でも、おかしいわね? あれ以来、ルーブは一向にデレてくれないのよ!
いつもと変わらない仏頂面で、私のことを見ているだけ。 乙女心としては、もう少し甘い空気を期待しちゃうじゃない?
私は、隣に座るルーブをチラリと見る。 彼はいつも通り、無表情で食事を作業のように口に運んでいた。 相変わらずたくさん食べるわね!
「……ねぇ、ルーブ」
「なんだ」
「この前、学園で優しくしてくれたじゃない? ……あれってさ、私のことちょっとは意識しているってことよね? ねぇねぇ、どうなのよ?」
私はうふふと笑いながら、彼の腕に自分の腕を絡める。
ーーこれぞ、私の必殺技! 求愛のポーズよ!
しかし、ルーブは怪訝な表情を浮かべて、考え込むだけだった。
「学園で? ……色々あって、覚えてないな」
「ホラ、身体測定の後……」
ーーすると、ルーブが懐かしむように呟いた。
「……ああ、あれか。 ずいぶん前の話だな。 あの頃は、マルクも元気だったな……」
「ずいぶん前⋯⋯? ちょっと、何言っているのよ! ついこの間のことじゃない! ミルフィが帰ってくる、少し前に……」
私は驚いて声をあげる。 ついこの間というか、私の体感では昨日のことみたいな感覚なのにーー
ルーブはため息をつきながら、フォークを置いた。 そして、私の目をまっすぐ見つめてきた。 私の鼓動が高鳴るーー
「フレイア。 お前、自分がエルフだってこと忘れてないか?」
「? 忘れてないわよ?」
「お前にとっての『ちょっと前』は、人間にとっては数年前なんだよ」
「⋯⋯え?」
私はキョトンとした表情でルーブを見る。 彼は、まるで子供に教え諭すような口調で続けた。
「エルフは数百年生きる。 お前にとっての一年は、俺たち人間にとっての数日くらいの感覚なんだ。 お前が『ついこの間』って言っているのは、俺にとっては『ずいぶん前』だ」
「⋯⋯そ、そうなの?」
「だから、お前の中ではホットな話題でも、俺の中ではもう冷めきった話なんだ」
ルーブはそう言うと、また食事に戻ってしまった。
私は彼の言葉を噛み締めながら、ぼんやりと天井を見つめる。
ーー時間の感覚が違う。
それは、つまりーー
私はゆっくりと、ルーブを見つめた。 彼の精悍な顔立ち、力強い瞳、たくましい腕。 全てが愛おしくてたまらないわね。
でも、人間は老いるのよね?
私がまだ若いまま、変わらず生きている間に、ルーブは年老いていくの?
しわくちゃのおじいちゃんになって、やがて死んじゃうのかしら?
考えるだけで、胸がギュッと締め付けられる。 目の奥が熱くなって、視界がぼやけてしまう。
「⋯⋯ルーブ」
「なんだよ」
「アンタ、死んじゃうの?」
「ハア? いきなり何の話だ……」
私が涙目になりながら訴えると、ルーブは困ったような表情を浮かべた。
「……まあ。 お前には、辛い日々を送らせているからなぁ。 ……そろそろ、進展があってもいい頃だが……」
ーーその時だった。 酒場の中に、彼女が入って来た。
「ごきげんよう。 ナナシの近況報告をしにきたよ……」
悪魔の尻尾をふりながら入ってきたのは、サキュバスのリディだった。




