第9話 彼女たちの晩食 ーーフレイア視点
ここはとある酒場。 今日の仕事終わりの、晩御飯をしている最中よ。 私の目の前には、極薄食パンが一切れだけ置かれている。
私はその食パンを悲しそうに食べる。 そして悲しい表情でアピールーー それは、横にいる二人にご飯を恵んでもらうためである。
私は悲しい表情で、向かいにいるリディを見た。 すると彼女はその顔を醜悪に染めた。 なんて悪い顔つきなのかしら。
「おやぁ? どうしたのかなぁ、フレイアちゃん? 私の胸をじっと見て。 私の豊満な胸を揉みしだきたいのかしら?」
「ひゃー! ち、違うわよ、私が見ていたのはアンタのフォークよ! とても美味しいそうなお肉ですね? 私にも一切れ頂戴!」
「まあ。 相変わらず、乞食がストレートなのね⋯⋯別にいいけどそのかわりお代はもらうわよ? ふふふ。 貴方の豊満な体⋯⋯そそるわね」
リディはそう言うと、私の体を見て、舌舐めずりをした。 私は震え上がるーー
彼女は、私の体を貪るつもりだわ。 怖くなった私は、震えながら両手で体を守る。
「ま、まあ。 アンタからはやめとくわ⋯⋯」
「アラ残念。 気が変わったらいつでも言ってね?」
私のことを残念そうな表情をしながら見る彼女ーー 今夜、夜這いされそうだわ。
私は逃げるように視線を外す。 ーーそうよ、リディなんかよりもいいターゲットがいるじゃない! 大量のご飯が目の前にねーー
私は同じテーブルで食べているルーブに声をかける。
彼は、私にとってはとんでもないほどのご馳走を、まるで作業のように噛み砕いている。 笑顔も見せずに食べるなんて、この行為は世界的過失よ! そうよ、この大食い馬鹿にご飯を恵んでもらいましょう!
私は、目をウルウルさせながら、ルーブを見つめる。 しかし奴は私のことは眼中にないらしいーー
私は彼の態度にイライラしていた。 今の気持ちは熟年離婚前の夫婦だ。
「そこの、大食いさん。 目の前に可憐な乙女が乞食をしているのに、無反応なんて酷いと思わない?」
「⋯⋯⋯可憐な乙女? ああ、向こうの座席に座っている奴か?」
「向こう⋯⋯?」
ルーブが向こうに指差した。 私はその方向に目を向けると、イカツイ女性冒険者パーティがドンチャン騒ぎをしていた。
酒を飲み、どんちゃん騒ぎをしている彼女たちを見て、可憐な乙女ですって?
やれやれね。 どうやら、コイツの目は曇っているらしいわねーー
私はルーブが指差している手を両手で掴み、私に向けようとする。
だが、テコとして動かない。
コイツ、相変わらず、どんな筋肉をしているのよ! 諦めた私は、その方向に立つことでアピールをした。
「アンタの目は節穴かしら? ⋯⋯ここにいるでしょう? 可憐な乙女が!」
「ハア。 お前のどこが可憐なんだか⋯⋯」
「ちょっと! 聞こえたわよ! ⋯⋯貴方のことが大好きな、フレイアがお願いしているの! さあ、ご飯をわけなさいよ!」
ついに私は、積極的にアピールした。 これで完璧でしょう?
しかしルーブは怪訝な表情で私を見つめながら、私に告げるのであった。
「それが、ご飯を恵んでもらう奴の態度か? ずいぶんと、偉そうだな⋯⋯」
「尊敬なるルーブ様! このひもじい私のために、どうかご慈悲をください!」
私はそう言うと、イスから立ち上がり跪く。 そして、床に頭をつける。
これはいにしえから伝わる『土下座』と言うポーズだ。
その時、なぜかさっきまで賑やかだった、酒場が静まりかえったーー
どうしたのよ? 私が慌てて頭をあげると、顔に手を当てて、残念そうな表情をするルーブがいた。
そして、私を憐れみの表情で見つめながら、こう言ったーー
「おい⋯⋯お前はエルフだろ? プライドはどこに行ったんだ?」
「プライド? なにそれ、美味しいのかしら?」
「お金がない訳じゃない癖に⋯⋯自分で頼め!」
「だって、だって! お金がもったいないでしょう? ネェ? 一口だけでいいから、ちょうだい!」
「ハア。 まったく仕方がない奴だ⋯⋯」
「ありがとう! 大好き~」
やっぱり、私にとって大事なのは、プライドよりも金ズルよね?




