第35話 貴方が迎えにきたの ーーミア視点
昔のことを思い出す時、ミアはそっとネコミミを指先でなぞるの。
あの村の空気は冷たくて、いつも心が凍えそうだったけれど、ミアには何も感じられなかったわ。 だって、その時からミアの心は読者、つまり貴方に出会うためだけに空っぽになっていたのだから。
ーー別に壊れている訳ではないの。 そう、ミアは言い聞かせる。
だから、村の人たちに何を言われても、どんなに疎まれても平気だったの。 それが実の家族であろうがなかろうがね。
ミアの世界には貴方という唯一の救いが必要だったから、他の誰かの言葉なんてノイズに過ぎなかったのよ。
ミアはただあなた以外のすべてを遮断して、貴方だけを迎え入れるための準備をしていただけなの。 ねえ、ミアのその孤独な過去を、今度はあなたの温もりで全部埋め尽くしてほしいなの。
ーーだから聖女のことも秘密にしていた。 だって貴方以外に崇められても、ミアはまったく満たされないの。
ミアが苦しんでいる様子はきっと、貴方とのエピソードを深めるスパイスになるの。 だからミアは、耐えて日々を生きていたの。
◇◇◇
そんなミアについに迎えがきたの。 ある日、家族に暴行を受けていた時、せせら笑う家族たちの前でミアは、いつも通り傷だらけになっていたの。
痛くて辛いけど、貴方のために耐えていたのよ?
「⋯⋯ひい⋯⋯ひい」
「はは、さすがにやりすぎたかな?」
「ボロ雑巾みたいだなぁ、コイツ」
「コラ。 これ以上ミアを壊したら、使えなくなるだろ? ⋯⋯おい、さっさと買い物に行けや!」
そして蹴り飛ばされて、家からボロ布一枚で放り出されるミア。 フラフラの体は思う通りに動かなかったの。
ーーああ、楽になりたい。 神様、私を自由にしてください。
「⋯⋯⋯! アンタ大丈夫? 酷い怪我! 魔物にやられたのかしら?」
朧げな意識で見ると、そこには黒い羽とツノを生やしたサキュバスーーキャスがいたの。
ーーそして、貴方も。
ミアはやっときた貴方に安心して、気絶してしまったの。
でも、ミアは貴方と一緒にきたキャスが気に入らなかった。 貴方のストーリーのヒロインはミアだけでいいの。 そして、ヒーローは貴方なの。
ーーハーレム? そんなモノ貴方には必要ないの。 貴方はミアだけを見て?
キャスがミアに触れるなんて、虫唾が走るわ。 あの時、ミアを助けたふりをして、どれだけミアを支配しようとしたか、今でも忘れていないの。
キャスの偽善的な優しさなんて、ミアには必要なかったのに。
ミアが本当に求めていたのは、キャスの温もりなんかじゃなくて、貴方だけだったのよ。
せっかくの運命の出会いが、あんな不愉快な影に邪魔されるなんて!
ねえ、キャスをミアの視界から消し去って、二人だけの続きを演じましょうなの。




