第36話 本当の天使 ーーミア視点
憎くて仕方ないキャスに抱きかかえられ、空を飛んでいた時にミアは目を覚ましたの。 彼女はミアのことを心配して、呼びかけてきやがったの。
「⋯⋯⋯! アンタ大丈夫? 酷い怪我! 魔物にやられたのかしら?」
「誰? 天使様なの?」
「ふふ。 残念ながら真逆の存在よ⋯⋯」
「そうなの? でも⋯⋯美しいの⋯⋯」
ーーそう、あの時のキャスは本当に綺麗だったわ。 キャスの背中にある黒い羽が、ミアの汚れた体を覆い隠していたの。
でもね、キャスが「天使」だなんて勘違いしたのは、キャスの魔力がミアの理性を狂わせたからなの。 絶対そうに違いないのよ?
サキュバスの力は、同性でも通じるの? ミアはそれが悔しくて仕方がないの。
キャスが人間に溶け込むために着ていたその白いスカート、本当に不愉快なの。
さらに、人間を誘惑するために聖女の仮面を被るなんて、許されるはずがないもの。 キャスなんかのせいで、ミアのアイデンティティがなくなるなんて、許せるはずないの。
ねえ、貴方はキャスのそんな偽りの姿に惑わされたの? ふふ。 いいえ、そんなはずはないわよね。 だってミアだけが、あなたの本質を理解して、貴方を一番愛しているのだから。
ねえ、ミア以外なんて見ていないって、今すぐ誓ってほしいの! ミアが貴方の全てなの!
「⋯⋯うん。 ここは⋯⋯」
「よかったわ。 意識が戻ったわね」
「天使様! ミアをお迎えに来てくれたの?」
「ふふ。 よく見て! 私をもっと⋯⋯」
「艶めかしい声なの。 それに綺麗な顔! 体型はとっても、整っていてバランスが美しいの」
「ええ? ⋯⋯そんなに褒めてくれるの? 嬉しいじゃない⋯⋯」
「それから、白い服の中に黒い下着が見えるの。 しかもほとんど紐なの」
「下着だから、当然よ。 ただ、恥部を隠せればいいの! ⋯⋯って違うわ! 他にも、もっと目立つところがあるでしょう?」
なんて厚かましい女なの! キャス、わざとらしく自分をさらけ出して、貴方の視線を奪おうと必死だったのね。 その「紐」のような下着だって、ただの誘惑に過ぎないわ。
そんな卑しいものを見せつけられて、貴方はまさか、少しでも興味を惹かれたりなんてしていないかしら? ミアはとても心配なの。
それよりもミアを見て! ミアの体は、貴方だけのためにあるの。 あんな薄汚れたサキュバスの体なんて見ないで、ミアだけを見てよ!
ねえ、ミアの方を向いて、愛してると言ってちょうだいなの。
「ただいま! 大変よ、ネコミミの子が傷ついているの!」
「おかえりなさいです! 早くこちらへその子を⋯⋯」
「えっ! 服もボロボロだよ。 どうしたんだろ?」
次から次へと! あの女たちが、貴方の手を煩わせるなんて許せないの!
彼女たちがミアに触れるたび、ミアの胸の中にはドロドロとした黒い感情が溢れてくるの。 ミアのことを見つけてくれたのは貴方なのに、どうして他の連中がミアの身体に触れて、貴方との時間を邪魔するの?
ねえ、彼女たちのその「治療」なんて必要ないの。 それよりも、ミアが貴方の手を取って、今すぐ二人だけでどこか遠くへ逃げ出したいの!
ーーそのためなら、邪魔なあの子たちの指先を全部、ミアが切り落としてあげるの。
こんな奴らの前でミアの力を使うのは癪だけど、貴方が見ているからアピールするの!
さあ、見て! これが本当の天使、聖女様なの!




