第28話 この世の善と悪
「ははは。 まったく儲かって過ぎて笑いが止まらんの~」
この場所の現管理人ーーグレギは笑い転げていた。 ここに赴任して、数年が経つ。 全領主が指揮っていた花畑思考の政策は撤廃して、利益優先で推し進めてきた。 ーーその結果、ただの放牧地だったこの街は、今では立派な観光名所である。
「さて、今日はどの子にしようかなぁ? グフフ」
そんなグレギの頭は、公務後の戯れしかなかった。
ーーそんな彼の部屋に、窓から客人がやって来た。
「うん? なんじゃ?」
「こんにちは~」
「オフォフ! べっぴんさんじゃの!」
「寒いわ~ ここを開けてくださらない?」
みると、布一枚しか着用していない美女がいるではないか? 衣類はどこで脱ぎ散らかしたのだろうか?
「ほほう。 これは、これは。 上玉じゃの~ 決めた! 今日はこの子にするぞい!」
「⋯⋯まあ、嬉しい! 優しくしてね~」
グレギは、窓を開けてた。 中に彼女が入ってくる。
「ありがとう。 私の名前はキャスと申します⋯⋯」
「おお。 キャスたんか! かわええの~」
そしてキャスは、身に纏っていた布一枚を脱ぎ捨て、黒の下着姿になった。
「オホ。 こりゃたまらんの~ 力がみなぎって⋯⋯」
力がみなぎって来たーー そう言おうとしたグレギは、尻餅をついて倒れる。
「なんじゃこれは? 力が抜けたわい⋯⋯」
「あれ~ まだ喋れるんだ~」
キャスは隠していた、翼とツノを出す。
「貴様はサキュバス! ⋯⋯バカな! 既に滅んだはずでは⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
「えい! 敵襲じゃ! であえ、であえ!」
「ざんねん~ お仲間さんたちは今ごろ⋯⋯」
すると部屋のドアが空き、中に獣人が入ってきた。
「お姉さん! 敵は殲滅したであります!」
「大丈夫。 殺してない」
「ご苦労様。 ミリィ、ラム!」
哀れ。 兵たちは亜種どもの餌食になってしまった。
「なんじゃ? 殺してないじゃと? ⋯⋯舐めたマネを。 お前たち魔族はこれだから⋯⋯一体なにが目的だ!」
「そんなに怒鳴らないで~ 元気ね~ 私たちが求めることは簡単! ⋯⋯今すぐに、この街から出て行きなさい!」
「⋯⋯クク。 傑作だ⋯⋯グハハ」
キャスがそう言うと、突然グレギが狂ったように笑い出した。
「な、なにがおかしいの?」
「無知な奴らだ! なにもわかっていない。 ⋯⋯俺を追い出したければ、外へ放り投げでもしたらいいものを!」
すると、グレギが起き上がり、キャスに飛び掛かる!
ーーやれやれ、仕方がないな。 俺は部屋に立てかけている、銃をグレギの頭に向けて撃つ。
「オイ! 無防備な丸腰女! 正体がわかれば、お前など敵では⋯⋯グハ」
「キャ! ⋯⋯なに? なにが起きたの?」
「この人、死んでいるです⋯⋯」
「はは。 武士の情けだ。成仏させてやったのさ」
俺が声をかけると、キャスが怒りを露わに、睨んでくる。
「やあ、キャス。 元気だったかい?」
「アンタ。 なんてことを⋯⋯」
「コイツ? ⋯⋯ああ、しがないただの管理人さ。 死んでしまったから、元がつくねぇ」
俺はソファーに座って、くつろぐ。 まったく余計なことをしてくれたね。
「君たちはさ。 自分たちのしたこと、わかっているの?」
「ハァ? ⋯⋯アンタがこんなことをしなければ、この街は平和に⋯⋯」
「平和に、放牧地として再始動出来る? ⋯⋯甘い、甘いよ! キャス。 一度この街は堕ちちゃったのさ。 見てよ、この景色! もう過去に戻ることはない」
俺はキャスを見つめる。 しかし、睨まれた。 悲しいーー
「それで? 今日から、昔に戻りましょう、って? ムリムリ。 みんな、捨て切れないからね。 ⋯⋯まあ、例え出来たとしても、今度は周りが許さない。 わかる? またやって来るんだよ! 貴族が兵を連れて! 君たちに守れるかな? ただでさえギタギタな状況のこの国を。 ⋯⋯どう? わかった? だから諦めて二人でここから出よう!」
俺はキャスに手を伸ばす。 しかし、弾かれてしまった。 なぜだキャス! 俺はこんなにも、君を思っているのにーー
「⋯⋯はは。 強情だね、キャス。 でも、これが世の定めなのさ⋯⋯」
「違う。 アンタは間違っているわ! ⋯⋯私たちは知った。 お互いに分かり合える存在なんだってことを! 君が勝手に決めつけないで!」
「⋯⋯だったら、俺の気持ちもわかるよな? 俺は、キャスと一緒にいたいだけなんだ⋯⋯」
「それは⋯⋯」
キャスは少し逡巡した様子を見せたが、決意したように俺を見てこう言ったーー
「撤回するわ。 ごめんなさい。 今のアンタとは、分かり合えないわ⋯⋯」
はあ! おいおい。 なんだよ、それ? 俺がキャスと分かり合えない? 俺はキャスのために頑張ってるのに。 無駄だったなんて。 だったらーー
俺はなんで生きているんだ?
認めない! あり得ない、あり得ない。 あり得ない!
「ああ、クソ! なんでなんだよ~」
「ちょっと、どうしたのよ! 待ちなさい!」
「嫌だ~ 俺は! 俺は!」
俺は、窓から飛び出していく。 逃げたい。
ーーそしてそのまま、街を一人で離れていった。




