第92話 開かれる扉
階層を降った先には、大扉があった。 この先が、俺の願いを叶える場所だ。
天井に届くほどの鉄扉。 道中の通路とは異なり、明らかに作られた扉だ。
そして、その前に。 あの老婆ーーミス・ファナイが待ち構えていた。
「ようやく来たか、待ちくたびれたぞい」
「テメェ……」
ミス・ファナイが、指輪の嵌まった手を広げた。
「へえ。 わざわざ、お迎えご苦労様だよね」
「う〜ん。 このおばあちゃん、どこかで会ったことあるの」
「おやおや、ミアよ。 儂のことを忘れてしまったか? お主のために、ひと肌脱いでやったと言うのに……」
「脱ぐ? 変態なの、この人!」
「ミア下がって! 危険だ」
エメラルドが、ミアの前に出た。 庇っているつもりなのだろう。
俺はそれらを無視して、扉に向かう。 ーーこの会話に必要性を感じないからだ。
「まあよい。 儂は今、気分がいいんじゃ。 ようやく願いが叶うからのう」
俺は大扉に手をかかげた。 さあ、開け! そして、俺の願いを叶えろ!
ーーしかし。 扉はびくともしなかった。
「どういうことだこれは? まさか、嘘だったのか……」
「嘘ではない。 ……ただ、お主が勇者だと、認められていないだけじゃ」
「なんだと?」
ファナイは、あっさりと言った。
「ダンジョンは見ていた。 お主が、ここに入ってから何を成していたか……」
「……なにが言いたい?」
「お主は、勇者ではない……愚者だ」
「ハア? ふざけんなよ! ……俺は、俺こそが勇者だ!」
「落ち着くがよい」
ファナイが、手を軽く振った。 すると地面から触手が出て来て、俺を拘束する。
「……お主はこのダンジョンで何を成した? 聖女を拉致し、冒険者を斬りつけ、傷だらけになった上、ついには『魔物』に下へ運ばれて……」
「……」
「そして、自らは何もせず、ただ吠えるだけ……そうかと思えば、自分だけ一目散にゴールを目指す……これのどこに、勇者の要素があるのじゃ?」
魔女は、背後の扉を見上げた。
「この扉はな、勇者にしか開けられん。 愚者であるお前には、不可能じゃ」
「……なんだよ、それ?」
ーー俺は、無数の触手によって、床に押し付けられた。 土の味が口に広がる。
ファナイは、俺から視線を背けた。
「じゃが、問題ない。 勇者はここにおる……」
「ハア? なにを言って……」
「言葉通りじゃ」
ファナイは、扉を指した。 そして、言った。
「勇者よ、今閉ざし扉を開けよ! ……そして、願いを叶えるのじゃ!」
ーーコツコツ。 俺の後ろから、足音が聞こえた。 そして。扉は開かれた。
「なるほど……僕は、このダンジョンに認められたのか……」
俺は顔を上げる。 ーーエメラルドは俺を一瞥して、奥に進んで行った。




