第100話 ダンジョンの孤独
『ククク……どうだ我の力は? 凄いだろう』
「場所を変えるわよ!」
『ナニ? ハハ、敵わないと悟って、時間稼ぎか?』
「いいから! 早くしなさい!」
『な! お、おう……』
いかにも、自らを自慢している声が、ダンジョンに響いた。 けど、まったくわかっていない。 ーー所詮怪物だね?
ここで戦ったら、お金が粉々になるでしょ? そんなこともわからないなんて。
「アメジスト、吹き飛ばして」
「おうよぅ!」
大男が、大金槌を振りかぶった。 黒い脚に、金槌が叩き込まれる。
ーーごう、と。 まるでボールのように、門の外へ追いやることに成功した。
『……これでいいのか?』
「ええ! さあ、バトルしましょう!」
吹っ飛ばしたのに、外殻には、罅一つ入っていない。 接待されてくれたんだね?
「硬ぇなぁ、おい!」
『クク。 我の体は鋼鉄よりも、頑丈なのだ。 凄いだろう?』
ーーなんか。 よく喋るね? 久しぶりの話相手ができて、喜んでいる奴みたい。
二撃目、三撃目。 アメジストは金槌で外装を攻撃していたけど、効果はいまひとつのようだ。
それに対して、化け物がアメジストに鉤爪を振り下ろした。
「ぐっ!」
アメジストが、金槌で受ける。 ーー床が、めり込んだ。 危なかった! あそこで戦っていたら、お金がぺしゃんこになる所だったよ!
「オパール、私たちも行くわよ!」
姉さんが、横から斬りつけながら叫んだ。 ーー両手剣が弾かれる。 ターコイズ謹製の刃でも通らない。
私は杖を握りしめた。 ーー物理は通らない。 なら、魔法ならどうだろうか?
そんなことを考えていると、姉さんがターコイズに質問をしていた。
「ターコイズ! 本当にコイツを倒したら崩壊するの?」
「ええ。 ですから、打つ手無しですね。 逃げることをオススメしますが?」
「「嫌! お金の前で逃げるなんてあり得ない」」
当然の問答だね! お金と命どっちも、私たちのものだ!
「待って」
私は、ふと気づいた。
「オニギスは?」
「……」
「オニギス、どこに」
化け物の体を見上げる。 黒い巨体。 オニギスの意識は、もう残ってない?
「中にいるよね? 説得したら……」
「無駄です」
ターコイズは、首を振った。
「あれは、器の人格が主導権を握った状態です。 オニギスの意識は、沈んでいます。 ……あるいは同化したかも知れませんね」
ーーそんな! オニギス。
『フハハ! 相談中か?』
化け物が、そんな私たちを嗤った。
『どうせ、答えなど出ぬ。 ……我を倒して、このダンジョンから逃げ出す以外はな?』
「?」
ーーなんか態度がおかしいな? まさか、オニギスの意識が入ってる?
黒い巨体は、両腕を広げた。
『我を傷つけなければ、終わりぞ。 魔法でも打って見るがいい!』
ーー本当に、腹の立つ相手だね。 自ら、死にたがるボス敵なんて。
「……ねえ、一つ聞いていい?」
『なんだい』
「……本当にダンジョンの人たちを食べたの?」
『そうだ、絶望を喰らうのが我の……』
「そうじゃなくて」
私は、杖を下ろした。
「……ずっと、そうやって生きてきて。 嫌になったんだよね? オニギス」
ーーぴたり。 化け物の動きが、止まった。
『……なんのことだ。 奴はもう消えた』
「嘘だよ」
『なにを根拠に、そんな世迷言を……』
私は続けた。
「人を呼んで、欲を集めて、溶かして、飲んで。 それをずっと。 辛かったよね」
黒い巨体が、沈黙した。
『……知らぬ。 楽しいも、つまらぬも。 我は知らぬ。 我は、腹が減るから食う。 それ以外を、知らぬ……知らなくて良かったのに』
「……だからか」
私は、理解した。 ーーこの哀れなダンジョンのことを。
「だから、オニギスが抜け出たのね」
『……何?』
「あんたの『知らない部分』が、形になって出ていった」
私は、化け物ーーオニギスを見上げた。
「楽しいことも、悲しいことも、くだらないことも。 全部、知りたがってた」
黒い巨体が、揺れた。
『……あれは、我の失敗作よ』
「違う。 あれは、貴方がなりたかったものだよ」




