第44話 人格の制定 ーーキャス視点
ミアが気絶した後、それを待っていたように、ミス・ファナイが現れた。
「ホホホ。 お見事じゃな~」
「⋯⋯」
私は拳を握りしめた。 今すぐに、彼女を殴りたい衝動に駆られた。
ーーミス・ファナイは、こうなることを知ってた。 なのに、敢えてこの状況を楽しんでいたんだわ。
私の殺意を感じたのか、彼女は軽快に笑い出す。
「おやおや? いいのかの~ そんな態度で? ⋯⋯ホレ、頭を下げるのじゃ! ファナイ様、どうかお力添えを下さいとな~」
私が憎しみの気持ちのまま、頭を下げようとした時ーー
私の前にミートがきた。 彼女は目で、私に頭を下げるのを止めたわ。
「ちょっと! さっきから、黙っていたらなんです? ミアちゃんやキャスたちを実験対象として、弄んでいるんですか?」
「ムム。 人聞きが悪いのう? お主、儂を誰だと思っておるのじゃ?」
「そんなの、関係ありません! 私は彼女たちの保護者として守る義務があるんです」
睨み合う二人。 ミートはミス・ファナイのことを、尊敬していたはずなのに、私たちのために、対立してくれているのねーー
先に折れたのは、ミス・ファナイだった。 やれやれと言わんばかりに、ため息を吐いて、ぶつぶつと呟き始める。
「⋯⋯できたぞい。 今からキャスを触媒にして、ミアの記憶思考媒体に送り込む。 そこで思考サンプルを採取して、ミアの人格を制定するのじゃ。 ⋯⋯当然、下手をすれば、身や心の保証はせんぞ? どうするのじゃ? やるのか?」
ファナイが私を見ているけど、そんなの決まっているわよ。
「いくわよ。 絶対に助けるからね、ミア!」
こうして私は、ミアの世界に入っていったーー
◇◇◇
ミアの世界から出てきた私を、みんなが見つめているわ。 彼女の意識の中は、混沌としていて、訳がわからなかったわねーー
ミス・ファナイは、なんでもない様に立って、こちらを待っていた。 そんな彼女には、用紙が一枚握られていた。
「ホレ! ボンクラなお前たちの代わりに、儂がミアの存在を要約したぞい。 儂の偉大さに頭を垂れよ!」
私は彼女から渡された用紙を、読み上げた。
家族や村人の前では、無表情で感情の薄い「廃人めいた少女」。 痛みにも侮辱にも反応せず、ただ生きているだけの抜け殻、というのが周囲から見える姿。 実際には聖女の力を隠し、傷を自分で治しながら虐待をやり過ごしてきた。 「笑う」という動作すら知らないと言うほど、感情表現の機能を意図的に殺している。
ミアの本質は、「読者」つまり貴方に向けてだけ語りかける、極めて饒舌で粘着質な独占欲の塊。 彼女は別人のように生き生きと喋り、嫉妬し、殺意を漏らす。
核となる性質は次の通り。 徹底したメタ認知 。 自分が物語の登場人物であり、読者に読まれていることを自覚している。 作者にダメ出しまでする。
排他的独占欲 。 貴方に近づく者すべてを敵視。 具体的で猟奇的な空想を息をするように行う。
自己評価の歪み 。 自分こそが「本当の聖女」「本当のヒロイン」だと信じて疑わない。 自分以外の聖女は許せない。 一方で「神聖」という言葉は自分には無縁だと感じてもいる、矛盾した自己像を抱えている。 村人にも家族にも崇められたくない。 貴方の瞳に映る自分だけが価値の全て。 だから聖女の力を隠していたし、苦しみさえ「エピソードのスパイス」として消費する。
ーーだがしかし、貴方の視線がないと悟った時に出てくる、やさぐれた口調の普通の少女に近い面。 毒舌でツッコミ気質。 これがおそらく虐待で歪む前の、本来の彼女に最も近いと推察する。
「オホホ。 儂はすごいじゃろう? ⋯⋯それで、どうするのじゃ? いくらでも、変更可能じゃぞ? どんなキャラになるかワクワクじゃの~」
ミス・ファナイはミアを見て、舌なめずりをする。
ーー残念だけど、アンタの思う通りにはさせないわよ!
「決めたわ。 ミアの性格は⋯⋯」
私の答えを聞くと、彼女は顔を歪めるのだったーー




