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死に戻りクズ勇者は勝手に生きたい〜こんな奴に勇者は任せておけない!  作者: Masa(文章力あげたい)
聖女・学園編

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第45話  蘇る記憶のカケラ

 平原地帯まで吹き飛んだ前国王は、怒りに震えていた。 変な物体に自ら当たったことを恥じているようだ。

 

 「⋯⋯たしか、名前をキャスと言ったか? ⋯⋯あのクソサキュバスめ! ぶっ殺してやる!」

 「キャスを殺すだと? ⋯⋯させる訳ないだろ? マルク」

 「⋯⋯貴様! 我の名前を呼び捨てにするとは⋯⋯何者だ!」

 「⋯⋯俺に名前なんてない。 『ナナシ』これが俺の名前だ」


 マルクーーこの国の王だ。 死に戻り前の晩年は、ヨボヨボの老人だったが、やはりまだまだ若いな。 


 彼は跡取りが居らず、そのためにずっと国王のままだ。 前回の俺はコイツの下で護衛として働いていたが、今回はそのつもりはない。


 俺が許せないのは、俺の最愛のキャスを殺すと言った事実だ。 コイツと戦う理由なんて、それだけで充分だった。


 しかしマルクは、俺を見ると怪訝な表情をする。


 「道化師の仮面だと? 貴様! 奇形教か!」

 「⋯⋯だったらなんだ?」


 俺がそう答えると、マルクは剣を抜いた。 風が、草原を撫でていた。

 

 青草が地平の彼方まで揺れている。 空は青空で、太陽は真上を過ぎたあたりか。

 

 俺は仮面の下で、ため息をついた。


「こんなのどかな日に、老人を相手取らなきゃならないなんて。 心が痛むよ、本当に」

「この俺を老人扱いだと? 俺に対する不敬罪で、うち首にしてくれるわ!」


 おいおい。 誰だよ、コイツをブチ切れさせたのは? お得意の無表情ができてないじゃないか?


 ーーつまり、だいぶお楽しみだった訳か。 そして、相手はキャスか。 絶対に許さん! 別に嫉妬している訳じゃないからな!


 白髪交じりの黒髪に、顔には深い皺。 怒りに震えていても、剣を構える背筋は真っ直ぐで、長剣の切っ先には一片の揺らぎもない。


 やっぱり、挑発しても効果なしか。 むしろ逆効果だなーー


「⋯⋯えっと。 本当にやります?」

「口の減らぬ若造だ。 その軽口、俺の前で何度叩けるか、試させてもらおうか」

「はあ。 そうですか⋯⋯」


 マルクが、俺に踏み込んできた ーー速い。 仮面の奥で目を見開いた瞬間、俺の左肩めがけて銀光が走っていた。 半歩、踏み込む足を止めず、そのまま身体を捻る。 耳元を空気の塊が裂いていった。 風圧で仮面の紐が浮く。


 「っと、危ない。 危うく、仮面がとぶところだったぜ~」


 ここで仮面を外すのは駄目だ。 また、会うかもしれないしーー

 

 軽口を返しながら、俺は反射的に剣を斜め下から跳ね上げた。 鋼が噛み合う音が、草原の静寂をひと裂きにする。 体重を乗せた一撃ではない。 腕の振りだけで、これか! 重たくて、吹き飛びそうだーー


「ご老体、肩はもう上がらない頃合いじゃないので? 無理はよくありませんよ」

「貴様の口を黙らせる程度には、まだ動く。 ⋯⋯小僧身体に合わぬ重さじゃの?」


 ーーバレた! たった一回剣を突き合わせただけなのに。


 しかし、俺は負けじと応戦する。 二合、三合。 鋼が舞って火花が散る。 マルクの剣筋は、相変わらず美しいと思った。 装飾も無駄もなく、ただ最短の線を引くだけの動き。 何十年と振り続けてきた人間にしか到達できない、引き算の極み。


 そして、前回の時に見た、マルクの剣よりも若々しくて鋭かった。


 対する俺は、足を使う。 青草の上を滑るように間合いを調整する。 正面から打ち合っては押し負ける。 それは最初から、わかっていた。


 「⋯⋯ふむ。 足捌きは悪くないな。 誰の教えだ?」

 「秘密です」


 ーーマルク。 お前にだよ!


  俺は左手を懐に滑り込ませる。 指先が小さな鉛玉に触れ地を蹴った瞬間、それを真上に弾き上げた。 マルクの視線が、ほんの一瞬上を追う。

 

 その一瞬で、俺は男の右剣を持つ側の死角へ、滑り込んでいた。 仮面の下で、口角が上がる。


 「もーらいっ」


 突き出した切っ先が、男の脇腹を捉える、はずだった。

 

 「おいおい。 そんな小細工で、俺を倒すつもりか?」

 「⋯⋯!」


 信じがたいことに、マルクは振り向きもせず、左手で柄頭を握り直した片手剣で、俺の刺突を弾いていた。 視線は、今もって上空の鉛玉を追いさえしていない。


 「……いや、参ったな本当に」


 俺は半歩、後ろに跳んで距離を取る。仮面の下で、頬を伝う汗の感触。

 

 草が、風に揺れる。二人の影が、青い波の上で、再びゆっくりと動き出した。

 

 「ふむ。 小僧、面白いではないか! もっと俺に手品を見せてみよ!」

 「へいへい。 見惚れすぎて、命を落とせ! ジジイ!」


  ーー気づけば俺は、前回と同じように、マルクと斬り合っていた。

 

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